表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108/125

91・俺たちは弟と会話する


 深い茶の髪色に灰色の瞳。


日に焼けていない白い肌が弱々しく見えるが、彼は文官寄りだから仕方ない。


背丈は俺たちよりも高くて、ほんとに三つも年下なのかと疑いたくなる。


「お久しぶりです」


ニコニコとうれしそうに声を掛けてくる。


そういえば、幼い頃も彼は俺の味方だと言ってたっけ。


王宮の庭で見たあの幼い笑顔を思い出す。


まあ、あの頃から頭は良いと言われていたから、何かの策略だった可能性もあるけどね。


『子供なのにか?』


子供だからかな。


子供ってさ、身近にいる大人の顔色を見るんだよね。


そして、無意識に大人に気に入られようとするのさ。


彼には良く似た容姿の母親がいた。


 ケイネスティ王子の場合は気に入られたい大人なんていなかった。


逆にそれが王子の心を真っすぐに育てたんだ。


『いや、私はひねくれまくってただろう』


ふふ、そんなことはないよ。


ただ生きる気力が無かっただけさ。




 クライレスト王子の従者の一人がコホンと咳をする。


「今回は偶然にお会いする機会があり、クライレスト殿下が是非お話がしたいと」


どうやらこの従者は殿下の信頼が厚いようで、こっちのことは知っている感じだ。


「光栄です」


俺は短く礼を述べる。


不満そうな護衛たちの顔は見なかったことにしよう。


はあ、こういう時はトカゲ族の分かりにくい表情が羨ましいよ。


「最近の砂漠はどうですか」


弟殿下は簡単な雑談から入る。


砂漠を話題にするのは俺の立場を考えてのことだろう。


本当にこの弟は頭が良いのだ。


「砂漠の中に水場を発見しまして、今はそこを中心に開発をしています」


「開発ですか?」


王族が消した砂漠を復活させているように思ったのだろう。


王都から来た者たちが表情を硬くする。




「開発といっても、せいぜい私どもが住む場所程度です」


砂漠は季節や天候によっては歩き回ることが難しい。


「それで拠点にしようと思いまして。


テントでは砂に埋もれてしまうので、水場の近くに煉瓦を積んでいるんですよ」


敵意を向けられても知らん顔で、俺はニコリと微笑む。


「すばらしいと思います。 もっと詳しくお聞きしたい」


身体を乗り出す王子殿下に側近たちが止めに入る。


「クライレスト殿下、そこまでにいたしましょう」


やんわりとした声にも嫌味がこもっている。


「そうだね」


クライレストの灰色の瞳が細くなった。


「君たち、全員部屋の外に出て」


「えっ」


「早く出て。 私の命令が聞けないのか?」


「はっ、はい」


王子殿下は、一人の従者を残して他の者を追い出した。


「すみません、兄上。 急だったので同行者を一部しか選べませんでした」


信頼のおける者ばかりではないのだろう。


本当に申し訳なさそうな顔の弟に、王子は黙り込む。


『何を考えているんだ』


王子はじっとクライレスト王子の顔を見つめる。




 直接聞いてみればいいんだよ。


「クライレスト殿下、どうしてこの町においでになったのですか?」


「ああ。 キーサリス兄上がこちらに行く予定だと聞いて、ついでに同行させてもらったんです」


そんな簡単に来れるものなのか。


王位継承上位の二人が同じところに。


「だって、こんな時でもないとなかなか来られませんから」


うん、そうだね、忙しそうだね。


忙しいなら来なくていいんだけど。


「今回はキーサリス兄上にもついて来て欲しいと言われました」


「え。 本当ですか?」


しかも王太子も来てるのか。


やっぱり砂族の男性の話は信用出来なかった。


クライレスト王子は「はい」と答え、


「国王陛下の許可もいただきました」


と続けた。


うへえ。 国王陛下まで知ってるのか。




