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85・俺たちは木材を調達する


 サーヴの町は、今、収穫祭の準備で慌ただしい。


そんな中、砂漠の町では地上の張りぼて、簡易な外側だけの家を乱立させている。


日中の陽の高い時間は休憩時間なので、その間に俺たちは食事や打ち合わせだ。


「何か足りない物とかあれば手に入れて来ます」


「あー、木材が足りねえな」


デザが汗を拭きながら材料を確認している。


 サーヴの旧地区も開発が進んでいて、魔獣のいる森が徐々に拓かれていた。


だけど、サーヴの木材は年間の出荷量が決まってるしな。


木こりのお爺さんも忙しそうだったから余裕はないかもしれない。


「そうなると、エルフの森から分けてもらってくるしかないか」


あとで森の村を訪ねてみよう。




「ピティースさんも何かあれば言ってくださいね」


デザの隣で食事を摂っていたドワーフの女性に声をかける。


「そうだね。 それと、出来れば魔獣の皮もあったら欲しい」


革細工の職人でもある彼女は、自分の工房で何やらコソコソやっている。


「べ、べつにコソコソなんてしてないよ。


収穫祭りに少し出品しようかなって」


サーヴの自分の店を休業中なので、収入の心配をしているようだ。


俺の鞄にはまだノースターで狩った巨大な魔獣の蛇の皮がある。


「蛇皮ならまだありますけど」と言ったら、首を横に振られた。


「そんなもん、こんな田舎で売り出すわけにいかないだろう」


怒られちゃった。 てへっ。




 俺とピティースさんが小声で話をしていると、デザが首を突っ込んで来た。


「なんの話だ?」


「革細工の話さ。 あんたには関係ない」


ピティースさんが何やら邪険にデザを扱っていた。


二人の間で何かあったのかな。


「はん、お前はこんなところでうだうだやってねえで、早く帰れ」


本心ではないのは分かる。


デザもピティースさんのことが心配で、そんな憎まれ口を叩いているのだ。


 ピティースさんはドワーフだという疑いをかけられて町には居辛らくなっている。


だけど、デザにはそれが事実なのだとは言えなかった。


 何となく分かるよ。


本当に大切な相手だから、ピティースは嫌われるのが怖いんだ。


でも、俺はデザなら受け入れてくれると思うけど。


「わ、わかってるよ」


またコソコソしゃべっているとデザに睨まれる。


ヤンキーぽいイケメンに睨まれるのって怖いんだよ。


それでなくてもデザは身体は細いのに腕とか筋肉がすごいし。


 ピティースさんがいたたまれなくなったのか、立ち上がって自分の仮工房に戻って行った。


俺はデザがさりげなく立ち上がって後を追うのを横目で見送る。


なんやかんや言っても、お似合いなんだよな、あの二人は。




 午後の作業が始まり、俺は材料の調達に出かけることにした。


ソグとアラシに後を頼む。


「準備出来ました」【できたのー】 


うん、リーアもユキもついて来る気満々だね。 はあ。




 俺たちは、まずはサーヴの町に飛んだ。


一応、確認したいことがあってね。


「親方」


「お、ネスさんじゃねえか、どうした」


木工屋の工房はピティースの工房の隣だ。


革細工の店は休業中の札が下がっている。


「お忙しそうですね」


「ああ、おかげさまでな」


職人たちは出払っているようで、工房には親方の他に誰もいない。


「仕事の依頼か?。 しばらくは受けれそうもないが、祭りが終わったら余裕ができるぞ」


「いえ、その」


俺は親方が心配しているであろう二人が、砂漠の町にいることを報告する。


「やっぱり、そっちにいたか」


親方は安心したように大きく息を吐いた。


「大人のする事だから、とやかく言う気はねえが」


煉瓦工房のほうはバカ息子の代わりに、父親である親方がミランのところへ詫びに行ったそうだ。


