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秘密の穴


「ごめんなさい、実はドアの窓からこっそりと

 中を伺っていたんだけど...

 その...ミカちゃんがタロちゃんの側を

 離れたから、話が一段落ついたと思って

 入ってきちゃった」



しかし、その声を聞いたタロは厳しめの声で

こう言った



「カナエ、俺の側に近寄るな!」



集中治療室のドアを開けて入ってきたカナエは、

その声にピタリと止まった


カナエに続いてきたのは、

医者とフォース・リーコンの隊長のジーンと

技術者とちんかわむけぞうだった


医者以外は全員がカナエに倣って

その場に止まった。

一番最後に入ってきたちんかわむけぞうは、

そっとドアを閉めた



タロはがなり続けた



「ふざけやがって、俺を斬りやがってカナエ、

 コノヤロー、

 あんなにマジ斬りするなんてバカヤロー!」



医者だけが、無言でタロの側に来て、

ベッドの周辺の医療機器やモニターを

点検している


長い黒髪に眼鏡を掛けて中学校のジャージ姿の

ミカは、片手にチョコボールを持ちながら

言った



「ちょっとタロさん、そんな言い方!」



ちらりとカナエのほうを見る


ダボダボのジャージ姿にブラウンの長髪、

しかし今は日本刀を背負っていない。

顔を俯かせ、前髪が目元を隠しているが、

その口元はきつく結ばれていた


医者が言った



「宝堂さん、興奮しちゃあダメだよ、

 気分を鎮めて!

 あまり熱くなると気を失ってしまう」



タロは、手術用のベッドに仰向けに寝かされ、

その身体に青いシートを掛けられていた。

輸血と点滴用のチューブがシートの下から

伸びている


タロの側には医者とミカが居て、

離れたところに

カナエとジーンと技術者とちんかわむけぞう


ミカと医者の言葉に、

タロは落ち着きを取り戻して言った



「ああ、そうだった...

 俺に残された時間は少ない、

 怒りで時間を浪費するわけにはいかない。


 分かってるよ、カナエは今回の事態も

 見事に収めてくれた。

 いや、皆が頑張ってくれたんだ」



マッシュルーム眼鏡の技術者が言った



「その通りだよ宝堂さん、

 残念ながらヘリから銃撃された2名は

 亡くなってしまったが

 ヤキタコをはじめ、他の者は全員無事だ」



タロが言った


 

「ヤキタコって誰だっけ?

 ...ああ、バックホーのオペか、

 焼け焦げたスキンヘッドの....

 

 うむ、そうだ、理不尽に撃たれた2人は

 とても残念だったが、

 その後の災害を防げて本当に良かった」



タロの気持ちが落ち着いたところで、

カナエが言った



「タロちゃん、謝って済む話じゃないけど....

 本当にごめんなさい!!」



そして、身体を90度近くも曲げて

深く頭を下げたのだった


タロはしばらく、カナエのブラウンの頭頂と

頸の両側から流れ落ちるような髪を

呆然と見つめていた。

彼女の両隣では、ジーンとちんかわむけぞうが、

所在なげにソワソワしている


ふとタロは、ジーンの短く刈りあげた小麦色の

頭髪に気が付いた



「そういえば、海兵隊の隊長さん....あなた

 ヘルメットを被っていませんね。

 あのカメラで、佐世保に中継を届けなくて

 いいんですか?」



そう、ジーンはカメラ付きのヘルメットを

脱いでいた


カナエが、頭を下げたまま、英語で翻訳して

タロの言葉を伝えた


ジーンは言った



「ええ、私は海兵隊員ではなく個人として

 ここに来ています、

 あなた方の一友人として。

 後で、本部から苦情を言われるでしょうが

 今は、あなた方のプライバシーを

 侵害したくはありませんので」



タロをはじめとして医者も技術者も英語を

理解できるのだが、

カナエはミカとむけぞうのためにあえて

日本語で翻訳した


深く頭を下げたままのカナエが

翻訳マシンのように淡々とジーンの言葉を

日本語で話すシュールなシーンの後、

タロが言った



「ありがとう隊長さん、感謝するよ。

 ここの皆には腹を割って話すことが

 できそうだ。

 カナエ、もう頭を上げてくれ、

 手早くこれからのことを

 話しておかないといけない」



カナエは頭を上げたとたんにこう問うた



「ねえ、タロちゃん、一体なんで

 あんなことをしたの?

 何が目的だったの?」



タロはすかさず言った



「俺に残された時間は少ないかもしれないから

 手早く話そう、

 カナエ、俺は君を許している。

 これから君はリバーサイド同盟の一本柱だ、

 前に話し合った通り、ミカをよろしく頼む。

 そして、マイク...いや、ラッキーと

 うまくやってくれ

 

 日本ビーグル社の社長だった君の旦那の

 ツテで、ビーグル社についてはそれなりに

 知っているだろうが、気を許すなよ

 

 ああ、そういえば皆、

 スマホは持っているか?」



医者が言った



「集中治療室には持ち込めない、皆、待合室に

 置いてきてるよ。

 それと、通信機能が備わっているヤツは

 接続を切っておこう」



医者は、ベッド周辺の機器に繋がっている

LANケーブルと、

さらに内線電話の電話線さえも取り外した


タロが言った



「よし、まあ、ラッキーが本気を出せば

 どこまでやれるのかはわからないが

 いいだろう....

 ラッキーとビーグル社の目的は

 正直分からない、だが、これだけは確かだ

 

 もはや彼等は人間を必要としていない

 

 しかし、ビーグルポイントによって

 生き残った人間たちを動かしている。 

 まるで、人間が絶滅しないように神の手で

 保護しているようだ。

 だが、人型に対して

 何か手を打とうとしているようには見えない


 ビーグル社が本気を出して生き残った

 人間たちと手を組めば、もっと人型に対して

 有効な反撃が出来るはずなのに

 それをあえてやっていないように思える

 

 彼等が何を考えているのかはわからないが

 今のところ我々にとって心強い味方だ


 しかし、ラッキーとビーグル社に

 ひたすら依存するというのも危険だ。

 彼等は、今の世界において

 神に近い力を持っているだろうが、

 神というのは常に気まぐれなんだ」



と、唐突にちんかわむけぞうが

一歩進み出てきた



「あなたの言う通りだ宝堂さん。

 超越した力を持つ存在のやることは、

 俺達にとって気まぐれとしか思えないことが

 ままあるってことよ!

 

 ラッキーというのはビーグル社の

 CEOのことですね?

 彼がビーグル社のAIと融合して裏で世界を

 操っているという噂ですが


 しかし、そんな神のような存在でさえ

 思いもつかないことを

 今から私はやりましょう!」



そして、ちんかわむけぞうは後ろを向くと、

ズボンのベルトを外し、ゴソゴソとし始めた



「AIや機械では得られないものを

 人は持っていると私は信じています。

 どんなに高性能な機械でも、

 どんなに高度な計算でも成し得ないことです


 それは、人々の運命が紡ぎだす力」



ボサボサの髪に茶色の革ジャンに

青いジーンズ姿のちんかわむけぞう


しかし、その瞳はまるで炎が灯ったかのようだ



「どこか霊的で非科学的ではあるものの、

 私は信じているのです!

 運命の奇跡を...


 それが生み出されるのは、この”秘密の穴”」



カナエとミカは、これから起こるであろう

おぞましき事態に身構えた....


敬虔なプロテスタントであるジーンは

頭を抱えた


技術者と医者は、不干渉を決めた


そして、タロは大きく目を見開いたのだった




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― 新着の感想 ―
[一言] む、これはあのいつもの穴か?
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