救助
机から背を向けて、
携帯電話で話していたカナエが急に振り向いた
自衛隊の士官と、市長が心配そうにカナエを
見つめている
カナエは空気を切り裂くような
よく通る声で言った
「そろそろ、患者を運んだヘリが避難所から
戻ってくるでしょ?
新しい任務よ!
このショッピングモールから
1キロほど離れたマンションで、
怪我人が出たわ
至急、ヘリを向かわせて救助してちょうだい」
若い士官は背筋をピンと伸ばして、
カナエに了解したことを告げた。
市長はため息をついていた
カナエは、役員室の隣にある小さな給湯室に
入っていった
そして、小さな部屋で一人、
意味不明の行動を取り始めた
両手で頭を抱え込むような動作をすると
ブラウン色のまっすぐな髪の毛を
掻きむしるようにした
髪が乱れたまま、顔を上げると、
しばらく肩でハアハア息をした
天に向けて拳を突き上げた後、
水平に空パンチを数発放つ
そして、思い出したように
懐からコンパクトミラーを取り出して、
乱れた髪を直し、軽くメイクし直した
ビシッとしたスーツの皺を丹念に直し、
カナエは再び役員室に戻っていった
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マンションの地下2階の核シェルターの居間で、
タロが言った
「どうやら、自衛隊のヘリが
救助に来てくれるみたいだ....
カナエが自衛隊すらも
動かせていることについては、まあ、
今更驚くことはないが
ミカ、大変だと思うが、
屋上のペントハウスまで行かないといけない。
準備をしよう」
タロは、倉庫からクリッパーを取り出した
ミカに、左肩に刺さった矢を持って固定してもらい、
背後から突き出した長い矢を
皮膚から数センチのところで切り取った
ミカの身体がピクリとなった
前の部分も同じく切り取り、
ミカの左肩を身体の前後から
数センチの棒が突き出している感じになった
「ほとんど、出血はないみたいだな。
身体の重要な組織は大丈夫だと思うが
やはり、抜くのは専門家に任せたほうがいい」
ミカが言った
「あのう、すいません、また私が
足を引っ張っちゃったみたいです...
ショッピングモールのカナエさんにも本当に
感謝しないと」
眼鏡越しの大きな目は、少し潤み、
眉はハの字型に情けなく垂れ下がっている
タロはミカの長い黒髪を撫でて言った
「何を言ってるんだ、
ミカには何の落ち度もない、
あの、サイコパス集団がすべて悪い。
一気に4人も殺してしまったが、
でも、全くもって俺の中に罪悪感がない
そんなことよりも、ミカが強運の持ち主で
本当に良かった、
君は幸運の女神かよ!」
(幸運の持ち主なら、
矢に当たったりはしませんよ)
ミカは、そう思いながらもタロが居てくれる
頼もしさに身をゆだねていた
タロは、大きなショルダーバックの中に
荷物と銃器を詰めた
ミカも、着替えとスマホを手早く
リュックに詰めて出発の準備を整えた
しかし、タロは思い出したようにハッと両手を
頭の上に被せて、悲嘆にくれた表情になった
「しまった!そういえば昨日、俺はあいつらに
チ〇チ〇を見せつけてしまったんだった!
あああ、なんてことをやっちまったんだ俺は、
やらなきゃよかったよあんなこと!」
....後の祭りとはそういうことだ
やがて、ペントハウスのさらに屋上に
二人は居た。
マンションの屋上には、
びっしりとソーラーパネルが設置されていて、
この場所だけが唯一、ヘリでの救助が行えそうな
場所なのだ
そして、ショッピングモールの方向から
一機のUH-1 ヒューイヘリがやってきた
今までは恐怖と不快の象徴だった
ローターの轟音が、今や頼もしい
ミカが、自衛隊員によって
上空にホバリングしているヘリに
収納されていく
タロは、ふと、自分は残ろうかと
思った
(カナエなら、救助したミカに対して
責任感を持ってくれるはずだ
彼女にミカを託して、俺は...)
しかし、自衛隊員がこちらに降下してきて
結局、タロもヘリに収納された
(こういう光景だと、自衛隊員の姿に
畏敬の念を感じるな)
タロは、ショルダーバッグの中から
酒瓶を数本取り出した
親父が残していったかなり高級なブランデーだ
自分は酒は飲まない
「本当にありがとうございました、
これは感謝の気持ちです」
タロから酒瓶を渡された自衛隊員の目は
輝いていた
酒瓶を受け取った彼は言った
「妹さんが無事に手術を終えるといいですね、
実は、先ほど避難所から患者を何人も
病院に運んできたんです、
今日は枕を高くして眠れそうです。
もしかしたら、
酔いつぶれているかもしれませんが」
二人は笑った




