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ネトゲ

パンデミックが始まる数年前から彼はすでに

地下2階の核シェルターの中で暮らしていた。


パラノイアで道楽者だった父親から

相続したちょっといい感じのマンション、

1階と地下1階は駐車場、

2階に雑貨店と3階にスポーツジムが入っており

屋上にはズラリと並んだソーラーパネル


世界が崩壊する以前から、彼は既に

核シェルターの中で生涯を引き籠りとして

過ごすと決意していた


液晶の大画面を前に、片手にマウスを持ち

もう片手で、キーボードのキーを

カチャカチャと高速で打つ。

いくら感謝してもしきれないのは

世界がこのようになっても変わらない

快適なネット環境...


数年前のテレビCMが思い浮かぶ


IT界の覇者ビーグル社のCMだ


容量制限にかかった女子高生が

悪態をついていると

謎の金髪外人がこう言うのだ



「容量制限?意味がワカリマセンネー

 自社のサービスを最大限使ってくれる

 客に制限とかするのニポンジンだけだよ」



ビーグル社は衛星通信事業に先手を打っていた


莫大な資本で大量の通信衛星を打ち上げ、

もはやネットは、いつでもどこでも無料

が普通となった。

当然、日本から通信産業は一掃されてしまった



「ま、当然だよな!

 ビーグル社にとっては、容量制限や

 ネット接続のための月々の定額料金なんてのは

 自社のサービスから客を遠のけさせる

 悪因でしかないわけで。

 ネット接続するのに金を取るシステムは

邪魔でしかなかったんだよ」



さらに当然ながら、

無料でネット接続を提供する以上、

その為の運用コストは低ければ低いほどよい


通信衛星は、太陽電池で作動し、その耐久性は

百年近いと言われている



「つまり、俺が生きている間はネット回線が

 死ぬなんてことは起こらないわけ」


 

まあ、旧来の人生80年とかは無理だろうが

それでもそれなりに長生きする気ではいる



「ただ、生きるだけに必要なものは

 すべて揃っている。

 しかし、人間はパンだけでは生きていけないと、

2000年以上前に

 偉大な男が言っていたではないか!


 そう、気を紛らわす娯楽、人々との

 繋がり、そういったものが必要なのだ。

 そして、偉大なるビーグル社によって

 それは実現できているってわけ」



未だに、ネトゲをプレイしている猛者たちは

大勢居る

その中の一人として、彼は今日も

地上の阿鼻叫喚など関係なく

ネトゲに没頭していた


今や、全世界で、企業サーバーはどんどん

停止している

当然、この状況では仕方ないのだが

そろそろ、

有志達の個人サーバー頼みとなるだろう


まあ、ネトゲ関連は後述するとして、

今、彼がこうして何不自由なく

ぬくぬくと暮らしているのは

全てが彼自身の努力によって

手に入れたものではなかった



「地上では、俺よりもはるかに努力してきて

 能力も高く、この状況でも諦めない

リアル猛者たちが

 生き延びるために必死にやっている


 それでも、奴らは俺ほど恵まれた環境に

たどり着くことはないだろう。

 むしろ、そういう奴らこそが

 真っ先に死んでしまうんだ」



彼の脳裏に、ネットニュースで流れた

様々な猛者たちの英雄的行為が

浮かんでくる


壊滅寸前の役所で、最後の瞬間まで

役目を果たした責任感の強い公務員たち


人々を避難させるために、

わが身の危険を顧みなかった

役所の下請けの土建屋の勇者ども


真っ先に逃亡すると思われていた政治家たちも

かなりの数が踏ん張っていた


今まで世間から非難されがちだった連中が、

こうして土壇場で輝きを見せた



「でも、俺は奴らのように輝くなんて御免だぜ。

 リアルでは誰とも関わることなく、

 こうして静かに引き籠る...

 それこそが今の状況での正解なんだ。

 奴らを見て見ろ、大勢のアホどものために

 犠牲になった連中ばかりじゃないか」



ピンポーン



唐突にベルが鳴らされ、ショック死しそうになった


独り言がピタリとやみ、両手が止まった

しばらく固まっていたが、

ようやく絞り出すように言った



「ふざけるな、なんなんだよ!クソ、クソが」



ピンポーン



椅子からずり落ちるかのように床に伏せると

這うようにして恐る恐る

玄関までたどり着いた


立ち上がって、小さな液晶画面の横のボタンを押す


古く荒い液相画面に映った姿を見て、彼は

即座に応答ボタンを押して興奮気味に話した



「Mika_1257か?このマンションの住民は

 一斉に学校に避難したんじゃないのか?」



小さな液晶画面に映っていたのは小さな少女の姿


長い黒髪に、黒いニット帽をかぶり

眼鏡を掛けた顔をこちらに向けている。

その眉は情けなくハの字に垂れ下がり

大きな目は少し潤んでいるように見える


可愛いキャラクターが描かれた黒いパーカーを

羽織り、紫色のスカートから見える脚は

派手な縞々タイツを履いている。

靴はピンク色の可愛いスニーカー


ミカは言った



「あの、大家さん、いや、Taro_1257さん...

 そのう、私は皆と一緒に行かなくて。

 パパとママが役所から最後の電話を掛けてきて

 外は大変なことになるだろうって。

 皆と一緒に行動しろって言われたけど

 私は怖くて家に籠ってしまって」



タロが言った



「いいかね、君が来ている屋上のペントハウスには

 俺は居ない。

 今から非常階段のシャッターを開けるから

 そこを下って、地下2階まで来るんだ。

 安心してくれ、ここには大量の食糧の貯えと

 水と電気も使える、

 もちろん、ネットもね」




こうして、一人で快適に引き籠るという

タロの計画はもろくも崩れ去った



 


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[一言] すーぐ女連れ込んじゃうんだもんなぁ
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