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102・俺たちは臣下を認める


 親子の問題となると、俺はどうも気が滅入るらしく、地主屋敷を出た時はヘロヘロだった。


特になーんにもしてないのにね。


 ふと、地主屋敷の隣の雑貨屋に、子供たちが集まっていたので覗き込んでみる。


「お、新しい屋台か?」


「うんっ」


子供たちが俺を見つけて良い笑顔で答えてくれた。


何でも雑貨屋のおじさんが、子供たち用の屋台をいくつか作ってくれているらしい。


「去年は台に布を張っただけだったけど、今年は祭りが終わっても使えるようにって」


子供たちの頭の上から覗き込んでいると、雑貨屋のおばさんが外に出て来た。


手招きされて子供たちの円から外れる。


「ご領主様からの依頼でね」


ああ、そうだったのか。


唐揚げの屋台を自分でやりたいって言ってたもんな。


「いやいや、あたしらがご領主様の使う物なんざ作れないよ。


ただ、子供たち用の屋台を作ってやってくれって、金と材料を渡されてね」


ほお、ご領主様も男前だ。


 新地区の木工屋は祭りが終わるまで忙しいって言ってたな。


それでこちらに仕事が回って来たのだろう。


おじさんもはりきっているようだ。




「それより、あれ、大丈夫なのかい?」


おばさんが顔を向けたのは俺の家だ。


何故か、続々と旧地区の若い女性やリタリくらいの歳の女の子たちが入って行く。


「あはは、大丈夫でしょう」


たぶん、ユキの件で女子会が始まったんだな。


俺は笑って誤魔化す。


『……終わるまで家には入れそうもないな』


うん、そうだねぇ。




 その間に少し町の中を見て回ろう。


畑の中を歩いていたらナーキとテートの凸凹コンビが手を振る。


「お姉ちゃんはおでかけー」


ああ、さっき俺の家に入ってった。


「成長が早いな」


ここは気候がいいので冬でも作物が作れる。


「うん、見て見てー。 これね、お祭りに出すんだよー」


立派な野菜たちを小さな腕で抱き締める子供たち。


俺はあとでいくつか家に届けてもらう約束をして、その場を離れた。




 牧場に行けば王都の教会から来た例の少年が、何故か大きな魔鳥にまたがっていた。


「おい、なんだこりゃ」


「あ、ネスさまー。 すごいでしょー」


魔力で育てられた魔鳥の一部が巨大化したらしい。


元の世界でいうところのダチョウみたいだ。


あははは、お前の祝福のせいだろ、これ。


「砂狐だけじゃなくて、この鳥でも砂漠を渡れると思いますよー」


ただし、方角とかはいい加減なんだそうだ。


そりゃ、鳥頭だしな。


「砂漠の町に欲しいな」


あそこで飼いたい。


普通の魔鳥は鶏より少し大きい程度だが、暑さに弱そうなんだよな。


これなら砂漠の真ん中でも大丈夫そうだ。


「じゃ、増やしてお届けしますよ」


「ああ。 向こうに牧場が出来たら頼む」


でもこいつ本人に関しては、教会とのつながりが切れ次第ノースター行きが決定している。


隣国のドワーフがたまに姿を見せる土地柄だ。


彼も安心して生活できると思う。




 その後、俺は峠の見張り台に向かう。


向こうから一人の男性が歩いてくるのが見えた。


会いたいと思っていた者が向こうから来てくれたようだ。


「ハシイス」


まだ若い兵士は、俺の前で立ち止まる。


 今回、ハシイスは砂漠の町での兄弟げんかに参加していない。


王都から多くの兵士が来ていたし、彼には辺境での警備という仕事があったからな。


「ネス様、いえ、ケイネスティ殿下」


「あー、悪かった。 ハシィだけを除け者にした訳じゃないんだ」


後ろめたさもあって、親しみを込めて懐かしい愛称で呼んでみた。


「いえ、いいんです」とハシイスは頭を左右に振る。


「私は、今、軍を出てきました」


「は?」


