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72・俺たちは倉庫を手に入れる


 あ、まずい。


「王子、俺たち閉じ込められてる」


『ん?』


この倉庫の扉、砂族か砂狐じゃないと開かないっぽい。


王子の魔法陣はすでに作動を始めていて、部屋のどこかにあるらしい換気用の穴から空気が出入りしている音がする。


とりあえず<結界>を最小限の範囲にして自分にかけておく。


『大丈夫だろう。 そんなに時間はかからないはずだ』


そう願うよ。


 俺はなるべく身体を小さくして扉の前に座る。


そして、初めてこの目で、魔法によって物が変化していく様を見ていた。


「すごいね。 こんなの元の世界じゃ考えられない」


俺の頭じゃ理解出来ないだけかもしれないけど。


暴風が止むまで、俺はそうやって動画の早回しのような光景を眺めていた。




「主、大丈夫か」


「ああ」


ユキが開けてくれたようで、ソグとリーアが入って来る。


『砂族の魔力の写しが必要だな』


そうだねえ、それがないと使えないっていうのは不便だな。


「リーア、悪いけど、ここにある品物の一覧を作ってもらえる?」


「はい!」


ちょうどメモを取っていた彼女に任せることにした。


ユキにはリーアの側にいてくれるように頼んだ。


 ソグには手招きをして、倉庫の外に出る。


杖の先に点した明かりを頼りに周りを調べることにした。


「この通路の両側にあるのが全部、家らしいんだ」


「ほお」


俺はソグと二人で通路を歩けるだけ歩いて、広さを確認する。


久々に文字板を出し、普通の紙を貼る。


ペンを取り出して、簡単に通路を書いて、少しずつ書き加えて行く。


 湖と塔がある方向から一直線上に入り口。


広い中心の通路から五つほどの交差している横道があり、突き当りが倉庫。


「小さいですが、なかなかしっかりとした造りですね」


「そうだな」


この辺りは<復元>していない。


範囲を指定出来ないと、魔力がどこまでも駄々洩れになってしまうからだ。


 所々に照明器具らしきものがあり、それに魔力を注いでみる。


これは砂族でなくてもよかったようで、無事に点いた。




 食事と休憩時にはいったん倉庫に戻り、リーアたちと話をする。


そうやって一日、地下の町にこもっていた。


時間が分からなかったので、時々ユキには外で様子を見に行ってもらって、陽の傾きを教えてもらう。


【もう暗くなるのー】


とユキが言うので、切り上げて塔に戻る。


ピカピカになった塔を見て、ソグがまた唸っていた。


 風呂というかシャワーをする場所もまだないので、適当に湖に入ってバシャバシャやる。


飲み水として利用しているわけではないのでいいだろう。


リーアの時はユキに見張りをさせておいた。


 食後は、これからの話をする。


以前はフェリア姫の護衛だったソグは、またリーアの側にいられることを喜んでいた。


トカゲ族の表情は分かりにくいけど、自分で言ってたから間違いない。

 

