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86・俺たちは森の神に会う


 あの精霊様は、本物の森の神様の遣いだと言ってたよね。


『うむ』


じゃあ、その本物の神様ってどこにいるんだろう。


「で、精霊様は?」


イシュラウルさんに訊くと、森の改造を始めてからはあまり姿は見せないそうだ。


「そっか。 じゃあ、一度神殿に上がらせてもらっていいですか?」


「ああ、構わない。 出来れば巫女を外に連れ出して欲しい」


「え?」


「巫女が神殿に入ったまま、何日も出て来ないので困っている」


食事だけは何とか運んでいるが、彼女は御神託が下りるまで出ないと言っているらしい。


「分かりました。 とりあえず、様子を見てみましょうか」


俺はラスドさんにリーアたちを頼んで、イシュラウルさんと神殿に上がることにした。


 長い階段を上る。


途中の、狭間への入り口は予想通り開いていない。


『相当な魔力がなければ開かないのだろう』


ダークエルフは元々魔力が高く、強い恨みを残していたために狭間に落ちた。


魔術師マリリエンに至っては、自分の魔力を使って異世界と繋がろうとした際に開いたんだろう。


これからは落ちる者がいないことを祈るしかない。




 一番上の祭壇に、巫女がひとり座り込んでいた。


俺の姿を見て、よろよろと立ち上がる。


「王子、よくぞいらしてくださった」


「いえ。 どうされたんですか、こんなところで」


彼女は何故こんなに憔悴しているのだろう。


『巫女というのは、神に仕えている者だろう。


その神が不在となれば、見放された感じがするのではないか?』


なるほどね。


メミシャさんの件で巫女には仲介をお願いしていたからなあ。


(王子、魔力全開で、あの精霊様を呼べるかな?)


