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36・俺たちは砂狐を預かる


 それから二日が経った。


俺は相変わらず少しボーっとしているらしく、時々リタリに怒られている。


「しっかりして」


「うん、ごめんなさい」


リタリが習って来た料理の味見を頼まれたんだけど、適当に答えてたようだ。


「リタリ、俺じゃなくてトニーに直接聞いたら?」


そう言ったら、また睨まれた。


「トニーには美味しいものを食べてもらいたいもの」


あー、はいはい。


「ごもっとも」


俺は、表面は焦げ、中は生焼けの鶏肉を食べさせられていた。


「油で揚げたりしないの?」


この町の屋台では火で炙って焼いた物が多い。


あとは煮込み。


「揚げる?」


油は貴重品だからかな。


子供には危ないし。


何か考えてみようかな。




 ソグが、例の海トカゲの青年を連れて来た。


俺とリタリは教会横の炊事場で試食会をやっている。


「旦那、この間はすいません」


その呼び方は止めて欲しいので、黙っている。


ちょっと困った顔をしているソグに悪いので、仕方なく、


「気にしてないよ」


と、肩の鳥といっしょに首を横に振った。


「それで何か用かな?」


俺はリタリが作った焦げ生の串焼きを差し出してみる。


「あの、もしよかったら、ここで雇ってもらえないかなと思いまして」


はっきり言って、俺は砂漠の研究をしているので砂トカゲではない彼はあまり雇っても意味がない。


「網元の親方に訊いてみたらどう?」


と話を振る。


海トカゲ族は泳ぎや船の扱いが達者なので港で働いている者が多いのだ。


 あんまり素っ気なかったせいか、嫌われたと思ったようで青年は肩を落とす。


チラッと見るとソグがちょっと睨んでる気がする。


うん、トカゲ族の表情は分からないんだけどね。


「とりあえず、何が出来るのか、中で伺います」


そう言って、家に入ってもらう。


リタリの料理をちゃんと全部食べてくれたので、そのお礼を込めて。




 先日、ガーファンさんが砂族の村から戻って来た。


三人の砂族の若者を連れて。


俺の家の裏手の家に砂族のガーファンさん一家が住んでいる。


家に前にいた彼らに気付いて声を掛けた。


「思ったより少ないですね」


俺の感想に、ガーファンさんも頷く。


「はい、今回は様子見だそうです」


なるほどね。 それで町の中をウロウロしてたのか。


砂族のことについては、なるべくガーファンさんに任せている。


俺は彼ら砂族の若者には、何も言うつもりはない。


 今日はとりあえず、ガーファンさんに三人の斡旋依頼所の登録と、受注をお願いする。


「ガーファンさんはロイドさんに依頼の作成の仕方を習っておいてくださいな」


俺からガーファンさんには、取りまとめの依頼を出している。


そしてガーファンさんから、砂族の青年たちを雇ってもらうのだ。


「分かりました。 では行って参ります」


「はい、行ってらっしゃい。 あと、費用の請求もお願いしますね」


そっちはガーファンさんの奥さんがサーラさんと共にやっているそうだ。


「サーラ?」


誰かが呟いた声が聞こえたが、俺は知らん顔を決め込む。


むう、サーラさんのために、村の人を会わせないようにガーファンさんに頼んでおかなきゃな。


あっちはミランがやるべきことだし。


俺は巻き込まれたくない。


『じゃまくさいだけだろう』


うん、ピンポン!、大正解だ。




 さて、俺は海トカゲ族の青年と話をしなくちゃいけない。


「お待たせしてすみません」


「あ、いえ」


恐縮しているのか、硬くなっているのか。


さっきより口数が少なくなった気がする。


まあ、トカゲ族は表情が分かんないからなあ。


 ソグが彼の代わりに色々と話してくれた。


「この者は、姫の護衛をしていたというより、姫の船を操っていたのだ」


