動画投稿者
現代は動画で溢れている。それまで、偉大だった若者のテレビの文化が廃れ、動画配信を好む時代となっていった。理由は様々あるが、動画配信は場所や時間を選ばずに自分の好きなものを視聴できるという点が大きいと感じる。そして、近年ではそれまでテレビが主であった広告事業を動画配信サービスが担うことで動画配信者はある種の職業としての認識がされ、小学生の間ではなりたい職業の上位に選出される一大的な革命が起きている。動画投稿者は好きなとこを好きなだけ配信し、その動画内にある広告収入で稼ぎを得る。大物になれば、年収が億を超えることも容易であるという。しかし、彼らは素人である。苦労なくのし上がっていった富豪にはなにか落とし穴があるかもしれない。
ある有名な動画配信者のグループがいた。彼らの十分程度の動画にはとても個性が詰まっていて、他の動画投稿者がやっている商品紹介や、ゲーム実況などに頼らず、いつも主役は自分たちの動画であった。動画の内容は、主に学生の延長線から少し脱線したようで、一見誰もやらない、汚くて気持ち悪いことも綺麗にやりきる技術とそれを映えさせるそれぞれの個性がグループにはあった。動画のメインのターゲット層は自分たちと同じ、二十代前半から小学生まで。面白いことを伝えるといことをコンセプトに、落ち込んだときや笑いたいときは彼ら"ノンストップバス"の動画を見ようと多くの若者が視聴し、彼らは人気を得ていた。
ノンストップバスのメンバーは五人いて、素直なバカでイケメンのリーダーの倉地、ボケの引き出しが多い新芽、頭脳に優れた横尾、身体能力に特化した龍、恋愛経験が豊富で、まるで海外映画のヒーローのような雰囲気のあるジョージの構成である。いつも、動画の配信は五人で行うのではなく、リーダーの倉地一人で企画を行ったり、または誰か一人抜けていたりと動画の出演は様々で、それを倉地と横尾が編集して動画をサイトへアップロードしていた。ギャラは五人で綺麗に折半され、端数は倉地がもらっていた。中には不満に思っているものもいたが五人で話し合っての取り決めであった。実際、動画の総再生数は視聴者にも見ることができ、メンバーの中でも人気のある新芽とジョージの実演する動画は何度も再生され、顕著に結果として現れいた。
この日も炎天下の夏空のもと、倉地、新芽、龍の三人で動画撮影が行われていた。企画の内容はドッキリで、誰もいない郊外の海に近い砂浜で落とし穴を掘り、倉地と龍が海に入ろうと新芽を呼んで落とし穴のルートへと誘導し、新芽を落としてリアクションを撮影するというものだった。倉地と龍は前日から集合し、手作業で三メートルの落とし穴を作成した。一見バレバレの落とし穴であったが、新芽の性格上、動画の撮影のため海にいくと伝えておけば落とし穴に落ちることは自然なことであり、リハーサルもせず簡素なできのまま動画撮影は開始した。
いつもの自己紹介を車内で行い、海で遊ぶという偽の企画説明をして、動画は始まった。車を降り、茂みを抜けると一面に白い砂浜と海が見え、こんな綺麗な場所にもかかわらず人影は他になく、動画撮影としてロケーションは最高であった。早速、新芽を誘導し、落とし穴の手前まできた。新芽は立ち止まって状況を確認した。そして、後ずさりをして落とし穴がバレバレであることを二人に伝えるとともに脱走した。一日かけて作った落とし穴であったため二人とも是が非でも新芽を落とし穴に入れたい意思から動画がグダグダになることを覚悟して、新芽を捕まえて、落とし穴に投げ飛ばした。勢いよく行く落ちた新芽の上から砂の波が押し寄せる。倉地と龍はやりきった安堵感から満足そうな顔をしていた。しかし、数分経っても自力で出てこない新芽、焦った二人は砂浜を急いで掘り返す。そこには動かない新芽の姿があった。怖くなった二人はすぐに砂浜を埋め返す。ここは誰もいない。大丈夫だ。と互いに言葉を返しながら。砂を埋め返すと二人は車を飛ばし倉地の家に帰った。道中、撮影してい動画も削除し、互いにこれからのことを確認する。新芽は孤児院出身で、一人暮らしのために事件の発覚は遅くなるだろうと予想した。そして、家の時計を全て事件の起きた時間にセットし、アリバイのための動画を二人で撮影し、アップロードした。
