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96・俺たちは援軍を受け入れる


 俺がその言葉を発し、他の皆が席に着いたところで結界に侵入者が現れた。


「あ、お爺さん」


ガストスさんではない。


あっちの脳筋爺さんはウザスの兵が動かないように残ってくれている。


移転魔法陣で現れたのは白い髭と髪を伸ばしたエルフのイシュラウルさんだ。


「殿下の一大事と聞きまして、エルフの村から戦闘部隊を連れて参りました」


白い魔獣の皮鎧を装備したイシュラウルさんの隣には黒服最年長のラスドさん。


その後ろには、呪術師の弟子を表す黒い軽鎧を着たエルフが十人ほど並んでいた。


 ラスドさんはイシュラウルさんから王子の危うい事情も聞いて知っている。


砂漠で、俺たちが留守の町に向かう正体不明の一行に気づいて、援軍を呼びに行ったのだろう。


村で王子から魔術を習った黒服のエルフたちは、皆、移転魔法陣も使えるようになっていた。


 エルフたちはいつも狩りに使っている短弓ではなく、自分の背丈より大きな弓を装備していた。


俺の元の世界でいえば、和弓っていうんだっけ、あれに似ている。


確か洋弓より威力があるんだよね。


おまけにエルフは魔術が使える。


高台の村で、魔術を併用したその飛距離と破壊力は俺もこの目で見た。


これはありがたい援軍だ。




「エルフが援軍だと?」


王都の兵士たちはエルフなど滅多に会うこともない。


しかも自分たちの味方になってくれるというのだ。


彼らは今日は何度も驚かされ、クライレストはますますうれしそうに微笑む。


「さすがケイネスティ兄上だ」


いやいや、王子の弟さんよ。


そんなに興奮されてもな。


「相手もこの暑さでは動けないでしょう。


こちらに向かってくるとすれば夕方以降になるかと」


砂漠に慣れない者ばかりの一行だ。 それに王太子もいる。


無理はしないだろうと思う。


「そうだな」


イシュラウル爺さんは頷いた。


 エルフたちと話をしている間、ガーファンさんたちは砂でテーブルや椅子を作っては運び込んでいた。


ラスドさんが率先して手伝っているので、エルフの村の戦闘員たちも一緒に手を貸している。


エルフたちとの和気あいあいとしたムードにも王都の兵士たちは驚く。


「これは、まさしくケイネスティ殿下だからこそ出来ることですね」


クライレストの従者がボソリと呟いた。


たぶん、王子の母親がエルフだからと言いたいんだろうな。


まあ、それはそうだろうけど。




 俺は、単にエルフの血が入っているから、だけとは思っていない。


俺と王子は自らエルフの森に入り、努力して交流してきた。


だからこそ、エルフの村の黒服たちが駆け付けてくれたんだと思う。


『そうかな。 交流がなくてもあのお爺さんは来てくれただろう』


そうだね。 確かにイシュラウルさんは来るかもね。


だけど、他の者たちは?。


「王子ががんばって呪術を習得してくれたおかげだよ」


『そういうことなのか』


うん、彼らは少なくとも俺たちに悪い印象は持っていない。


森の変革がエルフの戦闘部隊の設立のきっかけでもある。


あれは俺たちが森に入ったことが発端だったんだよな。


「情けは他人ひとの為ならず」


『それは何だ?』


他人を助けることは、回り回って自分を助けることになる。


だからドンドン人助けしろって事じゃなかったかな。


元の世界の言葉だけど、俺はこのことわざ、好きだった。


「俺は家族に迷惑かけっぱなしで死んじまったけど。


それでも、この世界でがんばって王子を生かし続けられたら、きっと元の世界の俺の家族も救われる気がするんだ」


俺がこの世界で、泣いたり笑ったりして生き続けている限り。


『ケンジ』




 俺がブツブツと王子と喋っていると、クライレスト王子が心配そうに顔を覗き込んだ。


「兄上?」


「あ、すまない。 作戦だったね」


机は三列になり、参加人数も三十人を越えている。


皆が俺と王子の言葉を待っていた。


「こんな時に、と思われるかもしれないが聞いて欲しい。


実をいうと、今回のことはただの兄弟げんかなんだ」


「はあ?」


全員がポカンとした。


俺はクライレストの肩を叩き、「そうだよな」と同意を求める。


頭の良い弟は、ハッとした顔になり、そして頷いた。


「確かに、ここにいる長兄と、今、砂漠に姿を見せようとしている次兄。


二人の兄弟げんかに、三番目の私が巻き込まれたようなものです」


クライレストはニヤリとした笑顔を浮かべる。


「そこで皆にお願いだ。


出来れば、兄弟三人だけで話し合いがしたい。


だから、あいつの周りにいる邪魔者を任せて良いか?」


俺も胡散臭い笑顔なら負けないぜ。


あ、今は王子の姿だからイマイチ似合わないけど。



「おそらく、彼らはこの町の結界を越えることは出来ない」


王子に対して悪意のあるものを拒否する結界だから。


「でも俺はあいつと直に話がしたい。


だから結界の外で待ち受けるつもりだ」


皆が少しザワザワする。


「砂族の皆さんには、この方角から湖へ誘導するように砂山を作って欲しい」


キーサリスたちがいる方向を指し、砂の移動で自然の壁が出来たように見せかけて移動させる。


「何故、湖へ?」


「ケンカはしているけど兄弟なのでね」


砂漠の町に入れなければ、彼らはいずれ干からびる。


俺たちはあいつらを敵だとは思っていない。


これは大規模だけど、ただの兄弟げんか。 相手を死なせたい訳ではない。


「トニーとクロとアラシは、負傷者や病人がいたら引きずってここに連れて来ること」


判断はソグとサイモンに任せる。


「リーアたちには治療を、その護衛を王都の兵士さんたちにお願いします」


クライレストが頷く。




「私らはどうするのだ?」


イシュラウルさんが面白くなさそうに俺を見る。


本当にこの世界の爺さんたちは脳筋というか、戦闘好きだよなあ。


「エルフの皆さんには私の後ろで威嚇してもらいます」


結界の外になるので危険だが、彼らには魔法もある。


弓も遠距離攻撃用なので距離を取ってもらい、少しでも護衛たちが動いたら威嚇攻撃してもらう。


だけど生ぬるい攻撃では威嚇にならない可能性もある。


「相手も王宮の精鋭です。 間違ってケガをさせてしまうかもしれません」


見極めは難しいが、そのための治療班だ。


イシュラウル爺さんは「承知した」と笑みを浮かべた。


人族相手に戦えると聞いてうれしそうだけど、出来れば穏便にね。




「ネス、俺たちは?」


デザとピティースは緊張した顔で俺の言葉を待っていた。


「お二人には、この塔の上で見張りを。 ユキも連れて行ってください。


他の者が近寄らないか、砂嵐が迫っていないかの注意をお願いします」


砂漠で戦闘となると、もしかしたら砂狐の群れが現れるかもしれない。


その時はユキに説得に向かってもらうつもりだ。


一番の懸念は、ウザスからの横槍、南方諸島の余計な手出し。


「絶対にないと言えないのが何とも……」




「あのー」


リーアが恐る恐る声をかけてきた。


「ん、何かな?」


リーアは椅子から立ち上がる。


「サーヴの町の方は大丈夫なのですか?」


知り合いや家族がいるのだ。


「トニオさんやご領主の私兵にも頼んであるよ」


ハシイスや、リーアの幼馴染であるキーンさんとシアさん夫婦もいる。


彼らがいるから安心して任せられるよ。


そう伝えるとリーアは少しうれしそうに微笑んだ。



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