 弟殿下の従者が盗聴避けの魔術を使ったのが分かった。


彼は従者であり、護衛でもあるのだろう。


「今回のことは王都の貴族の一部の策略に、教会が加担した形ですね」


弟がサラリと暴露しやがった。


「だいたい、南方諸島のことで王族が動くことなんてないはずなんですよ」


苦い顔で若い王子は腕を組む。


まだ国と国との諍いでもなく、ただの調査のはずだった。


それをケイネスティの名前を出し、キーサリス王太子を担ぎ出した。


「キースも本当は争いを好まない性格なのに」


ブツブツと小声でつぶやく。


二人の仲は悪くはないようだ。




 軍用船は本当にいざという時以外は外洋に出ることはない。


何とも威圧的な外観をしているからね。


「脅し、ですよね」


「ええ、そうです」


しかし、いざ現地に来てみれば証拠はない。


「疑わしいというだけで他国に圧力をかけるわけにはいきません」


それなのに、軍用船は出て来てしまっている。


「ああ、訓練という名目を考えたのはあなたですか」


頷きはしないが笑顔のままのクライレスト王子に、俺は納得したように頷く。


「まあ、教会はキースと兄上の対立を煽りたかったんでしょうけどね」


俺はお茶を吹き出しそうになった。


「どうしてそこで教会が出て来るんですかね」


しらっとした顔でお茶を飲んでいたクライレスト王子の顔が険しくなる。


「教会は亜人排斥運動を諦めていないんですよ」


「え」


現国王の影響で消えたはずの亜人排斥運動。




 俺は後ろに立つソグの気配が変わったことを感じる。


「亜人とは言いますが、すべては同じこの世界に生きている者たちです。


自分たちに害がないのであれば放っておけばいいのではないですか」


姿形は違っても言葉は通じるし、特に争う仲でもないだろうと俺は思う。


「教会は、優秀な亜人たちがいつか人族にとって代わると思っているんですよ」


パルシーは心を落ち着けるようにお茶を飲んで呼吸を整えた。


「ネスさん、エルフの寿命をご存知ですか?」


「んー、詳しくは分かりませんが、長寿だとは聞いています」


パルシーさんは頷き、そして人の倍以上は生きるのだと教えてくれた。


 獣人は魔力が少なく、寿命は人族とほぼ変わらない。


ソグに訊くと、他の亜人については分からないけど、


「トカゲ族はエルフと同じくらいです」


と答えてくれた。


「いつまでも若く、魔術に長け、賢く、寿命が長い」


十分脅威だと呟いた。


「は?。 それだけで排除するということですか」


なんだ、それ。


俺は訳が分からない。




「人は長生きしたいものなんですよ、兄上」


エルフ族は長命の上に、人族より美しく、魔力も多い。


「エルフ族には敵わない。 それが恨みになったんです」


自分が出来ないことをする相手が羨ましい。


だけど種族の違いはどうすることも出来ない。


だから自分たちの国には入れないようにしよう、というのが排斥運動。


「まったく、くだらない」


「ええ」


兄弟の意見が一致する。


「エルフ族の王妃が誕生して、一旦は収まりました」


クライレスト王子の従者が続ける。


「ですが、ご存知の通り、王宮は王妃にも王子にも酷い扱いをした。


誰かを恨む者は、誰かに恨まれることを恐れるものです」


えー、俺は小心者だからそんなこと考えたことないわー。


「恨まれることを恐れた者が、誰かに罪を肩代わりさせようとしたのでしょうか」


クライレスト王子が頷く。


そしてチラリとパルシーさんを見た。


「教会はキース兄上に、幼い頃からケイネスティ兄上の脅威を吹き込んでいましたよ」


「そっかー」


俺は驚き、項垂れた。


そこまで嫌われていたとはね。


「あ、私は違いますよ。 自分の目で確かめないと気が済まないので」


弟がいい笑顔で笑った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