デリークトは交易用の船をいくつも持っていた。


ソグが罠にはまり護衛を解雇されたきっかけとなった事件。


その時も彼は船に居た。


「何とか姫は守りましたけど、アブシースの方が船を直してくれなかったら戻れませんでした」


敵が同じ国の者だったことが悔しかった。


悔しくて悔しくて、と彼は硬い鱗の頬に涙を零した。


「姫が引きこもっちゃって、もう船を出すこともなくなって」


彼は船を下りた。




「操船、漁、泳ぎ……やっぱ網元に相談したほうがいいんじゃないか?」


「そうですかー」


ソグのようにデリークトの姫の関係で働けないかと思ってやって来たそうだ。


残念そうな彼の背中をソグがそっと叩いて励ます。


「いいじゃないか。 お前には自分の船もある。


しっかり働けば島の両親も喜ぶだろう」


ん?。


「ちょっと待って。 船を持ってるの??」


「はい。 あの、実は南方諸島の出身で、親は小さな島ですが長をしています」


子だくさんで、彼は第七子らしい。


成人すると島の男たちは親から独り立ちするため船をもらう。


「彼は長の子である故、かなり立派な船を持っている」


ソグはここぞと俺に彼を売り込んできた。


「あー」


俺の頭の中がぐるぐると動き出す。


「悪いけど、ソグ。 しばらく彼の面倒を見てもらえないか」


「承知した」


俺は二人に晩御飯を作った。


そりゃあもう、大盤振る舞いで肉を焼いたさ。


デザートも付けた。


何か分からないけど、俺の思考が何かを訴えていた。


彼を逃がすな、と。




 俺は夜中になっても頭をフル回転させていた。


紙を出して、ぐるぐると書きなぐる。


「船、船か。 エランはどうしてるかな」


あれから俺はエランの姿を見ていない。


あれだけうるさく入り浸っていたハシイスも顔を見せていない。


「うまくいってるならいいけど」


何度目かのお茶を入れるために立ち上がる。


 足元について来たユキが、ふいに外に目をやった。


【誰か来た】


「んー?」


俺は片付けていた念話鳥を出す。


「誰だ」


教会側の出入り口の戸を開けると、そこにいたのは光る眼だった。


【驚かせてすまぬ、久しぶりである】


「ああ、長老さん」


黒い毛並みの砂狐の最長老だ。


砂狐は気配を消すし、身体が大きくて目の位置が高いから気が付かなかったよ。




【頼みがあって来た】


「ああ」


そうだろうね。


ついて来いというので、いつものフード付きローブを羽織ってついて行く。


いつの間にかクロもついて来ていた。


砂狐たちが住んでいる場所の崖の下。


ユキたちが両親といた巣穴がある。


【ここにケガをしたものがいる。 魔獣に襲われ、崖から落ちたのだ】


俺とユキは中に入って確認する。


ハアハアと荒い息が聞こえた。


砂狐にしては珍しく獣の匂いが濃い。


「これは……」


小さな灯りを点すと、出産を間近に控えたメスの砂狐だった。


回復の魔法陣を発動し、ユキに付いていてもらって、俺は一旦外に出た。


「分かりました。 お預かりします」


【すまぬ。 ご迷惑をかける】


静かに抱えて穴の外に出す。


「大丈夫、きっと助ける」


母狐が落ち着くまで待って、俺は移転魔法を発動する。


黒い長老狐とクロが何か話し合っているのが闇の中に見えた。




 俺は自分の家の物置に運び込んだ。


ユキとアラシを最初に連れてきた時に、ここを砂狐用の部屋にするつもりだった。


持ち込んだ毛布や水入れはそのまま使えそうだ。


「魔力を使うのも大変だろ。 何かあればユキに頼むといい」


俺はこの部屋自体に気配を消す魔術をかけ、ユキにしばらく付いていてくれと頼む。


餌用の魔力を与えると、その砂狐は安心したように眠った。



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