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105・俺たちは新しい試練を知る


 王子の花火は、静かに始まる。


最初は一つずつゆっくりと上げる。


魔法陣から放たれた光が海面を走り、途中で空に向かって飛び上がる。


大きな音は後付けなので、タイミングが難しかったんだよな。


でも花火は音が必要だろ?。


音に気付いた客や町の人たちが徐々に港に集まり始めた。




「きれー」


子供たちの列の後ろに、住民たちが自主的に防御壁のように並んで守っている。


自警団たちは酔っ払いを威嚇しつつ、一緒に空を見上げた。


家の窓から顔を出している者、教会の階段で背伸びをしている者。


それぞれが楽し気に空を見上げていた。


 港の暗がりで魔法陣を発動していた俺の側にリーアとシアさんたちが来た。


「公爵閣下はお帰りになられました」


たぶん護衛の魔術師がいたのだろう。


町の者たちの興味が海に向いている間に、そっと移転魔法陣でデリークトへと戻ったようだ。


「そうですか」


俺はリーアの顔を見て微笑む。


彼女は公爵家の娘としての正式な礼を取った。


「ありがとうございました」


俺は首を横に振り、花火の魔法陣を数枚、リーアとシアさんに渡した。


「手伝ってもらえますか?」


魔法紙に描かれた魔法陣は、魔力を通すだけで発動するようになっている。


「喜んで!」


後ろで護衛に立つキーンさんも微笑んで俺たちを見ていた。




 最後のクライマックス。


大小の花火を連発する。


女性二人には今まで通り打ち上げ花火を、王子は海面から吹き上がるような花火を加えた。


「まあ、素敵」


魔法陣を発動することに必死になっていたリーアが、ふと手を止めて空を見上げる。


 シアさんが俺の横腹を突き、近くに見知らぬ船が浮いているのを指差す。


「きっと南方諸島連合の船でしょう」


メミシャさんじゃないかな。 祭りの話はしてあったからね。


ツーダリーや第一夫人も見ているかもしれない。


もう少し友好的な関係になれたら、祭りに招待してもいいと思う。


 他にもウザスや、峠の見張り台でも大勢の人が空を見上げていることだろう。


この世界で一生懸命に生きている子供たちの楽しい思い出になればいいな。



 