『やってみよう』


「祈らせていただきますね」


俺は魔法陣帳から<魔力探知>を取り出す。


見つけにくい魔鳥を探す時に使うやつだ。


さて、まずはどこにいるのかを探る。


 祈りの姿勢を取り、巫女には分からないように魔力を通す。


やはり、近くにいる。


『こちらの方角だな。 では念話で呼びかけてみよう』


日頃使っている念話鳥は、相手を自分の側にいる者に限定している。


それを精霊様を指定して方角を絞ることによって、より早く声を届けられるのだ。


精霊様、ちょっと来てくださいなー。




「何の用だ?」


精霊様は以前とは違う姿で、祭殿の上から現れた。


同時に自分たちの周りが白い光に包まれる。


前、見た時は何となくエルフかなという姿をしていたが、今回ははっきりとした美形エルフ。


しかも年齢不明、中性的で性別も分からない。


 俺はその姿を見て、正式な礼を取る。


「お久しぶりでございます。 精霊様。 いえ、森の神様」


「なんだと」


イシュラウルさん夫婦が驚いて祭壇の上を見上げる。


「……どうして分かった」


ふむ、やっぱりね。


『ケンジ、どういうことだ』


「これだけ森に精霊様の気配が濃くなっていれば分かります」


神様というのは信仰だ。


エルフの森ではずいぶんと長い間、あのダークエルフが信仰されてきた。


「つまり、森の神様の力が弱まっていたんですよね」


「う、むう」


巫女が項垂れ、床に手をついた。


「申し訳ございません」


エルフの姿をした森の神様は無表情で頷いた。


「謝る必要はない。 我の責任でもある」




 俺は神様に会ったら聞いてみたいことがあった。


ここはもう狭間ではないから、時間制限もない。


「お伺いしたいことがあるのですが、よろしいですか?」


「ネスだったな。 お前のおかげで力を取り戻せそうだ。


質問を許す」


「ありがとうございます」


俺は礼を取ったまま、顔を上げた。


「非礼になりましたらお許しを」


そう言って、先に謝っておく。


俺はこの世界の常識に疎い。


相手は神様だ。


俺のどんな言葉が引っかかるか、分かったもんじゃない。


「神様は、えっと、種族は何になるのでしょうか」


「王子!、そのような無礼な」


イシュラウルさんが大きな声を出して、俺を止めようとする。


「構わぬと言ったはずだ」


神様がわずかに不機嫌な顔になったので、イシュラウルさんが慌てて下がる。


「お前は面白い奴だな」


そう言って、神様は俺たちの側に降りて来た。




「我ら、この世界で『神』と呼ばれておる者は、すべて『天族』だ」


「『天族』ですか」


神様はバサリと背中の羽を広げた。


「お、おお」


巫女と白髭のエルフが目を見張る。


 俺は以前、狭間にいたダークエルフが邪神と呼ばれていた時、精霊様に訊いたことがある。


【森の全てを任されている】


と言い、


【(ダークエルフは)種族が違う】


と言った。


森の全てを任される種族。 それが『神様』なのだろう。




「俺はこことは違う異世界から来た魂です。


あっちの世界では神様なんて見ることは出来なかった」


この世界と俺の世界の違い。


それは魔力だ。


「神様を信仰するのが同じなら、あとは魔力ですよね」


信仰(プラス)魔力、それがこの世界の神。


「この森は魔力が満ちているから、信仰を遮る魔力が存在してもおかしくないと思いました」


エルフと同じくらい大きな魔力を持ち、呪術という魔力を使わない術を持つ存在がいた。


そのため、天族である神様は信仰と魔力を得られず、姿も曖昧あいまいになったんじゃないかと。


「天族というのは縄張りというか、統治する国が決まっているんですか?」


俺はノースターで聞いた王族の物語を思い出す。


平和に暮らしていたある町が、何度も他の民族に襲われ続け、神に祈って祝福をもらって退ける話。


その祝福をもらった勇者が王で、それ以来、王の血統は祝福をもらえるようになった。


「ふふ、詳しいな。 さすがはアブシースの王族よ」




 アブシースは女神様だったが、羽を除けば人族の女性の姿をしている。


ここにいるのはエルフらしい姿をした天族。


「森の神はもしかしたら、デリークト国の神様なのではないですか?」


デリークトは教会の力が弱く、現在ではアブシースからの影響を大きく受けている。


エルフの姿をした神様がいるなら、亜人をあんな扱いをするわけがない。


「元々はエルフの森の一帯が我の管轄であったのだ」


この神様の話では、森を中心とした雑多な種族が仲良く暮らす国を作ろうとしていたそうだ。


もちろん、その中には人族もいた。


「賑やかそうで良かろう?」


ふふっと口元に笑みを浮かべる。


「しかし、種族が違うというだけで互いに相手を下に見たり、生存まで脅かすようになってな」


何度か軌道修正を試みたが、エルフの森は元々魔力が豊富で、その力をダークエルフという種族が悪用し始めた。


「自分たちを神だと偽り、神殿を建て、我の声を聞かなくなってしまったのだ」


遥か遠い昔の話である。




 森の神様はふぅとため息を吐いた。


「我にはまだ本当の力は戻っておらぬが、それでもようやく姿は取り戻した」


あとは国民にその姿と力を見せつけ、信仰を取り戻すだけ。


「とりあえず、がんばってください」


俺は他国の者なので、これ以上突っ込む気はない。


巫女がここにいるのだから。


「ありがとうございます」


巫女は何故か俺に祈りを捧げようとする。


いやいやいや、神様に祈ってよ。


ほら、神様が苦笑いしてる。


俺は神様に深く礼をして、その場から逃げるようにして階段を下りた。


 神殿を出ると、すぐに何かに抱きつかれる。


「ネス様」【ねすー】


「ああ、お待たせ」


すっかり暗くなっている。


俺たちはエルフの村の質素な夕食をご馳走になり、その後、魔法陣で移動した。



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