だから軍服でもなく、鞄一つで歩いていたのか。


 でも、『騎士の才能』という祝福を持つハシイスが国軍を辞められるはずはない。


「大丈夫です。 クシュトさんに、国王陛下に直接交渉してもらいました」


む、あの黒い爺さんなら、それくらい何とかしそうだが。


「私はもう絶対に殿下のお傍を離れないと自分自身に誓ったので」


彼は左手の拳を強く胸に押し当てて、俺の前で騎士の礼を取る。




 祭りの前の浮かれた町の空気の中で、俺たち二人の周りだけがやけに静かだった。


「ハシイス。 俺にはそんな価値はないと言ったはずだ」


「価値を決めるのは殿下ご自身ではありません。 国の中枢にいる者たちです」


その答えに俺は狼狽える。


だってそれは俺にはどうしようもないじゃないか。


「殿下が王位継承復権を望んでいないことは分かっています」


ガストスさんもクシュトさんもそれは半分諦めている。


だけど、ハシイスの心は動かない。




 ハシイスは自分の祝福が分かった時、これで恩返しが叶うと喜んだそうだ。


望み通り、上司から辺境部隊への赴任を申し渡された。


それなのに未だに部外者として俺を見守ることしか出来ていない。


毎日のように報告書を書いても、そこに彼自身が関わっていることは少ないのだ。


「この土地に来ても、まだ私は思うように殿下の側にいることが出来ない。


俺が守りたいのはアブシース国じゃない。 ケイネスティ殿下だ」


顔を上げ、じっと俺の顔を見る。


 今回の砂漠の件だって、一言、ケイネスティとして声をかければ彼は間違いなく駆け付けた。


「軍にいる限り、あなたは私を呼ばないと気づいたんです」


他の王子との対決になれば、国軍であるハシイスにはケイネスティを守ることは出来ない。


諜報である彼は近衛兵の一部であり、国王陛下に忠誠を誓う者だからだ。


「私はネス様の力になりたい。


何も出来ないのはもう嫌だ」




 ハシイスは、ガストス爺さんがこちらに来た時に相談していた。


それを通信魔法でクシュトさんに伝えてもらい、昨夜、王都から了承されたという返事が届いたそうだ。


「ガストスさんにもがんばれって言われましたから」


ハシイスはようやくニコリと微笑む。


ぐはっ、あの爺さんたちは、なんてことを!。


「わ、分かったよ」


顔を半分逸らしながら、俺は彼を臣下として受け入れるしかなかった。


もう軍も辞めちまったし。




 俺たちは肩を並べ、噴水広場のほうへと歩き出す。


ちょっとだけハシイスのほうが高いのが気に障るけど。


「でも、元諜報だと辞めても国への忠誠というか、反抗は出来ないんじゃなかった?」


確かクシュトさんは引退していても余程のことがなければ王都から出られない。


「正式には解雇ではなくて、えっと、臨時雇い?」


「は?」


「国王陛下から直接に雇われたような感じです」


「なんだそれは」


「私に、『息子を守ってくれ』って」


だから祝福持ちであるハシイスでも軍を抜けることが出来た。


「なんだよ、結局、国王に雇われてるんじゃないか」


「いえ、違いますよ」


ハシイスは何だか微笑んでいるような、呆れているような顔になる。


「私は国王陛下ではなくて、ネス様のお父様に雇われたんです」


だってさ、王子。


『むぅ』


王子も分かったような、分からないような返事だった。




 とりあえず広場まで戻り、家の裏口に回る。


恐る恐る扉から顔を覗かせると、誰もいない。


ホッとして中に入る。


【ねすー、おかえりー】


ユキとリーアが寝室から出て来た。


「うん、ただいま」


足元にすり寄って来たユキを撫でる。


「お帰りなさいませ」


リーアをハグする。


ハシイスは俺のそんな姿をうれしそうに眺めていた。



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