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二重人格王子Ⅳ~異世界に来た俺は王子と共に生きていく~  作者: さつき けい


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71・俺たちは塔を再建する


 俺はリーアに話して良かったと思ってる。


王子も少し肩の荷を降ろしたような気がするんだ。


その日は引き続き、二人で色々と話をした。


リーアの子供のころの話や、デリークトの国内の様子を聞いて一日が終わった。


夜は塔の中でテントを張って、狭い中で引っ付いて寝る。


一人用テントしか持ってないから仕方ない!。




 翌朝、俺は湖で顔を洗ったあと、塔を見上げていた。


「王子、この塔を復元しないか」


『それは構わないが。 ケンジはやけにこの塔に拘だわるな』


そうかなあ。


いやあ、外観が、こう、雰囲気が良さげでさ。


「なんかちょっとヨーロッパ風でさ、割と好みなんだよな」


『ん?、なんだそれは』


ああ、いや、いいんだ。 気にしないで。


『まあいい。 じゃあ、特大でやってみるか』


「おお、よろしく」


俺はユキを呼び、リーアについててもらう。


 砂で出来ている竈やテーブルを一旦崩し、塔の内部にあるものをすべて外に出す。


魔法陣を描いた魔法紙を荷物から取り出した。


「魔法紙も王都の爺ちゃんがたくさん送ってくれて助かるよ」


『まったくだ』


まずは<修復>をかける。


壊れたまま復元するよりも魔力が少なくて済むからね。




 王子は塔全体をすっぽりと覆う結界を発動した。


『よし、<結界>終了。 ユキもリーアも大丈夫か』


俺は振り返り、リーアとユキが十分に離れていることを確認する。


「ああ、大丈夫だ」


『では』


<復元>


大きな魔法陣を描いた紙に、王子が杖で魔力を注ぎ込む。


結界の中は風が荒れ狂い、側にいる俺たち自身も立っていられなくてフラフラと揺れる。


ゴゴゴゴオォォ


失われた時を、自分の身体を、取り戻そうと塔が揺れる。


「王子!、だいじょぶかあああ」


俺でもごっそりと魔力が抜けていくのが分かる。


『うぅ』


いくら魔力量が無限のチート持ちでも、一挙に魔力を奪われると身体がついていかない。


「無理するな!」


王子が歯を食いしばっている。


『ま、まだまだ。 ぐぅぅうう』


俺は周りを見る余裕もなくなり、王子の身体に自分の身体をがっちりと重ねる。


「俺の全部を使ってくれ!」


足を踏ん張って、王子の身体を支え続ける。


『うおぉぉおおお』


王子が出ない声を振り絞る。


俺には聞こえるよ、王子の渾身の力を込めた叫びが。




「はぁっはぁっ」


ポタポタと汗がしたたり落ち、王子が膝をつく。


ようやく風が止んだ。


「ネス!」【ねすぅーーー】


リーアとユキが駆け寄って来る。


「大丈夫ですか」


冷たい水が入った水筒を差し出してくれる。


「ありがとう」と礼も言えず、俺は砂の地面に転がった。


ユキが俺の顔を舐める。


 しばらくして、少し息が整い、ありがたく水を飲む。


【ねすー、あれ、なあに?】


ゆっくりと目線を動かすと、リーアも隣でそれを見上げていた。


「すごいです、これ」


「ああ、最高だ」


王子、見ろ。 これが王子の力だ。


完全に復元された神殿の塔と思われるものが姿を現していた。




 一番上は細い三角屋根。


その下にある四角い部屋に、くりぬかれたようなガラスの無い半円の窓が四方に向けて一つずつ見える。


すべて砂色の煉瓦のような外壁。


扉の無い入り口から入ると、円形の床の一階には家具は一切ないが、ピカピカの床と壁。


上を見上げると、吹き抜けの天井、壁に階段がぐるりと巡っている。


一番奥の壁に階段が見えた。


「行ってみよう」


俺がリーアの手を取ると、ユキが先に駆けて行った。


 階段は細く、最初は真っすぐに斜めに上がり、二階部分から塔の壁に沿っている。


一番上まで上がると、風が強い。


