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80・俺たちは守りの準備をする


 翌朝、俺はガーファンさんを訪ねた。


「おはようございます」


「あ、ネスさん。 戻ってらしたんですね」


家の前で挨拶しているとサイモンが飛び出して来た。


「ネスー」


おいおい、アラシまで俺の足に纏わりつくなよ。


「少しお話を。 奥さんもご一緒にお願いします」


「あ、はい」


朝食が終わったのを見計らって来たので、ちょうど食後のお茶の時間だ。


「な、何かありましたか?」


来客用の席というのはないので、家族の食卓用のテーブルに着く。


四人用なので、俺の前にガーファンさん夫婦。


俺の隣はサイモンで、足元にアラシがいる。


大人は緊張して落ち着きがなく、サイモンはうれしそうに俺にお菓子を勧めて来る。




「皆さんのおかげで、だいぶ砂族の町も整備が出来ました。 ありがとうございました」


とりあえず、一旦、ガーファンさんに対する依頼を終了させてもらった。


斡旋所にいけば給金の支払いがされるようにした伝票を渡し、魔法収納鞄を返してもらう。


「それで今後のことなのですが」


俺はガーファンさんから先日受け取った名簿を取り出す。


「この町で暮らしたい方と、砂漠の町に移住したい方を決めていただきたいと思いまして」


ポルーくんはすでに砂漠組と記入してあった。


「今すぐとは言いませんが、その気があるのなら説明したいこともありますので」


荷物などは魔法収納鞄で運べるし、食料などの日用品は定期的に運ぶ予定だ。


「私はどうしたらいいのでしょうか」


ガーファンさんは不安そうな顔で俺を見る。


「どちらでも構いません。


ガーファンさんとすれば、これからも砂族の方がこの町に来る可能性もあるので、ここにいたほうがいいかもしれません」


建て前だけどね。


ガーファンさん夫婦がどことなくホッとした顔になった。


俺も、まだ何もない町に好んで住みたい者はあまりいないと思う。


「ネスはー。 ネスはずっと向こうにいるの?」


サイモンは俺の顔を見上げて真剣に訊いてくる。


「うん。 だけど、用事がある時は来るよ」


家もそのままにしておく許可をミランにもらっている。


「そっかあ、ネスは魔術師だから、 魔法で飛んで来れるもんね」


「じゃあさ」とサイモンは明るい笑顔で俺の服を掴んだ。


「僕だけでも連れてってよ。


行ったり来たり出来るなら、お母さんも寂しくないでしょ?」


俺と両親の顔を交互に見ながら訊いてきた。




「サイモン。 お前、何言ってるんだ」


「そうよ。 せっかく一緒に住めるようになったのに」


両親は必死に息子を説得しようとする。


「大丈夫だよ。 ネスはちゃんと僕の面倒見てくれたもん」


三歳で両親にこの町に置き去りにされたサイモン。


心のどこかに両親に対する不信があったのかな。


何故か、俺は両親から、特に母親から睨まれた。


「サイモン、良く考えてからでいい。 お前はまだ子供だしな」


「ううん。 僕はアラシとネスがいれば、あの町でも大丈夫だよ」


九歳とは思えないしっかり者だ。


だけど母親の視線が怖い。


「ご家族で十分に話し合ってください」


俺はそう言って家を出た。


「あの、この調査はいつまでに必要ですか?」


ガーファンさんが一緒に外に出て来て、名簿の紙を示す。


「そうですね、三日後には砂漠に帰りますので、明後日の朝までにお願いします。


すぐに出立出来る人がいれば、一緒に連れて行きますので、それも伝えてください」


「分かりました」


正式な礼を取るガーファンさんと別れて、俺は一番怖い家に向かう。




「どういうことですの?」


「シア、落ち着いて」


隣のキーンさんとシアさんの家である。


「姫様はどちらですか、すぐに返してください」


いやいや、モノじゃないんだから。


「あの、大変申し上げにくいんですが」


俺はチラッとキーンさんを見る。


お願いしますよ、と目配せしておいた。


「リーアは俺と砂漠の町で暮らすことになります」


「なんですって!」


金髪美女が怒ると迫力あるよな。


この人もアブシースの王都にいたらエルフだっていわれる容姿をしてるし。


元の世界でも金髪の女性は外国人でなくても怖かった覚えがある。


「えっと。 シアさんは少し子離れというか、姫から離れたほうがいいというか」


リーアはもう子供ではないんだから。


「なんですってえええええ」


立ち上がってテーブルをバンッと叩く。


「落ち着け、シア」


うん、キーンさん、そのまま抑えてて。




「このまま別れるわけではありません」


ただ住む場所が少し遠くなっただけ。


「何かあれば連絡は取れますし、数日おきに荷物の配達があるので、手紙なども託せます」


 そして、もう一つ、重要な話をしなければならない。


「もうすぐ、おそらく四日後に、王都から軍用船が来ます」


キーンさんの顔が引き締まる。


興奮していたシアさんが、俺の言葉を聞いて座り直した。


「ご存知の通り、俺は王位継承権を放棄していますが、王族です」


そのため、俺を担ぎ上げようとする一派と反対派との争いは密かに続いている。


「王太子は、南方諸島との密輸の件での派兵だと言っていますが」


それは表向きだ。


「サーヴが攻撃対象になる恐れがあります」


ケイネスティ王子を消したい者たちが、王太子派と組んでやって来るのだ。


俺は何かあれば迎え撃つ気でいる。


住民たちも出来るだけ巻き込みたくはない。


その上で、「危険な町にリーアを置いておけない」のだ。


わたくしたちでは十分な守りにはならないと?」


ドスの利いた声というのか、シアさんの低い声が腹に響く。


「あなた方が姫を一番に守ってくれることは確信しています。


だけど、もし他の住民、例えば子供たちが人質にでもなったら、それを見捨てられますか?」


もしシアさんが見ない振りをしても、リーアがそんなことを許すはずはない。


「俺はこの国の王族だ。 出来るなら、国民を守りたい」


全部は無理だとしても、この手の届く範囲だけでも。


それが王子の願いなのだ。




「私で何かお役に立てますか?」


キーンさんが落ち着いた声で訊いてくる。


「ありがとうございます。


お二人には是非、薬師としてご活躍いただきたいと思います」 


「分かりました。 必ずや、ご期待に応えます」


俺とキーンさんとで話がまとまり、礼を取って席を立つ。




 玄関を出てホッとしていると、足元に何かがまとわりつく。


「サイモン、どうした?」


俺の家の前で待っていたようだ。


隣の家から出て来た俺を見つけて飛んで来たらしい。


「家出してきた」


おう、なんてこった。


「ネスさん、すみません」


ガーファンさんが声を聞いてやって来た。


息を切らせていたところを見ると、飛び出した息子を探していたのだろう。


「親子喧嘩ですか」


俺はため息を吐く。


涙を溜めた目で父親を睨むサイモンの頭を撫でる。


「しばらく落ち着くまでお預かりしますよ」


そう言って俺の家にサイモンを入れる。


「ネスさん、お願いします。


私たちはもうあの子を手放したくないんです」


はあ、そうですか。


ここにも子離れ出来てない人がいたのか。


「一応、説得はしてみますが」


こればっかりは、俺は親になったことがないから分からない。


 家に入ると、サイモンは勝手にお湯を沸かしてお茶を淹れ始めていた。


「上手だな」


「うん、これくらい出来る。 もう子供じゃない」


がんばってる子供に、俺は何も言えない。


砂漠に帰る日まで預かることにした。



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