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天使の雫

作者:

軽く読み流してください。

いろいろとツッコミたい部分も多いでしょうが、スルーでお願いします。

例のごとく『ご都合主義』作品です

彼女は知りすぎてしまった。


次期国王の婚約者というだけで。


婚姻を半年後に控え、公務をはじめてしまったから。


「公爵令嬢に『天使の雫』を」


国王の言葉に表情を無くした侍従が杯を彼女に手渡した。


彼女はそれがなんであるかを知りながら侍従に礼を述べていた。


いつも無表情の侍従の表情がその時だけ、歪んだ。


「最後にいう事は?」


陛下の言葉に彼女は小さな笑みを浮かべた。


「両親に感謝を……私を慈しみ愛してくださったお礼を……」


彼女の言葉にご両親が泣き崩れた。


「私が不甲斐ないばかりに多くの方にご迷惑をおかけいたします」


深々と頭を下げる彼女に多くの者が唇を噛みしめ視線を床に落とした。


その両手は強く握りしめられていた。


かくいう私の両手も爪が食い込むほどに握り締めている。


理不尽すぎる。


彼女の婚約者の不貞が原因なのに、その罪をなぜ彼女が……


国王は無表情のまま。


だが、その瞳は後悔と悲しみに溢れている。


「我が国に幸あらんことを」


彼女はそう言い残し杯を煽った。


数分後、静かにその体は床に崩れ落ちた。


彼女の手から滑り落ちた黒くなった杯がコロコロと私の足元まで転がった。


彼女はすぐに父親の手によって運び出された。


「わしはこの制度を二度と使いたくはない」


ぽつりと呟かれた国王の言葉は静まり返っていたこの場に重く響いた。


「今後、王族の配偶者の公務は婚姻後から始めるものとする。もう、あの子のような子を出さないためにも」


国王の決断に反対意見を出す者はいた。


だが、今回の件は令嬢に非は一切なかったことは誰もが知っていた。


今回の罪は次期国王と言われていた王子の愚行が原因だ。


1年ほど前から王子に纏わりつく男爵令嬢がいた。


男爵令嬢との接触が増える度に王子の行動がおかしくなっていった。


それまで慈しんでいた婚約者である彼女を蔑ろにし始めたのだ。


最初はちょっとした仲違いだろうと楽観視していた。


だが、半年ほどが過ぎ、彼女が公務を始めるようになってからひどくなっていった。


諌める彼女をきつく叱るようになり、仕舞には公務の全てを彼女に丸投げし自身は男爵令嬢と遊びまわっていた。


周囲も王子の行動を諌めた。


だが、諌めれば諌めるほど王子は男爵令嬢にのめり込んでいった。


それでも王族は側室を持つことを禁止していない。


だから国王も王妃も大臣達も男爵令嬢を側室にすればいいとまだ楽観視していた。


だが、王子と彼女が通っていた王立学園の卒業パーティーで最悪の事態を招いた。


公務でほとんど学校に通えていなかった彼女に冤罪を掛け、婚約破棄を宣言したのだ。


むろん、即座にその冤罪は晴らされた。


だが、諸外国の代表者が集まっていた卒業パーティーでの出来事。


醜聞は免れない。


もともと王家からのごり押しの婚約だった。


反対する公爵家を権力で黙らせた経由はこの国に住まう者なら誰もが知っている事だ。


それでも彼女は弱音を周りに吐くことなく10年近くもの間、王族教育を懸命に受けていた。


王家主催のパーティーで正式に次期王妃としてお披露目されていたので諸外国の人たちにも周知されていた。


なぜ、王子は彼女が公務をはじめてから断罪劇などを行ったのか。


その理由はだれにもわからなかった。


男爵令嬢の戯言を鵜呑みにした結果だろうという者がちらほらといたが確かな確証はなかった。


この国の決まりで、次期国王とされている王子の婚約者が公務を始めた後で、婚姻が出来ないと判断された場合、王子の婚約者は『天使の雫』を賜ることが決まっている。


公務を始めるということは国の機密にかかわるという事。


王家との縁が切れたとしても、公務で得た情報は他国にとって垂涎もの。


何としてでもその情報を得ようとするだろう。


過去に例がある。


婚姻を1カ月後に控えたある日、突然王子から婚約破棄をされた令嬢が他国に攫われ、自白剤を使われ国家機密が漏えいしたことがあった。


それがキッカケで戦が始まり、国が傾き始めた。


令嬢は自白剤を飲まされ、全てを話し終えたその場で殺されたという。


それ以来、我が国では国家機密に触れてしまった王族の婚約者が王家に嫁がない場合は例外なく『天使の雫』を賜ることとなったのだった。


ここ数百年、一度も使われてこなかった『天使の雫』


誰もが、自分が生きている間に使われることがあるとは思わなかった。



***


彼女が『天使の雫』を賜ってからの王宮……王家は荒れていた。


次期国王と言われていた王子は継承権を最下位に落とされた。


国王の唯一の子であったが、醜聞にまみれた者の頭上に王冠を掲げることはできないという多くの臣下の意見を取り入れての事だった。


男爵令嬢にはそのことを伝えず王妃自らが妃教育を施している。


公爵令嬢だった彼女が10年近くを費やして築き上げてきた物を1年で成し遂げれば王子との婚姻は許可すると国王が公言したからである。


最初の頃は意気揚々と妃教育を受けていた男爵令嬢だが、3カ月を過ぎるころからサボリが目立つようになった。


王妃様はあえてその事には触れず、ただ淡々と妃教育を施されていった。