「わあ、すごい」


リーアが楽しそうに声を上げた。


湖側の窓からは山、反対の窓からは遠くに海が光って見える。


ユキも後ろ足で立ち上がり一緒になって外を見ていた。


俺たちはユキを撫でながら、その風景を楽しんだ。


王子は力尽きたように静かに休んでいる。


「あ、あれ」


身を乗り出して町の方角を見ていたリーアが何かを見つけた。


【砂トカゲさんなの】


おお、ユキは良い目をしてるな。


「しかし、なんだってソグが」


ユキが真っ先に駆け出し、俺たちも追いかけて下へ降りた。




「ソグ。 どうした」


そう言うと、トカゲ族の目がジトッと俺を睨む。


「一緒に行くと申し上げましたが?」


「あー」


すまん、と頭を掻く。


「パルシーさんとこの従者二人がちょっと邪魔でさ」


正直に話すと、ソグはため息を吐く。


「そうですか、悪い者たちではないようですが」


うん、だから余計に困る。


 彼らは北の領地の子供たちで、パルシーさんが俺を元領主だと教えてしまっていた。


俺は、正体が王子だと王都には知られたくない。


「あの子たちは迂闊にしゃべったりはしないでしょう」


それは分かってるけど。


子供好きのソグは、孤児院出身の彼らを、サーヴの子供たちと同じ様に思っているのだろう。


「それでも、彼らは王都の教会所属なんだよ」


ソグはぐうっと唸った。


「まあいいさ。 ソグ、せっかく来たんだから、手伝ってよ」


「はい、そのつもりで来ました」


そう言ったソグは、地下の町を見て絶句していた。



 俺は砂トカゲ族の寿命がどのくらいなのかは知らない。


「噂で聞いた程度ですね」


「そか。 デリークトでも知らないとなると、随分と昔のものなんだね」


ソグを塔でしばらく休ませた後、俺たちは砂族の町の跡に入る。


湖からの通路の大きな扉は昼間は開けておくことにした。


地下なので入ってしまうと涼しい。


それに湖から地下水脈が通っているらしく、床がひんやりとしている。


「おそらく、少し掘れば井戸になるよねえ」


どっかにその跡があるんじゃないだろうか。


 メモ用の紙とペンを持ったリーアがユキと共に何やら調べている。


俺は砂族の人たちが調べていた、入り口とは反対側の壁を見に行く。


「やっぱり色が違う。 ここも何かの扉だな」


通路の突き当りの壁は出入り口の扉とはまた違うようだ。


壁に沿って調べると、手のひらほどの小さな板が壁に付いていた。


「みるからに何かの仕掛けだな」


電気のスイッチみたい。


『強引だけど、魔力を通してみよう』


しかし、砂族の者がいないが大丈夫かな。


『魔力抵抗を感じる』


砂族じゃないとだめっぽいな。




【なにしてるのー】


ユキが俺にじゃれついてきて、偶然にその板に触れた。


「あ」


開いちゃった。


さすが砂狐。 砂族の一部として登録されていたっぽいな。


 恐る恐る中に入るとすぐに照明が点く。


「まあ、倉庫ですのね」


ユキの後ろにいたリーアが声を上げた。


 そこには、大きな棚がいくつか並んでいる。


一番下の段には干からびた食料品と思われるものが転がっていた。


壁には農作業用のくわや、槍といった武器などが並んでいる。


大切な場所だから魔力で強固に守られていたため無事だったんだな。




「ソグ、リーア、それにユキも、絶対に手を触れないで」


リーアたちの動きがピタリと止まる。


王子、ここを復元しよう。


『なるほど、使えるモノばかりだな』


おそらく、この砂漠での生活必需品だ。


 俺は皆を一旦、部屋の外に出す。


荷物から魔法陣帳を取り出す。


「これだけやるのは北の領地に初めて赴任した時以来だな」


『ああ、領主館は広かったからなあ』


今回はそこまで広くないから適当に頼むよ。


『うむ』


本当に分かってる?。


<清掃>と<換気>をやって、それから<修復>後に<復元>だからね。


王子が魔法陣の紙に魔力を流した。



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