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51・俺たちは友人を得る


 俺の寝室の窓は広場側と天井にある。


玄関が見えるんだよ。


「連れ戻しに来たのかな」


「いいえ、私は戻るつもりはありません」


姫が強く俺に訴える。


うん、俺もその気はないけど。


『とりあえず、話を聞いてみよう』


うわあ、王子が冷静だ。


『ケンジ、いい加減にしろ』


はあい。


いやいや、からかった訳じゃないんだけどな。

 



 姫が着替えている間に、俺は下へ降りて二人を受け入れる。


「フェリア様はどちらですか」


うへ、ルーシアさんの目がマジだ。


「あ、上の部屋ー」


「失礼します!」


魔力の扉を勝手に開けて、上がって行った。


「あ、あれ?」


『以前、来た時に解読していったのだろう。 優秀な魔術師だと聞いているからな』


うう、魔力登録、強化しようかな。


「移転魔法陣でここに来ようとしたんですけど、何故か飛べませんでした。


こっちの魔法陣を壊しましたね?」


 騎士アキレーが笑っている。


うん、ごめん。


姫への未練を断ち切ろうと思って、ルーシアさんの魔法陣は撤去させてもらった。


「まあまあ、諦めてください」


フェリア姫に関することには昔から真っすぐな女性だったそうだ。


「じゃ、やっぱり連れ戻しに?」


俺がうろんな目を向けると、アキレーさんはますます笑った。


「そんな訳ないじゃないですか」


そして、俺に対して騎士の礼を取った。


「ケイネスティ殿下、我々二人をどうか臣下にお加えください」


は??。




 俺はコメカミを押える。


「デリークトにはもう戻れませんから」


公宮での一件で、彼らは国を見限る決心をした。


「まあ、フェリア様のいないデリークトなんて、彼女には何の魅力もありませんからね」


そして、そんなルーシアさんのいない国はアキレーさんにとっては意味がないと。


「は、はあ」


これは俺では無理だ。


『代わろう』


うん、王子、よろしく。




「私は今、単なる研究者です」


アキレーさんが俺の雰囲気が変わったことに気付いて顔を上げる。


「あなた方は自由です。


フェリアさんの側にいることも含めて、ご自分たちの都合で生きれば良いでしょう」


ああ、王子が大人だ。


人と話すことが苦手で、真面目な話をするときなど特に顔が強張っていた王子。


それなのに、今、王子は柔らかく微笑んでいる。


「あとでこの町の地主のところに行きましょう。


うまくいけば、お二人が住む家を借りることが出来ますよ」


騎士の忠誠を誓う姿勢を取っていたアキレーが深く頷いた。


「ありがとうございます。


二人で相談した上で、お気持ちをありがたくお受けいたしたいと思います」


いやいや、返事が硬すぎるよ。


王子はただ笑って頷いてるけど。




 そこへ着替えたフェリア、えっと、リーアさんと、ルーシアさんが下りて来た。


「ネス様。 お着替えをありがとうございました。


でも、ルーシアが私の荷物を持って来てくれたのです」


そう言って王子の服を返してくれた。


ルーシアさんの魔法できちんと洗濯されている。


王子は黙って受け取った。


顔には笑顔が張り付いたままだ。


む、まだ女性に対しては自然な笑顔は無理っぽい?。


よし、代わってあげよう。




「ルーシアさんが持って来てくださったのですか。


それは助かります」


俺はにっこり微笑んで女性に対する礼を取る。


「こちらに住むことになりましたら、是非、仲良くしてくださいね」


「あ、はい」


ルーシアさんはぎこちなく返事を返してくれる。


「ネス様が、この町の地主様に紹介してくださるそうだ。


家を借りることも出来るそうだよ」


「まあ」


アキレーさんの言葉に、うれしそうにルーシアさんが微笑んだ。




「あー、その前に」


俺は三人をテーブルに移動させて、お茶を入れる。


「すみません、朝食がまだだったので」


そう言って、鞄からパンの入った袋を取り出す。


いつ遭難するか分からなかったから、少し多めに持ってたんだよね。


焼き立てで入れておいたから、まだ暖かい。


それに果物とジャムやハチミツを添える。


 それをテーブルに出していると、ルーシアさんが並べたり、配ったりして手伝ってくれる。


本当に優秀な人だなあ。


それを姫の前に置き、二人にも勧める。


「ありがとうございます」


遠慮がちだったが、二人とも喜んで食べてくれた。




 俺は三人に聞いておかなければならないことがあった。


「食べながらで構いませんが」


そう前置きして、三人に確認する。


「本当にデリークトにはお戻りにならないのですか?」


彼らにも親や兄弟がいるはずだ。


「ええ、戻る気はございません」


ルーシアさんがはっきりと笑顔で答えた。


 アキレーさんもルーシアさんも、リーア姫とは幼馴染だというのは聞いていた。


「親は公宮に出仕しておりましたけれど、もう見放されましたし」


どうやら、俺の件で勘当されたらしい。


「それはー」


俺が謝ろうとすると、アキレーさんが手を振って違うと遮る。


「デリークトはあまり家柄や血筋とかは気にしないのですよ」


どちらかというと実力主義らしい。


亜人の多い国柄だからかも知れないな。




「ですから、私たちが国を出たところで、身内に影響はありませんよ」


重大な犯罪者というわけでもない。


「確かに公爵閣下には不敬を働いたかも知れませんが、閣下は許すとおっしゃいました」


あの場で俺と姫が姿を消した後、公宮では大騒ぎになったそうだ。


だが、公爵ははっきりと「不問にする」と宣言したらしい。


「議会でおそらく糾弾されることになるでしょうが、それまでは公爵権限で何とでもなります」


国王の権限が強いアブシースでは考えられないことだが、デリークトでは議会の力が強い。


それは議会を招集し、意見をまとめなければ動けないということ。


つまり、何事にも決定や行動が遅いのである。


「その間のことを決めるのが国の主である公爵閣下なのです」


そして、その議会決議が出るまでは、公爵の発言が絶対なのだそうだ。


「へえ」


感心して聞きながら、俺はちらりと姫を見る。


彼女は寂しくないのだろうか。


俺の視線に気づいたようで、少し恥ずかしそうに笑ってくれた。


うん、その分は俺と王子ががんばればいいか。




「それじゃ、あの、この町に住むということでよろしいですか?」


三人はしっかりと頷いてくれる。


「分かりました。 ではお願いがございます」


俺は三人に改めて提案することにした。


「名前を変えませんか?。


フェリア姫はリーアと呼んで欲しいそうです」


自分がここではネスと呼ばれていることは三人は知っている。


「それでは、私はシアとお呼びください」


ルーシアさんがそう言うと、アキレーさんはうれしそうに笑う。


「あはは、まるで子供のころに戻ったようだな。


私たちは昔、そう呼びあっていたのです。


ああ、私のことはキーンと呼んでいただいて結構です」


「では、そのように。


それと出来るだけ、こう、普通に話しませんか」


もう姫でも王子でも、臣下でもない。


「ふむ、じゃあ、よろしく頼む、ネス。


と、これでいいかな?」


キーンさんが男前の顔で挨拶してくる。


「うふふ、楽しそうですわね。


では、キーン、シア、今後ともよろしくね」


「ああ、こちらこそよろしく。 シアさん、キーンさん」


リーアさんと同じ歳か、少し上くらいだろう。 少なくとも彼らのほうが年上だ。


「いやいや、呼び捨てで頼む」


何だか少し睨まれたたので、俺は「分かった」とだけ返事をした。



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