輝き
翌朝、2人はマンションの屋上の
ペントハウスに居た
駐車場の人型は合計10体になっていた。
目の前の道路には、車両と重機の残骸
居間のテーブルの上に広げられている
ノートパソコンを見ながらタロは言った
「やはり、ギャラクシーキングには
勝てなかったな、何事も早まっては
ダメってことだ。
まずは、偵察してから状況を把握、
対策はじっくりと考えよう」
とは言ったものの、こちらには
向こうに対する攻撃手段なぞ無い
(毒だ、毒で殺るしかない、
ドローンで何気なく食料を運搬するフリを
して、何気なく重機レンタル会社の敷地内に
毒入りの食糧を落とすんだ。
でも、どうやってさりげなく食料を落とす?
ビニール袋に切れ目を入れておくか?
うまい具合に敷地の上空でビニールが破ける
方法を考えないと)
”お得生活セット”には、園芸用の注入器が
入っていた。
缶詰のラベルを剥がして、缶に小さな穴を開け
”お得生活セット”の材料で作った毒を
注入、ラベルを元通りに張り付ければ
毒入り缶詰だ
しかし、ミカが協力するだろうか?
タロの目の前には、掃き出し窓の前に立って
離陸させたドローンを操縦するミカ
中学校の大き目のジャージ姿に、
長い黒髪の後ろ姿は、じっと何も語らず
淡々と作業をこなしている
「よし、この辺りで降下しよう。
あまり近寄ると、ドローンを撃ち落とされる
かもしれないからな」
このマンションはこの辺りの建造物で一番
背が高いものの、
300メートル先の重機レンタル会社は
周囲を家屋に囲まれていて、ここからだと
目視は難しい
ドローンの腹に括り付けれた
2台の無線式カメラの映像は、
ノートパソコンの画面に映し出されている
ミカがドローンをホバリングさせたまま、
ノートパソコンの画面を覗き込んできた
「敷地内の重機や車両も少なくなりましたね、
人も全然居ません。
あっ、あそこ、会社の建物の入り口の近くに
子供が居ますよ!」
タロとミカは目を見張った
カメラをズームしてみる
薄汚れた格好の子供が2人、ママゴトのような
遊びをしていた
タロは片手で自分の口元を覆ってしまった
2人は、地面の土をこねて、
おにぎりのようなものを作って、
それを並べている
小さな女の子と、更に小さな男の子だ
2人は姉弟なのだろうか?
一心不乱に、土をこねて
大量のおにぎりを作成していた
タロの中にあった馬鹿な考えは
吹き飛んでいった
「大変な間違いだった....
ミカ、ドローンで運べる重量は
どのくらいだろう?
まずは、カップ麺とかお菓子みたいな
軽いもので試してみようか」
ミカの顔がふいに輝いた
「はい、やりましょう!
タロ隊長、私たちの今日の任務は
救出作戦です!
ええっと、そうですね、
とりあえずドローンに積めそうな食料を
この屋上に持ってきましょう!」
タロは頷いた
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ミカが、ドローンから食料の入った袋を
地面に降ろす練習をしている
丈夫な紙袋を選んだので、地面に降ろしたら
それは直立する
ドローンをそのまま降下させて少し後ろに
スライドさせ、紙袋だけを降ろす
カメラを取り付けてある汎用取付金具に
棒を一本横に突き出すように取りつけ、
それに紙袋を引っ掛けている
ミカの真剣さがこちらにも伝わってくる
「ミスターホワイト、あんたは俺たちを
馬鹿げていると思うだろうか?
地上に農場を持っているあんたとちがって、
俺たちには食料の生産手段はない。
誰かに与えれば、減っていくだけだ
何よりも、敵に生きる手段を
与えていることになる
でも、2000年以上前に、とある
偉大な男が言っていたではないか、
人間はパンだけでは生きていけないと」
ミカを見つめながら独り言をつぶやくタロ
長い黒髪に眼鏡を掛けたその横顔は
とても真剣で、そして輝いていた
「ミカが今、放っているその輝きこそが、
彼が言っていたことなのかも
しれないな...」
ミカにも独り言が聞こえたみたいだ。
タロのほうをちらりと向いて言った
「タロさんこそ、今、とてもカッコよく
輝いてますよ....
すぐに決断してくれましたね
私は、とても嬉しかったんです」
やがて、ドローンは飛び立っていった
見事な操縦で、紙袋を下げたドローンが
重機レンタル会社の方向に向かっていく
「よし、敷地内に入ったぞ、
そのまま降下してくれ。
ほら、あの姉弟が気付いたぞ、
こちらを指さしているぜ」
ミカも、タロと一緒にノートパソコンの画面を
覗き込んだ
小さな女の子と更に小さな男の子が
口を開けて指を指しながら、
こちらを見上げている
そして、彼等と地面がどんどん
近くなっていった
ミカは地面に紙袋だけを置いて、
ドローンを再び上空に飛ばした
敷地内を離れて上空にホバリングしながら、
地上の姉弟を見守る
2人は、紙袋の中を探っている
やがて、携帯食のライトミールを
取り出すと、その場で開けた
地面に座り込み、肩をピッタリと
くっつけあいながら、
無我夢中でライトミールを貪る姉弟
(もしかしたら、ヒャッハーどもは全滅して、
中に居るのは無力な人たちなのかも)
どうやら、タロの予想は当たっていたみたいだ。
会社の建物の中から、女性社員が数人出てきた
タロは言った
「次は、缶詰を運んでみようか、
例の完全食をね。
栄養ドリンクも箱買いしてあるから
何本か持っていこう、
しばらくドローンを往復させることになるが
ミカ隊員の頑張り次第だ」
ドローンをペントハウス内に戻した後、
ミカは床に崩れ落ちた
四つん這いになりながら、肩を震わせる
そして、眼鏡を外して
目をしきりにこすり始めた
タロは思った
(昨夜の贖罪か...あの時、俺に
言ってしまったもんな、
自分は引き籠りを続けたいと。
その為に俺が罠のスイッチを押すのを
見ていることしかできなかった)
タロは椅子から立つと、
静かにミカのほうに歩み寄った
四つん這いになっているミカの側にかがみこみ、
突き出した尻を無意味に叩いた
そのままさりげなく、
手をミカの背中にもっていって
優しくさすってあげる
しかし、しっかりとブラ紐の感触を得ていた
さらに尻のほうへ手をスライドさせ、
デラックスな感触を味わう
そんな光景を、遠くから、
胴体に青いラインが入った
高性能ドローンが監視していることも知らずに