次の日、メンバー四人が倉地宅に集合した。先月から予定していた他の有名動画投稿者とのコラボ撮影のためだ。できるならキャンセルしたい心境の倉地と龍であったが、大物のハチミツとのコラボ企画であり、他のメンバーが楽しみにしていたことや、キャンセルでもしようものならハチミツのチャンネルでノンストップバスが叩かれて、人気の減少もありえる。新芽がこないことは好都合であった普段からの遅刻癖でごまかし、二人は気持ちを押し殺しながら動画の撮影に挑んだ。
対談とされる形式で撮られた動画ではまずハチミツから昨日のノンストップバスの動画が面白くないことを取り上げられた。ノンストップバスらしい笑いがないことや、バカな企画でもないと辛口が飛んだ。年中動画をアップしていたら、そんな日もあると苦笑いで倉地が突っ込む。俺だったら編集の段階でボツにすると横尾が切り返して笑いがうまれた。そして、ハチミツの昨日の動画はどうなんだと龍が話題をかえてことなきを得た。小一時間のうち動画の撮影は終了し、横尾が編集してその日のうちにハチミツとの動画はアップロードされた。視聴者からのコメントにはハチミツとのコラボがよかったことや、新芽がいなくて残念、ジョージがやはり喋らないなど様々なコメントがあった。
二週間が経過した。それまでノンストップバスのチャンネルでは撮りためていた新芽の動画があったため、さほどネット上では騒がれてはいないかったが、横尾やジョージのSNSに新芽が反応しないことや実際に家に探しにいっても不在のままであることから警察に連絡が行われた。そして、横尾の提案で、新芽の情報が得られるかもしれないと考えからその様子も動画が撮影され、ノンストップバスのチャンネルにアップロードされた。そして、コメント欄が荒れる。心配の声、素行の悪さから怖い人に誘拐、ネタだと思うものは、ハチミツの逆鱗に触れて監禁など多岐にわたった。警察も動きだし、メンバーにも情報提供が求められた。新芽の携帯のGPSも反応がないことや、急に姿を消したことから誘拐事件として捜査が進められた。警察が動き出して数日がたった。ここでノンストップバスのチャンネルに一件のメールが送られる。
新芽の件について知っている。倉地、龍おまえらが殺したんだろ。証拠もある。
倉地がそれを見ると血相をかえる。いたずらなメールは見てきたが、犯行を行った二人を言い当てられた以上あの日、あの現場に三人の他に誰かがいたのは明白であった。そして、すぐに返信する。目的はなんだ?金なら用意すると。倉地には他のメンバーに黙っていた蓄えがあり、億を越えていた。そして、指定された口座に二億もの大金を振りこんだ。その後、倉地は探偵に依頼し、口座の名義やその所有者を特定する。パパラッチの安藤という男であった。安藤は嫌われるタイプのパパラッチでその日も、倉地の家から車をつけて茂みに隠れていたのだろう。倉地は安藤の元を訪れ、もう一億で証拠である写真の削除を要求した。倉地の出現に戸惑った安藤だか、それに応じて証拠を削除する。そして、そのメモリーカードの破壊と、パソコンや、携帯のデータ確認が行われ、データを移していないことを見ると倉地は安藤のもとを去った。
数日後、サイトにある動画がアップされる。新しいチャンネルのようだ。五分程度の動画には倉地と龍が映っている。日差しが強く、場所は海の近くの砂浜。新芽のやめろという声がする。そして、そのまま落とし穴に投げ飛ばしされ動画は終了した。
この動画は大きな反響を呼んだ。新芽が行方不明のこともあり、テレビでも取り上げられた。様々な媒体で紹介されたこの動画は日本で一番再生された動画となる。ノンストップバスのチャンネルは炎上、警察もこの動画から砂浜を特定し、捜査が行われた。多くの人が集まる中で、砂浜が掘り起こされた。
あの事件迷宮入りだってさ。死体もでないし、警察もてんてこ舞い。安藤の声がする。それは困ったもんだな。あの日、落とし穴の計画をあらかじめ知って安藤を呼びよせ、逃げるふりをして携帯の動画を胸ポケットで撮影していた男が静かに笑う。




