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89・俺たちは町に駆け付ける


 俺が移動したのは、砂漠の山側のユキたちを拾った場所だ。


なんでこんなところに出たかというと、まだ町の状況が分からないから。


「まずは、なんの煙なのか知りたい」


「見て参ります」


俺はソグに頷いた。


ソグが頷き返し、すぐに駆けだす。




 山沿いを、町に入らないようにして魔獣の森にある鉱山へ向かう。


二つある鉱山の内、町に近いほうの鉱山。


こっちには領主の私兵たちがいるはずだ。


煙は町中より山側だったと思う。


魔法柵に囲まれた鉱山口に出る。


「あれ?、ネスさんじゃないですか」


鉱山の護衛に付いている領主の私兵たちと挨拶を交わす。


彼らがのんびりしているということは、ここには問題がないということだ。


「どうもー」


鉱山には罪人や気の荒い獣人なんかがいたりするから、ここで暴動なんか起こったらと心配だったんだ。


良かった。 ひとまず胸を撫で下ろす。


「いやあ、あの軍用船っていうんですか。 近くで見たけどすごかったですよ」


軽い雑談をする。


「へえ」


興味はあるけど、今はそれどころじゃないというか。




 船。 船か。


『どうした?』


俺が黙り込むと王子が心配そうに声を掛けてきた。


キーサリス王太子はどこにいるんだろう。


もう船に乗ったのかな。


「船はまだ港に?」


「あー、峠の下の軍港に入ったのは見ましたけど、その後は見てないですねえ」


ああ、そうか。 彼はここから動いていないなら見てないか。


「そうですよねー」


俺は雑談をしながらソグを待つ。


 ガサリと音がして、もう一つの鉱山に繋がる道から、砂狐のクロが出て来た。


【ネス、来たのか】


「や、クロ。 どうした」


クロを追って、息を切らせたトニーもやって来る。


「あ、師匠!。 あの」


俺は、何かを言いかけたトニーの口を塞いで押し留める。


「すみません、お邪魔しました」


そのまま引きずるように鉱山の道を下り、町との境にある牧場まで移動する。




「はあ、もういいかな」


放牧用の柵に寄り掛かり、俺はトニーを解放した。


「酷いじゃないですかー」


怒った目を向けてくるトニーの頭を軽く小突く。


「あんなとこで下手な話はするな」


知らない相手を巻き込んでしまう可能性がある。


「う、すみません」


ミラン所有の鉱山を見回っていたトニーも、どうやら森の上を流れていた煙を見て慌てて下りて来たようだ。


「あれは何でしょう」


「さあな。 今、ソグが動いている」


そこにクロが口を挟む。


【何か合図のようなものではないかな。 何かが燃えていた感じがしなかった】


うん。 俺もそう思う。


 普通、ゴミや廃材なんかを燃やすと煙は黒か灰色っぽくなる。


あんなきれいな、はっきりとした白色にはならないと思う。


「誰に対しての合図なのか、だな」


砂狐の声を聞くことが出来ないトニーは、俺とクロの顔を交互に見ている。


「クロは何かの合図じゃないかと言ってる」


俺はトニーにも教える。 内緒話みたいで嫌だったんでね。


「合図ですか」


俺たちが考え込んでいると、ソグがやって来た。




「主、この者があの煙の原因だ」


ソグはひとりの砂族の男性を連れていた。


「何するんだ。 離せ!、亜人め」


ジタバタする男性は中年で独り者、砂族ではあるが人族の血も入っている。


「あの煙はあなたが?」


俺はフードを取り、赤いバンダナを念話鳥にして話しかける。


「な、なんだよ。 ちょっと量を間違えちまって、鍋の水を焚火にブチまけちまっただけだ」


あの白い煙は湯気というか、水蒸気だったのか。


いや、そうじゃないよな。


「はあ?、暑いのに焚火?。 山の中でか?」


「あんなに煙が出るとは思わなかったけど」


なんかブツブツ言ってるな。


