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19・俺たちは正体を明かす


 魔術師マリリエンは俺たち四人の顔を見回す。


「お前さんたち、ここがどこだかお忘れかね」


ここは異界の狭間。


「身体のある者が長居できるところではないんじゃ」


そういうと杖を振る。


「え、まだ何にも解決してなああああい」


叫ぶ俺にお婆さんはニコリと微笑む。


「あとのことはわたしに任せておきな」


そう言ってるみたいだった。




 神殿の階段に戻って来た。


俺は二回目だから、ちゃんと予測してたし、何とかぶつからずに転がる。


巫女は今まで何度か他の者の失態を目にしていたんだろう。 すんなり立ち上がった。


「いたた」


情けない声を上げたのは白髭のエルフだ。


俺たちが無事な姿を見てむすっとしている。


いや、あんたもエルフなら身軽なんじゃないのか。


なんで無様に転んでるのよ。


 とりあえず三人で神殿の最上部へと上がることにした。


さっそく巫女が供物を捧げ、祝詞を上げ始める。


あんなことがあってもさすが神職だな。 ただの習慣だからかも知れないけど。




 それを横目にお爺さんが俺に話かけてきた。


「その……お前はどっちだ」


巫女の祝詞を真面目に聞いているふりをしているだけだってバレたか。


俺はふぅとため息を吐く。


「俺は俺です」


見かけは金髪緑眼の王子だけど。


「ていうか、中身は二人ですけどね」


体内に二つの人格が存在するが身体は一つ。


お爺さんは不思議そうに首を傾げる。

 



 俺は耳元にあるピアス型の魔道具に触れて発動した。


黒髪黒目になった俺は、二人のエルフに説明する。


「ご覧になったでしょう。 俺は王子の身体に入り込んだ異世界の人間です。


魔術師マリリエンによって、王子を生かすためにこの世界に呼ばれました」


いつの間にか、祝詞を捧げ終えた巫女もこちらを向いているのに気づく。


「王子はちゃんとここにいますよ」


彼らの心配は分かるので、俺は苦笑いで胸を叩く。


 

 

 そして王子が自分で魔術を<強制解除>して金髪緑眼に戻る。


俺は王子に譲って引っ込む。


「私は私だ」


王子は涼しい眼で二人のエルフを見る。


「母上のことは残念でならないが、もう時は戻せない。


取り戻せるものだけを考えようと思っている」


王子の決意表明に、俺は母親のように目を潤ませて拍手を送った。


『ケンジ。 私のことを子供扱いか?』


まさかー。 ニヤニヤ。




 だが、目に見えて二人のエルフの態度が変わった。


何で変わっちゃったんだろう、このエルフさんたちは。


驚くほど王子を熱い視線で見つめている。


王子が少し困った顔になった。


「今までは、その、ソーシアナ様のお子様だと言われても、今一つ信じられなかったのだ」


照れたように目を逸らす巫女さん。


「姿形はソーシアナ様に似てはいても、会話や態度からはどうみても高貴な血筋には見えなかった」


白髭の老人エルフが頬を掻く。


え、そうだったんだー。


 つまりは中身が俺だったから、二人のエルフは王子だと確信が持てなかったということか。


異界の狭間で俺たちがふたりに分かれたのを見て、間違いなく王子であると知った。


そして普段の行いや両親の話に対する他人行儀な態度は、異世界人の仕業だということが分かったらしい。


そうだね。 彼らは間違ってないや。

 



 元・夫婦らしい男女のエルフはその場で膝を折り、王子に対し礼を取った。


ここは神殿最上階。


俺たち三人の他には誰もいない。


「殿下。 どうか、ソーシアナ様をお守りできなかった我らをお許しください。


 王子はゆっくりと頭を横に振る。


「私は誰も恨んではいないし、怒ってもいない」


王宮の反対派貴族たちにはいろいろと思うことはあるけどね。


「ただ私のように呪詛の犠牲になって苦しんでいる者を助けたいのだ」


ん?、王子、フェリア姫のことを言ってるの?。


『私のことはさておき、大事なことだろう?』


おおう、王子、立派になられて。


『だからー。 何故、そのように私を子供扱いするのか』


不機嫌そうに鼻を鳴らす。


別に子供扱いしてるわけじゃないさ。


俺は本当にその自主的な言動に驚いてるんだよ。




「お二人に頼みたいことがあります」


王子はやっぱり王族だった。


上に立つ者の威厳っていうのかな、威圧みたいなものが自然と出て来る。


こういうのは俺には無理だ。


だって平民だもん。


「巫女殿には先ほどのように異界の狭間にいるマリリエン様との仲介をお願いしたい」


毎朝巫女はこの神殿に昇る。


何かあれば向こうから接触してくると思う。


「はい」


優雅に礼を取る女性の顔はうれしそうだ。




「ご老人、あなたには道案内をお願いしたいのです」


「はっ、どこへなりともお供いたします」


いやいやいや、なんかやけに白髭エルフが熱い。 王子も苦笑いしてる。


「して、どこへ行かれるおつもりか」


お爺さんエルフは今まで見たこともないキリッとした顔で王子を見上げる。


元は巫女の護衛をしていたというから、アブシース国でいうところの近衛兵くらいの騎士なんだろうな。


「デリークト公国のフェリア姫の館と、公宮のある町を見に行きたいです」


へ?、王子、何言ってるの。


呪術はどうするの。 お勉強はまだ途中でしょ?。


俺たちがこの森へ来た目的は解呪だ。


『場所の確認は必要だろう』


俺は頷く。 王子の言うことはもっともだ。


だけど、それは解呪の目処めどが立ってからでいいんじゃね?。




『呪術の魔法陣はだいたい理解した』


おお、さすが王子。 魔術に関しては俺も心配していなかったけど。


でもこんなに早く終わるとは思ってなかったよ。


『あとはマリリエン様がダークエルフに詳しいことを聞き出してくれるだろう』


おー、狭間にいるダークエルフはマリリエン婆さん任せることにしたんだな。


解呪を聞き出すには俺たちでは時間が限られるしね。


 驚いたエルフふたりが顔を見合わせるが、反対する気はなさそうだ。


そして王子に改めて礼を取る。


「承知いたしました」




 そして最後に俺は肩の鳥に触れながら、囁く。


「精霊様にも一つお願いがあります」


【なんだ?】


「俺たちはしばらくの間、この森の外へ出ます。


必ず戻って来ますが、その間もう一度、森とエルフ族のことを考えていただきたいのです」


昔から続く庇護をただ継続するのではなく、現在の状況を知ってもらいたい。


「古い習慣を続けることも大変でしょう。


でもエルフも森も成長するものです」


その成長を妨げてしまっていることに気付いて欲しい。




 王子の母親の故郷なのに、こんな暗い森や、エルフ族を放置しておけなかった。


俺は少し手を拡げ過ぎたかなと心配になる。


『大丈夫だ。 この森には神様がいらっしゃる。


その使いである精霊様にお願いすればあとは悪いようにはしないだろう』


王子の丸投げ、久しぶりだな。


でも俺は、この精霊様はなんだか信用できないんだけど。


【むっ】


あー、まずいな。 空気を読まれたか。


【分かった。 お前たちに信用されるようにやってみよう】


何だか不敵な笑みを浮かべていそうな返事が返って来た。


機嫌は悪くなかったみたい。 良かった。



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