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103・俺たちは前夜祭を行う


 陽が落ちる前に俺は砂漠の町に戻ることにした。


サーヴの家ではハシイスの部屋が確保できないからだ。


「私は床でもいいんですけど」


なんかこいつは自虐に走りそうなので却下した。


 ユキの件についてはリーアに任せる。


「はい。 お任せください」


本当に笑顔がかわいい。


『年上の女性にそれはどうなんだ』


何か微妙とか言ってるけど、それは王子から見たらってことでしょ?。


俺にとってはリーアは年下。


それにカワイイは年齢も性別も関係ないよ。


どうかしたら種族や大きさも。


カワイイは正義!、だったかな。


『いや、そこまでは言ってないが』


王子に呆れられちゃった、てへっ。




 夕食に集まった砂漠の住民にハシイスを紹介する。


デザが「また男か」と呟いたので、 


「女性のほうがよかった?」


と訊いたら、ピティースが大笑いした。


そこから皆が釣られて笑って、夕食は和やかな雰囲気で終わった。


 現在の砂漠の町の住民は、俺とリーア、ソグ、デザ、ピティース。


砂族はサイモン、ムーケリさん一家とポルーくん。


そして砂狐が、ユキとアラシである。


他には、二、三日おきに、クロが手紙や荷物を運んで来るし、エルフのラスドさんも顔を出す。


 今回の騒動で、王子の身元はバレてしまったが、皆あまり気にしていない。


「その、最初から訳ありだってことは分かってたしよ」


デザはサーヴでの俺の評判を教えてくれた。


 声が出ないというハンデを背負っていても王子は優秀な魔術師だ。


エルフの血のせいで王都には住めなくても、ウザスではなく、サーヴを選ぶなど普通ではない。


そんな風に言われて、俺はぽりぽりと頬を掻く。


 思えば、北の辺境から最南端のこの砂漠まで、俺たちはフラフラとやって来た。


王子の希望で魔獣のいる山側の魔法柵をずっと修理強化しながらの旅。


長いようで短かかったな。


 そして今、俺たちとこの町は大きな転換期を迎える。




 サーヴの祭りを二日後に控えた日。


俺は、その日に届くように各地へ公式文書を送ってあった。


 エルフのラスドさん経由でイシュラウル爺さんに。


デリークトへはキーンさん夫婦に頼んで、リーアの妹である公女殿下に。


そして南方諸島連合のツーダリーに宛てた公式文書をエランに届けさせた。


実はこっそり妹のアリセイラ宛ての文書も、教会の通信魔法陣でクシュトさんに送ってある。




「はあ、お前は本当にとんでもないことを考えるな」


ミランは笑いながら俺の背中を叩く。


今日は祭りの前日、最終確認のためサーヴの旧地区に来た。


「しかし、これを国王陛下は認めるのか?」


「分かりません。 でも、いいんです」


認めるとか、認めないとかではなく、これは俺と王子自身の問題だから。


「覚悟は出来ています」


ミランは頷いた。


「これを祭りの日に大々的に宣伝して、あの派手な花火とやらをぶちかますわけだ」


「ええ、去年以上に派手なのを用意しました」


俺がにこりと笑うと、それは怖いなとミランが笑う。




 ミランの恋人であるサーシャさんの件は、ほぼ決まったようで、あとは祭りの日に村の長老が来て話を詰めるそうだ。


「俺を悪者にするお前の案を採用したぞ。


向こうもビビッてたが、命があるならまた会えると納得してくれた」


やはり夫のほうは娘に対するこだわりだけだったようで、妻のことは諦めてくれたらしい。


「そういや、ロシェのほうも祭りの日に婚約発表だ」


「おお、それは良かったですね」


少年領主の成人と同時に、前々領主の娘であるロシェとの婚約が決まる。


祖父母である後見人がウザス領主に直接伝えに行き、あのハゲ頭も文句が言えなかったという。


それくらいロシェは向こうの家族に気に入られたようだ。


砂狐を餌に領主館に通わせた甲斐があったな。


