自衛隊
タロの思考回路は高速でフル回転していた。
荷物を抱えて階段を往復して脚がガクガク、
飛びついてきたミカの軽い体重を支え切れずに
後ろ向きに倒れた
特殊部隊のスーツに仕込んである
セラミックプレートは、
倒れた衝撃を受け止めたが、反面、
ミカの柔らかい身体の感触も
シャットアウトしてしまう
とっさに両腕を前に折り曲げて両手を広げて
自分の身体とミカの身体の間に侵入させた
ジャージとその中のカップの存在感とともに、
押しつぶされた胸の感触が
手袋を脱いだ素手を通して確かに感じられた
「ぐあああ!」
苦悩に満ちた声を出しながらも、タロは素早く
両手をミカの尻に回した。
まるで、混乱している風に
その両手を素早く上下させると、
跳ね返すような若い肉体の上で
ジャージのポリエステル生地の
スベスベした感触の中に、下着の段差を察知した
「ミカ、君はなんてことをするんだ、俺は今、
倒された衝撃で非常に苦痛を感じている」
散々、ミカの身体を撫でまわしながらも、
非難の声を上げるタロ
階段の往復という運動をこなしたことによって、
ミカの甘い体臭が煽情的な変化を遂げて
タロの鼻孔をくすぐる
タロは、両手の面積にして、
ミカの両脇を20パーセントほど、
両胸を80パーセントほどつかむと、
その軽い身体を持ち上げるようにして離した
「あ、あの、本当にごめんなさい!
タロさん、大丈夫ですか?
ああ、なんてこと...」
急いで立ち上がったミカが見たのは、
まるでワールドカップのサッカー選手のように
床に転げたまま、
苦悩に満ちた表情で痛がるタロの姿だった
「ミカ、君はなんておこちゃまなんだ!
はしゃぎすぎだ、俺は腰を痛めてしばらく
立ち上がれそうにないぞ!」
まったく、ミカを
おこちゃま扱いしなかったうえに、
立ち上がれない理由はもっと下劣ながら、
タロはミカを責め続けた
「あわわ、本当にすいませんでした!
嬉しくてつい...
ケガはしてませんか?ああ
私は本当にバカだ、このバカ、バカ!」
タロはミカを見上げた
眼鏡はズレており、眉はハの字型に情けなく
垂れ下がっている。
長い髪も乱れていて、今にも泣きそうな表情だ
凄まじい罪悪感を感じながらも、タロももはや
引くことはできなかった
「まったく...俺は腰を痛めたおかげで
しばらく前かがみで歩くほかないが、
今後気を付けてくれよ」
立ち上がり、すぐに前かがみになって
自分に背を向けたタロを、
ミカは心配そうに見つめた
しかし、タロは振り向いて言った
「ミカがこんなに喜んでくれて
俺もうれしいよ」
....ミカは本当に泣いてしまった
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あれから、昼飯を食べて、
ミカ部屋を作り直した
そして、二人はタロ部屋でSNSの
掲示板を見ていた
「昨日、ビーグルマップで見た指定避難所の
学校にも、一機のヘリが降り立ったみたいだ
....案の定、掲示板が大荒れしている」
先ほどの華やいだ雰囲気と違って、ミカも
神妙な顔をしている。
タロは続けた
「彼らは、若くて健康そうな男女を選んで
ヘリに乗せて連れて行ってしまった。
自衛隊が占拠している原発周辺で、
作業をさせるためだそうだ。
他にも、医者とエンジニアを数人、
連れて行った。
つまり、学校から有用な働き手をごっそり
持って行ってしまった」
机に座るタロの背後で、ベッドの端に
ちょこんと腰かけたミカが言った
「でも、それって巡り巡って、避難者たちの
為になるんですよね?
原子力発電所に避難者たちが集められるの
だとしたら、その為の準備を整えるために
働き手が必要だから」
タロは掲示板を読みながら言った
「大義名分はそうだ、でも、もはやネットは
どこの国も規制はできない。
偉大なるビーグル社は全世界のネット言論を
まったくフリーにしてしまった。
ビーグル社の所有する通信衛星を
全世界が利用している以上、
もはや規制なんて無意味なんだ。
おかげで、俺たちは実際にその現場で
何が起こったか知ることができる」
それは、こういうことだった
学校の避難者たちは、待ちに待った
自衛隊の救援を歓迎した。
しかし、彼らが持ってきたのは、
数千人にも及ぶ避難者たちにとっては
スズメの涙ほどの量の物資
一刻も早く、整った医療施設が必要とされる
年寄りや病人を運ぶのを彼らは拒否した
自衛隊員たちは完全武装していた
自動小銃や、ヘリからこちらを睨む重機関銃が
無言の圧力を放って避難者たちとの間に
見えない壁を作っていた
今まで学校の避難者たちをまとめていた
警官たちと、
自衛隊員たちとの間にも、一触即発の緊張が
走っていたそうだ
「結局、銃火器を持つ者に
反抗出来る者はいない。
警察と自衛隊は何かしらの合意をしたそうだ、
避難民たちの意見を聞くこともなく、彼らは
強権を発動したんだ」
二人の胸中に、全く同じ思いがよぎった
....もしもそうなら、自分たちは絶対に
選ばれる人間ではないであろうと........