まあ、何かの合図だったのは違いない。


彼はどうやら森の奥にいたらしい。


「危ない森によく入りましたね」


魔獣がいる森ではあるが、最近は鉱山関係者の護衛がうろついているので見かけなくなっている。


クロによると、魔獣はもっと山奥か、砂漠側のほうへ移動したらしい。


 その男性はどうみても腕っぷしは強そうじゃないし、武器も持っていなかった。


『誰か一緒にいたのではないか』


たぶんね。


「何故、そのような場所で焚火など」


「た、頼まれたんだよ、案内してくれって。 それで途中でお湯を沸かせって言われて」


俺はソグに「他に誰かいたか?」と訊いてみたが、彼は首を横に振った。




 いろいろと怪しいが、この男性自身はただ利用されただけだろう。


「ソグ、離してあげて」


解放された男性は、ソグから離れると俺を睨んだ。


「ふんっ、お前が飼い主か。 ちゃんと躾けておけ」


主なんて呼ばれてはいるが別に飼ってるわけじゃない。


「いえ、彼は仲間ですよ」


俺はチラッとソグを見る。 特に苛ついてはいないようだ。


トカゲ族は表情が分からないけど。


「そちらの飼い主は躾を怠ったようだな」


うお、ソグの声が冷たい。 珍しく怒っていらっしゃった。


『ソグは私たちが貶されたから怒っているんだろう』


あー、そうか。


「王都では確か砂族も亜人扱いではなかったか」


背の高いソグが冷たい目で男性を見下ろす。


「お、俺はちゃんと働いてるぞ。 教会でも目をかけてもらってー」


そこで彼はハッとして手で口を塞いだ。


「なるほど。 教会のお仕事としてこの地にいらっしゃったんですね」


それでは、あの合図は教会宛てということか。


『どこの教会だろう。 隣のウザス領かな』


いや、おそらく船だ。


『船?』


傭兵たちの約半数がちゃんとした軍の兵士だったと爺ちゃんが言ってた。


「つまりは傭兵に紛れて教会関係者が潜り込んでいても不思議じゃない」




 教会は神の教えを一般に広げるための施設だ。


そして、神の慈悲により孤児を預かる施設がある。


そこで育ち、成人した者は、教会の名を汚さぬようにという契約が成されていた。


つまりは大人になっても縛られたままなのだ。


「教会は金さえもらえれば何でもするということか」


教会は国や貴族からの寄付で成り立っている。


そこには神の意志なんてない。


 目の前の男性はキッと俺を睨む。


「お前もあの亜人もどきの王子の心棒者か」


「はあ?、なんのことでしょ」


俺は芝居のように胡散臭い笑みを浮かべる。


「はっ、無駄なことを。 あの王子は王にはなれないのに」


そんなことは分かってる。


王子が不機嫌そうに顔を顰めるのを感じた。


「へえ、じゃあ、誰が国王になれば良いので?」


ヘヘッと嫌らしい笑みを浮かべた男性が意外な名前を口にした。


「決まってるさ。 第三王子のクライレスト様だ」


「は?」


俺は目が点になった。




「今回は自らおいでになった」


「じゃあ、来たのは第三王子か」


俺はただ驚いていた。


「ああ、キーサリスは来ないよ。 あんな役立たず」


俺の肩にソグが手を置いた。


王子の威圧が漏れていたようだ。


王子にとってはどちらも弟だ。


王位継承に巻き込まれているとはいえ、あの弟たち自身がケイネスティを陥れようとしている訳じゃない。


彼らは皆、周りの者たちにかつがれているだけだ。


俺がぼうっとしていた隙に男性が逃げ出した。


慌ててケガでもしたのか、足を引きずっている。


「おかしいな」


爺さんの情報が間違っていたのか?。


『急に予定が変わったのだろう』


確かに船が着くまで五日あったし、その間に変わることもあるだろうけど。


俺は、何となく違和感を感じながら、その男性の後ろ姿を見送っていた。



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