すでにデザはいなくなっていたが。


「あのバカ息子は砂漠の真ん中まで行きゃしないと思うから、親方には俺から伝えとくよ」


俺は頷いて、その辺りはお任せした。


 ピティースの件では、彼女の荷物や工房の材料を送ってもらった礼を言った。


「いやあ、ずっとお隣さんだったんだから、 持ちつ持たれつってやつだ」


デザにしても、ピティースにしても、田舎には勿体ないくらいの職人だ。


「ネスさん、あの二人のこと、頼む。 俺にできることがありゃあ、何でも言ってくれ」


「はい、ありがとうございます」


親方にがっちり手を握られて痛かった。




「それで親方、新地区の教会の改装は終わりましたか?」


「ああ、終わったよ。 たいそう珍しい魔道具があって職人たちが驚いてたぞ」 


そっか 、無事に終わったか。


「えっと、その、教会に誰か訪ねて来ませんでした?。


それか、見慣れない者が出入りしていたとか」


「いや、聞いてないな」


あー、そうですか。


「あの神官さんが連れて来た若いのなら、がんばって働いてるぞ」


紫眼の少女の方は子供たちと一緒に農業の手伝い。


ドワーフぽい少年の方は、牧場で獣や魔獣の世話をしていた。


ハシイスが毎日様子を見に回っているそうだ。


俺は一安心して木工屋の工房を出る。




 さて、次は久しぶりにエルフの森、高台にある呪術師村へ飛ぶ。


エルフの村へ行く時は金髪緑眼の王子の姿にする。


「こんにちは」


「おお、ネスさん。 久しぶりだね」


エルフの黒服と呼ばれる呪術師の弟子のひとり、ラスドさんだ。


「ちょっとお願いがあって来ました」


俺はラスドさんに木材の調達の件を話す。


ついでに木工をお願い出来る者を推薦してもらえないかと訊いてみると、


「私でよければ行きますよ」


と請け負ってくれた。


木工が専門というわけではないが、森で生きるエルフたちは最低限のことは自力で出来るそうだ。


「助かります」


ラスドさんは高位魔法の移転魔法を使える。


後日、材料の届けついでに来てくれることになった。




 ユキとリーアは、エルフの女性たちに囲まれている。


俺の奥さんだと紹介したら、何故か連れて行かれたんだよね。


俺はイシュラウルさんに捕まっていて、森の改革の話を聞かなきゃならないし、あっちはお任せしよう。


「精霊様の改革は順調なんですね」


「ああ、多くの村が協力的でな。


そのうち、またエルフの村の多くが合体して、大きな町になりそうな気配だ」


 エルフの森に住む者たちが少人数の村に別れてしまったのは、魔獣や他種族の襲撃があったせいだ。  


目立つ大きな町ではなく、小規模の隠れ里になっていったのである。


「エルフと魔獣が住む地域が大きな川で寸断されて、こちら側に残った魔獣はおおよそ排除が完了した」


おかげで森は平和になり、狩りの腕も皆、上がっている。


「人族のほうも公爵家の呪いが解けたおかげで、交易も復活しているぞ」


「それは良かった」


俺はチラリとリーアを見る。


エルフたちは、解呪されたその本人が彼女だとは知らない。




「そういえば、巫女がご神託が下りなくなったと騒いでいるのだが。


何か知らないか」


と、白髭のイシュラウルさんが俺の顔をじっと見た。


ドキッ。 


今更、あのダークエルフはいなくなったとは言えない。


魔術師マリリエンもすでに魔導書に魂を移しているので、今はもうあの狭間には誰も入れないはずだ。


「そのうち、新しい御神託が下りますよ」


そんな気がする。


『どうして、そう思うのだ?』


王子は俺が気休めにそう言ったと思ったのだろう。


少し不機嫌なご様子。


だけどね、王子。


俺には何となくというか、この森にあの精霊様の気が満ちている気がするんだが。



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