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74・俺たちは職人をこき使う


 砂漠の町の跡の周囲に、細い棒のようなものがぐるりと立っている。


砂漠と町との境界線を掘り出した目印である。


「もうそろそろ半分ですね」


外周とみられる石塀の跡が、結構広範囲だったので再構築するのに時間がかかっている。


 砂族たちも驚いていた。


「町の遺跡から、こんなに離れているとは思いませんでしたね」


町の瓦礫がある場所から石塀の跡までの間がいやに広い。


「おそらくですが、この区間は農地か放牧地だったんでしょう」


砂狐などの家畜が飼われていたのだから、当然それは予想出来た。


「では、すみませんが、我々はサーヴに戻りますので」


「はい。 気を付けて」


ガーファンさんたちは、食料などを調達して、また数日後にやって来る。


 俺の魔法収納の場合は、ほら、王子だからさ。


『む、まあ、国宝級だからな』


そうそう、だからまだまだ容量はあるし、腐ったりもしない。


何かあれば移転魔法陣で飛べるしね。


だから、俺は割とのんびり構えていたんだ。




「おーい、ネスさーん」


「へ?」


砂族の一行と入れ違いに、クロと共にデザがやって来た。


「どうしたんですか?」


「おいおい」


デザが呆れたような顔をした。


「俺はネスに雇われてるんだぜ。


公衆浴場の仕事も終わったし、サーヴの町の砂漠との境界の石垣も終わったんだ。


次の仕事の指示を待ってたのにさ」


「あー、すみません」


とりあえず、塔の中で休んでもらう。


 リーアにお茶を入れてもらいながら話をする。


横目で見ると、さっそくクロはユキにべったりだった。


「ここなら仕事がたくさんありそうだな」


目を輝かせているイケメン煉瓦職人に、俺はため息を吐く。


「ええ、やって欲しいことはたくさんありますけど、それより少し休んでください」


どうやら、ほとんど寝ずにやって来たようだ。


「あははは」


笑って誤魔化すデザを湖に連れて行き、行水をさせる。


その後、砂族の青年に頼んで倉庫前の一人用宿舎へ案内してもらった。


 デザを案内して戻ってきた青年が、


「あの人すごく喜んでましたよ。 ここが気に入ったみたい」


そう言って笑った。


まあ、デザは寝床に関しては全然こだわらないからな。




 昼食の時間にデザが起きて来て、打ち合わせをしながら食べる。


「俺はポルーといいます、よろしく」


成人したての青年は、砂族特有の砂色の髪と瞳。


両親は王都の下町で働き過ぎて亡くなったらしい。


「ガーファンさんにはお世話になってて、声をかけてもらってうれしかったです」


砂漠開拓のチラシ以前に、ガーファンさんが「いつでも来い」と声をかけていたらしい。


「デザだ。 煉瓦職人だ」


もう、デザったらいつも通り口数が少ない。


「デザ、悪いけど今度はこのポルーさんと組んでの仕事になる」


そして、砂族の人たちが目印を立てて行った部分に、また石材を積んでいくのだ。


「煉瓦じゃなくていいんだな。 まあいいが、材料はあるのか?」


それにはポルーが答える。


「はい、俺が作るんで」


すでに暇なときに作っておいた石垣の材料が目印の側に置いてある。


「分かった。 とりあえず見せてくれ」


そう言うと、二人は外へ出て行った。


 俺はユキとソグにいつも通り見張りをお願いする。

 

ソグにはふたりにきちんと休憩を取らせるようにとお願いした。


デザはほっとくと飯も食わないんだよね。


「あの若者がいるから大丈夫だとは思うが、注意しよう」


頼んだよ。




 そして俺はクロが運んで来た荷物を受け取る。


首に掛けられていたのは、ドワーフのピティースの鞄だ。


入っていたのはハシイスからの報告書に、パルシーさんからの苦情に、ミランからの恨み言だ。


そして、デザの着替えや日用品の中に、ピティースの手紙が入っていた。


「何かあったのですか?」


俺がそれを読み終わると、リーアがお茶を差し出してくれた。


「デザが以前働いていた工房から、また嫌がらせを受けたらしい」


 デザは腕のいい職人だ。


彼は、拾ってくれた工房の親方に恩義を感じ、親方のために一生懸命働いてきた。


それを店の乗っ取りだと因縁を付けられて、一人息子とその母親に追い出されたのである。


「公衆浴場の床のタイル、きれいだっただろう?」


「はい。 とっても」


あの夜を思い出してリーアの顔が赤くなる。


「あれが評判になって、またデザが褒められると、我慢できない奴らが出てきてね」


 今のデザの工房は、海岸沿いにある。


耐水タイルを作るために必要だったので、俺がミランから借りた元倉庫だ。


そこへあのバカ息子がやって来て、そこを工房の倉庫にするから明け渡せと言ってきたらしい。


「え、ネスが借りているんでしょう?」


「ああ。 だけどデザから俺に頼めば、自分が使えると思ったんだろう」


だから俺ではなく、デザに言いに行った。


たぶん倉庫にする気なんかない。


ただ、デザに対して嫌がらせしたいだけだ。


「バカなやつだ」


はっきりと返事はしなかったそうだが、デザなら本気で明け渡しかねない。


心配になったピティースが俺に手紙と共にデザを寄越したんだろう。


デザが元の工房を大切にしていたのは、師と仰ぐ親方のためだったのに。


俺はしばらくの間、デザをこき使うことにした。




 砂漠の日々は順調に過ぎていく。


石垣はソグも手伝っているせいか、進みが早い。


ポルーはソグから戦闘術を習い、デザの職人気質を見習っている。


「そういえば、ポルーさんって何になりたいんでしょう?」


「さあ」


希望を聞いてなかった。


「俺ですか?」


休憩時間にそんな話を振ってみる。


「うーん、あんまり考えたことないんですよね」


両親が無くなって一年ほどらしい。


「その前は魔力があるから魔法師になりたかったですけど」


砂族だというのがバレると困るので、他の魔法を使いたかったが、砂を動かすくらいしか出来ない。


「今は何でもいいです。 食べていけるなら」


俺はリーアと顔を見合わせる。


若者が、子供が未来を語れないなんて、寂しいもんだ。


でもそういう子供はこの世界にはたくさんいる。


ポルーだけじゃない。


「分かった。 何でもやってみるといい」


そのうち、やりたいことが見つかることを祈る。




 ポルーが、ソグだけが塔で寝泊まりしているのを嫌がるようになった。


「見張りなら交代でやりましょうよ。


ソグさんだけひとりで毎日見張りだなんて、そんなの変です」


「いや、ポルーの気持ちはうれしいが、これが我の仕事なのでな」


それでもポルーは納得せず、ソグはポルーとデザと同じように一人用の寮に入ることで治まった。


俺は、ポルーが「兄が二人出来た」とうれしそうなので別にいいかなと思う。


見張りはユキとクロが塔で寝ているので、何か察知すれば知らせてくれることになった。




 その次の砂族ご一行は、サイモンや他の子供たちと女性がついて来ていた。


「サイモンを連れて行くことにしたら、皆、行きたいと言い出して」


「構いませんよ。 リーア、お願いできる?」


「はいっ」


次の祭りで九歳になるサイモンより大きな子供が一人と、砂族のサーラの娘さんだ。


女性は独身で、いつも来ている二十代の青年の妹だった。


「兄がいつも楽しそうに話すものだから」


ショートカットの髪で活発そうな女性だ。


「ここにいる間はあなたにも仕事をしてもらうけど、いいかな?」


「はい!、喜んで」


元気良過ぎでしょ。



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