しかし『1年もすればそれなりに……』と期待していた者達を男爵令嬢は見事に裏切ったのだった。


殿下以外の男性との不義密通


厳し妃教育に辟易していた男爵令嬢は授業を抜け出しては、自分の信者のもとに通っていたのだった。


学園時代から男爵令嬢の周りには多くの貴族子息が侍っていた。


妃教育が辛いと涙を流しながらそれらのもとに駆けこんでいたそうだ。


最初は殿下との未来のためにとすぐに王宮に連れ戻していた彼らもその頻度が多くなると男爵令嬢を匿うようになった。


そんなにツライのならやめればいいという甘い言葉をささやきながら……


男爵令嬢がその甘い言葉に陥落するのはあっという間だったらしい。


もともと贅沢な暮らしがしたかっただけだと修道院に入れられるまで喚いていたそうだ。


***


『天使の雫』から5年。


新たな次期国王が立太子された。


隣国に嫁がれた国王陛下の妹君がお産みになった第5王子。


幼い頃、現国王の子が一人であることを危惧した先代の王妃、現皇太后が養子に迎えた方だ。


立太子の祝賀会の場で国王は『天使の雫』の使用を永久的に禁止することを発表した。


彼女の両親はすでに領地で隠居していたが、彼女の兄夫妻が静かに涙を流していた。


その夜、私は王太子となられた殿下に呼び出された。


「君に紹介したい人がいるんだ」


そういわれ、紹介された女性に私は驚きの表情しか浮かべることが出来なかった。


殿下は悪戯が成功したと言わんばかりにニンマリと笑っている。


「私の従姉姫で、ずっと君を慕っていたんだって」


「お久しぶりです。宰相補佐官様」


にっこりと笑う彼女に驚きから困惑に感情が移行する。


「どうして……だって……『天使の雫』を……」


言葉が見つからない私に殿下は教えてくれた。


あの『天使の雫』は使用量によって症状が異なることを。


杯の半分以上摂取すれば即死。


杯の1/3ならば仮死状態。


杯の1/4ならば記憶喪失。


杯の1/5ならば一時的に意識を失うだけ……だと。


彼女の場合は1/5の量を大量の水で薄めていた為にほんの少し意識を失っていただけで、部屋を移ってすぐに意識が戻ったそうだ。


医師の診断でも異常は見られないと判断されると、母方の実家に身を寄せていたそうだ。


それが、隣国の王家だとは誰も知らなかったが……


彼女の母親は隣国の国王の腹違いの妹だった。


確か、伯爵家の出だと聞いていたが祖父母の家が伯爵家なので間違ってはいないそうだ。


婚姻前に、相続争いから逃れるために王家から伯爵家へ養女に入ったから伯爵家の出で間違ないと。


隣国の王は腹違いの妹を溺愛し、その子供もまた溺愛していたという。


もっともそれに気づいていたのは妃殿下と殿下だけだそうだけど……


彼女が慕う者のもとへ嫁がせたいと水面下で動いていたが、あのバカ王子のせいですべて立ち消えてしまったという。


「従姉姫もそろそろ適齢期でね……君が貰ってくれないかな?『花冠の君』」


悪戯っぽく笑う殿下に私はビクリと肩を震わせてしまった。


「いつ……いつから気付いていたんですか?」


「従姉姫が王子と婚約を結ばされる前から……君と従姉姫が花畑で遊んでいた時から」


「そんな昔から?」


私の家の領地にある花畑で遊んでいた私と彼女。


彼女に強請られて何度も花冠を作っていた幼い頃の思い出。


私と彼女の数少ない共通の思い出。


「あのね、君たち、周囲にばれていないと思っているようだけど時々じっと見つめあっていたんだよ?気づいていなかったのはあの王子とその取り巻き達くらいだよ。ほとんどの人達が君たちの仲に気づいていたよ。君たちが必死に隠そうとしていたから誰も触れなかったけどね」


呆れたように言う殿下に私と彼女は顔を見合わせてしまった。


「従姉姫と『天使の雫』で亡くなった令嬢が親戚関係にあることは公表されているから姿形が似ていても誰も文句は言わないよ、いや言わせない」


「姫は本当に私でよろしいのですか?苦しんでいた貴女を助けることが出来ずにいた私で……」


彼女の瞳の中に私がいる。


「いいえ、貴方がいたから私はあの場所に立っていられたんです」


彼女の瞳に映る私の姿は情けない表情をしている。


「私は貴方がいいんです。貴方じゃないと嫌なんです」


彼女の満面の笑みに自然と私の目から涙が零れ落ちた。


***


蛇足となるがその後のことに少し触れておこう。


私と彼女は多くの人に祝福され無事に婚儀を上げることが出来た。


子宝にも恵まれ、幸せに暮らしている。


愚行を行った王子は殿下が立太子された翌年に『病死』した。


多くの男性を翻弄した男爵令嬢は修道院に収容後、王族や高位貴族を幻術で惑わせた魔女として秘密裏に処理されたそうだ。


男爵令嬢と関係を持った貴族令息たちはそれぞれの家の当主によって罰せられたという。


そして、王太子殿下は逃げ回っていた令嬢を用意周到に周りを固めて捕獲し、充実した生活を送っている。


令嬢は時々、護衛を振り切って私の妻に愚痴りに来るが、概ね平和なので問題はないだろう。


いや、せめて護衛を付けて我が家に来てくれるとありがたいかな?(影の護衛はついていてもね)



作中に書き忘れました

『天使の雫』は国王だけが使うことが出来る毒の名称という事になっています。


キャラに名前を付けずに書き始めたので最後まで一人も名前が出なかったσ(^_^;)


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