結婚自体はロシェが成人する来年になる。


派手にお祝いしてやろうと思う。




 サーヴの教会前広場で、去年同様に祭りの準備が始まった。


砂漠の町の住民たちも手伝いのため、一緒に魔法陣で連れて来ている。


一日早いのは前夜祭をやろうと俺が言い出したからだ。


「その前にちょっとだけお話したいことがあります」


広場で設営を終えた夜、俺は旧地区の住民に集まってもらった。


 ただし、ユキだけは身体が心配だったので、砂漠の町に残るというデザとピティースに頼んで、一緒に留守番してもらうことにした。


例の砂族の中年男性はあれから姿を見せなくなっている。


クロの話ではウザスから船に乗ったそうだ。




 パルシーさんや従者の二人。


少年領主や、峠の見張り台の兵士たち。


食堂の親子や木工屋の親父さんや、樵のお爺さんなど、お世話になった顔が並ぶ。


「今日はお集まりいただき、ありがとうございます。


ご迷惑になるかもしれませんが、皆さんにお話ししたいことがあります」


皆の前で俺の姿は黒髪黒目から金髪緑眼に変わる。


そして、王子の身分を明かした上で、アブシース王国の王位継承はしないことを宣言する。


その辺りは町に軍用船が来たことでざわついていた時、ミランが説明してくれていたようで住民は静かに聞いている。


「王都では、すでに私の反対派貴族と教会の一部神官の粛清が行われたと聞いています」


全てが終わったわけではないが、牽制にはなったはずだ。




「私は砂漠の町を自分の国として独立します」


小さな小さな国。


住民もわずか二十人もいない。


だけど、どこよりも頑強な守りの国になる。


 王子がどんなに拒否しても、父王のように、またいつ誰かが連れ戻そうとするかもしれない。


それを事前に防ぐ意味もあっての建国だ。


他国の王を自国の王になど出来ないからね。


「国が違っても、これまで通りでお願いします」


どちらに住むかは自由に選んでもらう。


ミランは、サーヴの町の者を雇うのであれば、旧地区に住んでいなくても店は通いでも良いと言ってくれた。


王子が天使の微笑みを発動する。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、同じ内容の文書を受け取った各地では、各々の反応があった。



 アブシースの王都の分は、兄弟げんかの後、弟たちには話している。


今日、開封できるように時限装置のような魔術を掛けた文書を渡していた。


「オーレンスさん、これを見てください」


クライレストはまずは師匠であるオーレンス宰相の部屋へ届けた。


「なっ、なんですか、これは!」


厳しい顔の老宰相は、砂漠の青年からの手紙を受け取り、そしてみるみる顔色が変わっていく。




 イシュラウル爺さんとエルフの巫女は、エルフ族で情報を共有後、デリークトの教会へと向かった。


そこに待っていたのは公女であるリーアの妹姫とその夫。


「これは事実なのですね」


四人は挨拶もそこそこに文書を確認し合う。


「はい。 現地に出入りしている者が本人の意志を確認しております」


イシュラウルは、エルフの森ではケイネスティの件に関しては異論はなかったと伝えた。


「分かりました。 デリークトでは会議を招集し、すぐに国民に声明を出します」


そこに巫女が一歩前に出た。


「それでは遅過ぎますので、我らがデリークトの教会で話しましょう」


「は?」


護衛や教会の神職たちがざわついた。


「この建国が神様から承認されていることを、代表である方々に直接お知らせするのです」


巫女はすでに森の神様を呼び出す方法を心得ている。


「本物のご神託がこの国には必要でしょう?」


アブシースの亜人排斥運動を受け入れていたデリークトの教会内部を一掃する。


そのための巫女の登場である。


そして否応無く、この国も変わっていく。



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