 リーアはデリークトでも亜人擁護派で、たくさんの亜人を救い、慕われている。


ソグや海トカゲの青年なども雇っていた。


でも王子はアブシースの国の王族だ。


これからはアブシースに住むことになる。


「アブシースはこれからも亜人を認めないと思うんだ」


「それではどうなさるのですか?」


俺は食後のお茶をズルズルと啜る。




「この地下の町を見てどう思う?」


俺はリーアとソグに訊いてみた。


まだ神殿の塔と倉庫ぐらいしかないけども。


「まさか、ここに住むおつもりか?」


俺はソグの言葉に頷く。


色々な問題はあるけれど、俺たちだけなら魔道具もあるし、何とかなると思う。


「町というより、砦というか、隠れ家というか」


そんな感じだ。


「王都から何か言ってきたら、サーヴの町に迷惑がかかる」


その時に俺たちがいなければ。


「身を隠すということですか」


俺は黙って頷く。


考え込んだソグの代わりに、俺の隣にいたリーアが口を開いた。


「ネスのやりたいようにしてください。


わたくしは全力でお手伝いします」


そう言って微笑んだ。




「我も反対というわけではない。


ただ主がサーヴを離れ、ここに住んでいたとしても、敵は来るだろう」


ソグはデリークトでの護衛兵時代に、フェリア姫暗殺計画に巻き込まれて職を失っている。


貴族連中の嫌らしい計画にはうんざりしていた。


それは国が代わっても変わらない。


「そうなれば、主がいなくてもサーヴの者たちに危害を加えるのではないか」


「うん、それは考えた。


そうなると自警団や、領主の私兵を強化しないといけないだろうね」


鉱山を口実にして、今の倍増以上の規模にしてもらってもいいと思うよ。


まあ、鉱山からの収入を考えると微々たるものだろうけど。


「どうしても一度は説明しなきゃな」


俺はため息を吐く。


「ネス、いえ、ケイネスティ殿下」


珍しくリーアが俺を王族扱いする。


わたくしは何だか違う気がしますわ」


「ん?」


俺とソグは顔を見合わせた。




「殿下がご自分のことを話されるのは構いませんが、それで皆様はどうなりますか?」


「うっ」


一部の者はいいとしても、全ての住民に話すのは違うとリーアが言い出した。


「殿下がお話になりたいのは分かりますけど」


お世話になった住民に対して誠実であろうとする態度はいいとして。


「知らないほうが幸せかもしれません」


それは知らなければ「知らなかった」で済むからだ。


『そうか。 いつもケンジが言ってることだな』


「そ、そうだね」


そうか。 俺は自分が話したくて、それを話すのが当然だと正当化していたのか。


俺が俯いたので心配になったのだろう。


リーアが俺の手にそっと触れる。


わたくしやソグさんみたいに聞いても大丈夫な者もいます。


何でも話してくださいませ」


「ありがとう」


俺は彼女の手を握り、引き寄せる。


「コホン」


ソグに呆れられちゃった。 てへっ。




 三日後くらいに砂族の一行がまたやって来る予定である。


それまでに、王子が砂狐で地下の町のカギを作ってくれた。


 王子がユキの魔力を、自重しないで作った魔力鑑定用の魔法陣で解析したのだ。


それで砂狐の魔力と俺たちの魔力の違いを調べ、砂狐の魔力にしかない部分を書き出す。


それを元の世界のキャッシュカードみたいな形にしたのは俺だけど。


材質はドラゴンの歯だ。 うん、まだ持ってた。


ソグは驚きながらもその歯を削ってカード型にしてくれた。


これ一つで倉庫も、それぞれの家も開けることが可能だった。


マスターキーだな。


 でも全員にこれを渡すわけにはいかない。


他に個別用も作らないといけないような気がする。


『そうだな。 砂族でも不穏な者がいるからな』


ああ、あれか。


「砂族の皆が戻って来る前に、魔力の書き換えをしよう」


『ああ』


というわけで、すでに家の一つ一つのカギと、スペアキーの二枚組。


そして倉庫のカギを管理用の予備を一枚作った。


それぞれの扉に反応する魔力の変更を行う。


かなり時間がかかったけど、集中してやれたから間に合った。




「ネスさん、ほんとにこれご自分で作られたんですか?」


「ええ」


王子が、だけどね。


三日目の夕方にやってきたガーファンさんたち砂族の一行は、塔や町を見て唖然としていた。


「申し訳ないんですが、一番出入り口に近い家を勝手に使わせてもらっています」


自分たち用にリーアと相談して、塔に近い家を選んで改装中だ。


ソグは見張りがしたいというので、ユキと一緒に塔で寝泊まりしている。


ガーファンさんたちには特に文句も言われなかったし、いいよね?。



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