 翌朝、教会や広場で転がっている酔っ払いが大勢いた。


「しょうがないなあ」


砂漠の町に戻る時間になったら、とりあえずは集まった者だけで先に魔法陣で移動しよう。


「ネス、これを」


リーアがガーファンさんから預かった荷物を渡してくれた。


「デリークトの砂族の方から頂いた砂漠に強い植物の苗です」


「おお、それは助かるね」


サツマイモっぽい?、いやスイカかな。


「それとミラン様からですわ」


こっちはサトウキビっぽいやつだ。


 南方諸島で俺が欲しかった砂糖の原材料になる植物である。


これはサーヴの町と砂漠の町で半々に分けて、育ちを競うことになっていた。


まあ、サーヴにはあの農業の祝福持ちの紫瞳の少女がいるので大丈夫だろう。


俺は砂糖が手に入ればいいので別に勝ち負けにこだわりはない。 本当だよ?。




「さて、準備はいいかな?」


移転魔法で飛ぶために、砂漠の町に拠点を移動する者を集めていると、港がにわかに騒がしくなった。


ウザスからの船で、思わぬ高貴な客がやって来たのだ。


「兄上、ですよね?」


俺が黒髪黒目なので疑いながらこっちを見ている。


「へ?、ギルザデス殿下」


まだ一度しか会ったことがない金髪紫眼、今年で十八歳の弟王子である。


王族の中でも容姿が一番美しいとされ、芸術に秀でていて、人懐っこい性格から外交に力を入れているらしい。


「ちょうど良かった、砂漠の町へ行かれるのでしょう?。


是非、連れて行ってください」


側近や護衛を引き連れているので俺が難色を示すと、


「あ、この者たちは全員、置いて行きますから」


と、切り捨てていた。


 慌てる彼らにギルザデスは冷たい視線を向ける。


「君たち、散々兄上の悪口言ってたじゃない。


あそこは結界で悪意のある者は入れないんだよ?」


そう言って背を向ける。


彼はクライレストたちから色々聞いて来たんだろう。


いくら上層部が捕まったといっても、今までケイネスティ王子反対派だった者が、急に考えが変わる訳がない。


「さ、行きましょう」


ギルザデス殿下は悪気のない笑顔で俺の腕を掴んだ。


「あ、ああ」


彼の本心は分からないが、俺は魔法陣を発動した。




「へえ、ここが兄上の国ですか」 


末の弟は楽しそうに砂漠の町を見回す。


王都での行事から隙を見て抜け出し、移転魔法でウザスへ飛んで来た。


昨夜の花火もウザスの軍の施設で見ていたそうだ。


「アリセイラに報告するために、もっと情報が欲しいんですよ」


そう言ってキョロキョロと町の中を歩き回る。


【ねすー、あれ、だあれ?】


ユキが俺の側に来てギルザデスを警戒した。


「んー、ネスのもう一人の弟だよ」


三人の弟に一人の妹。 王子は五人兄弟の長子なのである。


 ギルザデスは結界に入れたのだから悪意はないのだろう。


容姿は完璧な王子様なのに、性格はおおらかで裏表を感じない。


芸術家だと聞いていたからもっと気難しいかと思っていたけど。


「あーーー、砂狐ですね。 これは、美しい!」


白い砂狐のユキを見つけて駆け寄って来る。


【きゃー】


「すみません、殿下。 ユキは今、お腹に子供がいるので」


あまり刺激して欲しくない。


「おお、赤ちゃんが産まれるんですね。


是非、王宮に献上してー」


先日のクライレスト王子同様に、目をキラキラさせている。




 リーアが何故かギルザデスとユキの間に入って来た。


「ネスの妻でリーアと申します」


優雅に自己紹介し、正式な礼を取る。


「あ、ご挨拶が遅れました。 アブシース国第四王子のギルザデスです。


ギルとお呼びください、義姉あね上様」


にっこりと笑う顔は、天然力も相まってケイネスティ王子より破壊力がある。


クラッとしないようにリーアがぐっと手に力を込めた。


「申し訳ございませんが、ユキの子はもう雇い主が決まっていますので」


どうやらサーヴの町での女子会は、そのための会合だったらしい。


「しばらくは新しい国の警備の強化ですわ」


俺は珍しく鼻息の荒いリーアが見れたので満足だ。




 砂狐は魔獣である。


いくら子供でも危険だし、手懐けるためには十分な愛情と餌となる魔力が必要なのだ。


残念そうな顔をするギルザデスに、王子は仕方ないよと肩をすくめてみせる。


「兄上はアリセイラがお気に入りでしたからね。


ふふふ、彼女から頼んでもらえばおそらく」


むぅ、なんかぶつぶつ言ってるのが怖い。


 俺は砂漠の町といっても地上部分だけを視察させた。


ギルザデスは、二晩、塔に泊まり、


「僕は諦めませんよ、義姉あね上様。 子狐が産まれる頃にまた来ます」


そう言って追いついて来た護衛たちと共に帰って行った。


ちゃっかり自分の護衛の魔術師に移転魔法陣の目印を付けさせていた。


さすが王子の弟、侮れない。




 嵐のようにギルザデス一行が去った日の夕方、俺はリーアにユキを預けて塔に上っていた。


何故か、ソグ、海トカゲの青年、エラン一家がやって来て、俺は彼らからの「正式に臣下にして欲しい」との要望を了承した。


他の者たち、キーンさんとシアさんはリーアに忠誠を誓い、砂族たちはガーファンさんを中心に団結することになる。


 そして、デザとピティースは仲良く「これからも世話になるよ」と言いに来た。


どうやら二人で留守番の間に、ピティースはデザにちゃんと話しが出来たようだ。


「この国なら俺たちみたいなのがいてもいいだろう」


「うん。 アブシースと違い、異種族の夫婦も大歓迎だよ」


そう答えたら「まだそんなんじゃねえ!」と、珍しく照れたデザに背中を思いっきり叩かれた。


ヒドイ、イタイ。



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