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95・俺たちは戦いに備える


 砂漠に向かうための兵士を選ぶ。


相手は王太子の護衛たちだ。 少数でも侮ることは出来ないだろう。


「私も行きます」


クライレスト殿下は当然のように言うが、彼の護衛は大反対だ。


「殿下、それはなりません。


キーサリス王太子殿下と対立することになります」


「何を言ってるんだ。 まだキース兄上がいるとは限らないだろう」


彼の兄であるキーサリス王太子は現在、行方不明となっている。


「私はただキース兄上を探しに行くだけだ」


クライレストはニヤリといやらしい笑みを浮かべて護衛たちを見る。


いつものことだと、側近たちはため息を吐いた。




 無茶をするかもしれないと、俺の意識を王子が押さえつけている。


大丈夫だと言っても信用してもらえなかった。


『ケンジは武力の争いなどない国から来た者だろう。


ここからは兵士の仕事だからな』


自分だってやったことないくせにー、とは言えない。


つまりは冷静でいられなければ足手まといだということだからね。


(分かった。 任せるから、頼む)


リーアと砂漠の町にいる皆を助けてくれ。


王子は頷いて武装した者たちを見回す。




 クライレストの従者や護衛は人数を五人まで絞ってもらった。


かなり文句を言われたが、クライレスト自身が信用できる者がそれだけしかいなかったのだ。


「他は王宮で無理に付けられた護衛だからな」


ケイネスティ王子の反対派や教会派が入っているのは間違いない。


 ソグは砂漠の町の守りのために連れて行く。


ハシイスとエランは峠の見張り台に残ってもらい、町を守るように言っておいた。


砂族のガーファンさんは自ら案内したいと申し出てくれる。


向こうには息子のサイモンがいるからね。


彼にはノースターで作った私兵たち用軽装備を貸し出す。


かなり似合わないけど、まあいいか。


 王子は装備をどうするのかと思ったら、いつもどおりのフード付きマントに赤いバンダナを口元にまいていた。


『クライレスト以上に目立つわけにはいかないからな』


ああ、そうだね。


王子が持っている鎧装備は、王族らしいというか、礼装っぽいんだよなあ。


 砂狐のクロを連れたトニーを見送りに来たトニオが、自分の剣を渡している。


「リタリはわしがちゃんと見ているから心配するな」


「はい」


色々あった親子だけど、二人が真剣な顔で頷き合っていた。


えっと、そこまでする場面じゃない気がするんだけどな。


大丈夫だよ。 王子が絶対、無事に返すからね。




 ロイドさんが、ミランからだと食料や水を大量に鞄に入れてくれた。


少年領主からも「いつでも援軍を出します」と言われたが、王子はただ笑って頷くだけだった。


『あの少年もちゃんと覚悟が出来ているのだろう』


俺は首を傾げる。


どうしてそんなことがあの言葉で分かるの?。


『私兵が護衛の任務ではなく、戦いに出る場合は領主が指揮を取らなければならないからな』


ほええ。


 前領主だった少年の父親は、魔獣狩りが行われた時はその場にいなかったと思うけど。


だからこそ、彼は父親を反面教師として、自分はそうならないよう気を付けているのかもしれないね。


やっぱり俺はまだこの世界の常識が分かってないみたいだ。


『何言ってるんだ。


ノースターでドラゴンが出た時、ケンジは真っ先に動いて、ちゃんと指揮を取っただろう?』


うお、あれが領主として当然の行動ということか。


あの時は領民を守ることに必死だったから、そんなこと考えてなかったよ。


それでいいんだと王子に言われて、ほんの少し、俺はこの世界に馴染んだような気がした。


 砂漠に足を踏み入れる。


教会の子供たちや、住民たちに見送られながら。




 ジリジリと砂漠の熱が身体を焼く。


そろそろ一番暑い時間帯に入る。


「もういいかな」


町からかなり離れただろう。


俺は偵察のために先行しているクロを呼び戻した。


「どうされましたか?」


クライレスト王子の従者が不安そうに俺を見る。


彼らは布や皮の盾で影を作り、クライレストを守るように固まって行動していた。


「皆さん、なるべく私の近くに寄ってください。


ここから移転魔法陣で飛びます」


「は?、あなたが一人で先に行かれるのですか。 我々はどうすればー」


杖を取り出した王子が魔力を込める。


一瞬で、その場にいた全員が砂漠の湖の側に移動した。


「え?」


王都から来た彼らは、心構えも何もしていなかった。


目の前の風景が突然変わって動揺している。


「な、何が起きた。 まさか、移転魔法陣でこの人数全部を運んだのか」


力のある宮廷魔術師でもせいぜい二、三人が限界である。


「お気になさらず、私が急いでいただけです」


王子はそう言って塔を指差し、彼らにはそこで休憩を取るように促した。




「ネス!」【ねえーすー】


結界の揺らぎを感じたのだろう。


ユキとリーアが駆けて来るのが見えた。


俺はそれを受け止める。


「お帰りなさいませ」


ニッコリ笑うリーアがかわい過ぎて、王子もほっこりしてる。


【あれ、なあに?】


ユキはクライレストの一行に警戒する様子を見せた。


「クライレスト殿下?」


さすがリーアは良く知ってるな。


「悪いけど、紹介はあとにしよう」


ユキを宥め、リーアには塔でもてなすように頼む。


俺はトニーに作業中の全員を塔に集めるようにと伝えた。




 初めての砂漠、そして水場に驚きながら、クライレストの一行は目の前の高い塔へと入る。


塔の一階は円形の部屋だ。


食事をするためのスペースがある他は何も無い。


「警護の皆さんはこちらで待機です」


王子はリーアとクライレストを連れて塔の階段を上がる。


クライレストは色々と聞きたいことがあるだろうが、今は黙っていた。


キーサリス王太子殿下がどこにいるのか。


それが一番の問題なのだ。


 三階ほどある塔の最上階の窓から、四方を見回す。


ソグは当然のようについて来ていた。


「こちらの方角から気配がいたします」


俺たちには全く分からないけど、砂トカゲ族であるソグには、砂漠の異変が分かるようだ。


「ソグ、どれくらいの規模か分かるか?」


王子の言葉に頷き、ソグはじっとその方角を見た。


「おそらくですが、こちらとそう変わらないかと」


王子は頷く。


数は同じだとしても、相手は王太子の直属の兵士たちだ。


油断は出来ない。




 日中の、この暑い中では向こうも動けないのだろう。


ソグの話では同じ場所でじっとしているそうだ。


こちらに仕掛けてくるとすれば陽が落ちてからになるな。


俺たちは塔の一階へと戻った。


「ネスの旦那、戻ってたのか」


デザを先頭に作業していた者たちが汗を拭きながら入って来た。 


 俺は彼らに事情を説明する。


「そうか。 んじゃ、その気配っていうのは確かに敵なんだな?」


「敵というわけではないけど。


ただ、こちらには不都合な相手であるのは間違いないね」


デザは頷き、出来ることはないかと訊いてくれた。


 王子は、リーアに女性や子供たちを連れて地下の家に行くように言ったが、


「私たちにも戦う覚悟はあります」


と、きつく睨まれてしまった。


女性に弱い王子は、こうなると何も言えなくなる。


『ケンジ、どうしたらいいんだ』


情けない声が聞こえる。


俺はスルリと王子と交代して表に出た。


「リーア、それに他の皆にもお願いしたいことがある」


砂族の皆は直接の戦闘には向かない。


だけど、砂族の魔法はこの砂漠では最強だ。


「それでは作戦会議を始めましょう」



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