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99・俺たちは弟を面会させる


 すぐに頭の良いクライレストは我に返り、この状況を把握した。


「め、女神様!」


すぐに膝を折り、最敬礼を取る。


キーサリスはまだ腰を抜かしたままだ。


「女神様にはご機嫌うるわー」


「あら、そんな挨拶はいらないわ。 今日は何の用かしら?」


王宮の祈祷室で見た姿よりも親近感のある言葉。


クライレストは訳が分からず混乱していた。


「し、しかし、ど、ど、どうして」


うふふ、と楽しそうな声が光の中に響く。


「それに、お前は誰だっ!」


頭の良いほうの弟が俺を指差した。


その指につられて、脳筋弟のほうも俺に視線を向ける。


この部屋の中には、三人の王子と女神様。 そして異世界人の俺がいた。




「こんにちは」


俺は片手を上げて二人に挨拶する。


『彼はケンジ。 私の相棒だ』


ケイネスティ王子が俺を紹介する。


おお、相棒かあ、いい響きだな。


「どうも。 異世界から来た者です。


あなたたちのことはネスが十歳の頃から知ってますよ」


ニコニコと愛想よく話してみた。


「どういうことですか、ケイネスティ兄上」


クライレストは、どうも俺のことが気に入らないらしい。


「相棒だなんて、認めませんよ、私は」


小声でブツブツ言いだす。


あー、なんか、こいつは小さい頃からケイネスティの味方だと言ってたな。


大好きな兄を取られた気分なのかも。


「ふふ、かわいいのはあの頃から変わらないね」


ギョッとした顔のクライレストが少し顔を赤くする。


『ケンジは身体を持たない。 私の体内で一つの意識として存在しているのだ』


「宮廷魔術師だったマリリエン様が、俺の魂を異世界から呼び寄せてね。


ケイネスティ王子の身体に入れたのさ」


ようやくキーサリスが身体を起こした。


「それでは、お前は、その、魂だけの存在なのか」


俺は「大正解」と声を上げた。




「でも、この二人はあまり接点がなかったもんな。


理解できなくても仕方ないよ」


リーアやユキなど、いつも一緒にいる者には俺たちの違いは分かるらしい。


 しばらく考え込んでいたクライレストが、じっと俺を見た。


「アリセイラが子供のころ、兄上が突然変わってしまったようだと言っていた」


なるほど。


アリセイラなら王子と俺が何度か会ってるから、分かったかもしれないな。


「では、本当にお前は兄上の中にいるのだな」


キーサリスが確かめるように言う。


「まあ、 今は女神様のおかげで生前の姿で現れているけどね」


「え、え、じゃあ、あなたはもう亡くなっているのか」


「そうだよ、クライレスト様。


俺は元の世界では、もう死んで身体を失っている。


魂だけで異世界へ渡って来たんだ」


二人の弟はそれ以上は何も言えずに、ただ俺とケイネスティ王子の顔を見比べていた。




「私は何故呼ばれたのかしら?」


あ、女神様をないがしろにしてしまった。


俺と王子はすぐに最敬礼を取る。


『申し訳ございません。 今回のお願いはこのキーサリスのことでございます』


「え、私か?」とキーサリスが驚いた顔をする。


何言ってんの、君のせいで仕方なく女神様に仲裁を頼みに来たんだよ。


 女神様がじっとキーサリス王太子を見つめる。


じーーーーーっとね。


「そうね。 あなたは王族だし、祝福も間違いなく与えているわ。


まだ国王ではないから、私には何も言えないわよ?」


王であれば治世の良し悪しを問うことが出来るが、まだ王ではないから何も言えない。


うん、この間教えてもらった。


「分かるかい?、キーサリス。


君はまだ王じゃない。 まだ修行中の身なんだよ」


俺はなるべく年上の貫禄というものを見せるように話す。


 何ていうのかな。


俺は確か三十歳越えたはずなんだけど、生前の姿だから二十歳のままなんだよね。


だから彼らと同年代にしか見えない。


威厳っていうものがないんだよなあ。




『キーサリス、ケンジはお前はまだまだこれからだと言っているんだ』


何故、自分で勝手にケイネスティと比べて自分を劣っていると思ったのか。


「噂や、人の言葉を簡単に信じてはいけない。


なーんて俺たちが言っても君は聞きやしないだろう?。


だから今回は女神様にお願いすることにしたのさ」


女神様の言葉ならキーサリスも信じるしかない。


他の誰よりも。


「で、では、ケイネスティ兄上は私が王太子となることに反対だったのでは」


はあ、そんなこと言われてたのか。


『教会が亜人を認めていないのだから、私が王になることはないのにか?』


キーサリスもそれは分かっているのだ。


「では女神様に訊いてみよう。


キーサリスを王太子から外して、ケイネスティを王になさるおつもりですか?」


女神は無表情のまま答えた。


「国王を決めるのは我ではない。


決めるのはあくまでも王族の者たち。


我が教えるのは、王族に対する民からの評価なのでな」


民の心が国王を支持しているかどうかを教えてくれるらしい。


おう、それはそれでちょっと怖いな。




「それでは、民の総意がケイネスティ兄上を望めばー」


『クライレスト、それを決めるのは女神様ではないんだよ』


「我が決めるのは王の治世のみだと言うたであろう。


民が王の治世に不満が多ければ、その総意により王にふさわしくないと伝えることはある」


それで王位のはく奪、交代が起きる。




「それでは私は、ただの空回りだったわけか」


キーサリスが肩を落とす。


俺とケイネスティ王子は顔を見合わせる。


『これも勉強だったんだよ、キーサリス』


「そうそう。 苦い経験を重ねて大人になるものさ」


俺たちは「だよね」と笑い合った。


「私は許せない」


クライレストの、物騒な言葉に俺たちはギョッとした。


「キースに変なことを吹き込んだ奴らを、私は許せません」


俺は座り込んでいるキーサリスに手を貸して立たせる。


「いや、キーサリス殿下はもう大丈夫だよ。


何かあればまた訊けばいいのさ」


「ね」と女神様を見上げる。


「構わぬよ」


女神様は無表情だが嫌がってはいない。


「それに」と、俺はクライレストを見る。


「すぐ側に頼りになる相棒がいるじゃないか」


キーサリスは弟のクライレストを見る。




「お、お前は俺が王になっても良いのか?。 支えてくれるのか」


「今のままだとお断りですが、意地を張らずに何でも相談してくださるなら」


これから協力出来ることもある、とクライレストは答える。


「私は自分でも地味な容姿ですし、王になりたいとも思っていません」


え、容姿は関係なくない?。


『ケンジ、この世界では容姿も判断基準になるよ』


あー、亜人に似ているだけで王都を追われたりするんだっけ。


そういえば、現国王に容姿が似ていることがキーサリスの取り柄だったな。


『それは言い方が良くないよ。 彼にとっては心の拠り所なのだろうし』


いやいや、王子、それも褒めてないじゃない。




「うふふ」


無表情だった女神様が堪えきれずに笑い出す。


「異世界から来た者よ。


お前は本当に我を楽しませてくれる」


長い、永遠を生きる天族という種族。


信仰する民に祝福を与え、気持ちを汲んで見守る。


それが天族としての役割だとしても長過ぎて飽きちゃうよね。


だからさ。


俺は王子と目を見合わせて頷く。


「では、女神様。 もう一つ、お楽しみを増やしませんか?」


俺と王子の、今までなかった未来を。



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