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この街で生きている  作者: Cook's Leon
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人生のメリーゴーランド2

しん‐ゆう〔‐イウ〕【親友】

意味

互いに心を許し合っている友。特に親しい友。「無二の親友」

出典:デジタル大辞泉(小学館)

窓を開けてベランダに出ると、数年ぶりにこの町に雪が降っていた。

肌を撫でる風は冷たく、体から体温を奪って行くが、手のひらで受け止めた一粒の雪からは

どこか温もりを感じた。それは小さいが頬を伝う涙よりも確かに温かかった。


「よし、落ち着いたか?んじゃ、俺は行くね。良かったら顔見せに来て。」

名刺を差し出し子供のようにニコリと笑った。名刺に目を落とすと次の瞬間には老人の影は消えていた。

「ただいま」

「健人お帰りなさい、遅かったわね。」

リビングのドアを開けると再び目を腫らした母が心配そうな顔で僕を見つめる。

「おう、おかえり」

母の向かいで居心地が悪そうに座った父が多少反応に困ったように返す。

「うん、ちょっと寄り道してた」

「そう、ご飯は食べられる?」

「うん、すごくお腹減った」

その日は、テーブルに僕の好物が並び、父の顔にはぎこちない笑顔があった。


「おっはよう!」

「ああスバル、おはよう元気だな」

「なんとなくさ~お前来ないと思ってたから」

にこやかに話しかけてくる彼とはもうと言うべきかまだと言うべきか。高校入学以来、そろそろ三年目の付き合いとなる。

心配する母を説得し、今日登校してきたのは約束を守るためだよ。なんて臭いことを言う度胸もつもりもない、が、何となくあの小さな約束を破る気にならなかったのも事実だ。

「沢村、ちょっといいか?」

大勢があくびをし目を擦る退屈な朝のホームルームの直後真剣な顔をした担任に呼ばれる。

「お前何したんだよぉ~」

と、スバルや周りの男子がニヤニヤとはやし立てる。しかしなにも呼び出されるようなことをした覚えはない。が、あのやる気のない担任があの顔で呼び出しをするとき、決まって呼び出しを受けた生徒は数日~顔を見せなくなる、つまり謹慎処分をうけるのだ。

担任のもとへ少し緊張をしながらのろのろと向かうと、まさかあの真面目な…と意外そうな顔をしていた女子たちがこそこそと耳打ちをし始めた。うるさい、僕はなにもしてないぞ。

「ん、付いてこい」

いつもはダラ橋と影で呼ばれるほど顔にやる気のない高橋先生が口をへの字に結び、ひたすらに前を見つめ歩みを進める。これは、本格的に不味いかもしれない。

「よし、入れ」

ダル橋についていきたどり着いたのは、まだ一度も中に入ったことのないここの学生の恐怖の対象、生徒指導室だった。過去にスバルが入った時には大量の反省文の用紙と一週間の自宅謹慎を持って青い顔をして帰って来た。心当たりはないが覚悟を決めて中へと足を踏み入れる。ダル橋は扉の窓を覆うように設置されている空室と書かれた看板をひっくり返し使用中へと変えた。

 通常の教室の半分ほどの広さの生徒指導室の中には長机が四角く並びそれを囲うように椅子が並んでいた。

「沢村、座れよ」

ダル橋が椅子に座りながら向かいの椅子に座るように顎で指し、僕はゆっくりと息を吸い席に着く。

沈黙が訪れ遠くから他生徒の声が聞こえる。

担任の高橋は机の上で手遊びをしそれを見つめながらどう切り出そうか考えているようだった。束の間の静寂は高橋の咳払いによって払われた。

「あー、沢村、聞いたぞ」

訳がわからず思わずへ?と気の抜けた声が漏れる。

「病気のこと」

「あ…」

全く頭から抜けていた、説教ではなかった安堵と言葉にしようの無い感情から大きなため息が出る。

「朝、親御さんから連絡があってな…その、あまり詳しくは聞いてないんだけど…今、体調は大丈夫か?」

「えぇまぁ、はい、今は大丈夫です」

「そうか…何か困ったことがあったら、すぐに俺に言えよ?それと、今日放課後親御さんに来てもらって話し合うことになった。」

「はい…あ、先生」

「ん?どうした?」

「今日の体育はさすがに…」

今の僕の瀕死の心臓では、普通に生きるのが精一杯だ。と、医者が言っていた。

「ああ、それは当然だな」

ゆっくりと頭を縦に振る高橋から目をそらし、膝の上で握る自分の手を見つめる。

「それと…一応、皆にはまだ内緒にしててください」

「…わかった」

と、校内に予鈴のチャイムが響く。

「そろそろ一限か、出れるか?」

「はい」

「よし、じゃあ遅刻しないようにもう行け」

高橋先生はいつものように気の抜けた、ダル橋の笑顔を見せた。


「さ~わ~む~らぁ?」

再び席についた僕の肩にぬるっと手を回して来たのは、やはりスバルだった。

「ついにお前も謹慎かぁ~?」

顔一杯ににやけ面を張り付けながら聞いてくる…いつものことながら顔が、近い!

「なんでもないよ、ま、ただの進路の話」

別に嘘はついていない…よね?

「なぁ~んだ、つまんね~な~」

スバルは急激に顔を落胆の色に変え大袈裟に肩を落とす。

「陸奥星君、チャイム鳴ったんだけど?」

教台に立つ国語の柳原先生はご立腹の様子だが、スバルはその愛嬌から教師たちにも好かれている。憎めないやつ、とでも言うのだろうか。

「は~い、すいません」

教室に小笑いを起こし、そのままあっという間に時は過ぎて行く。


「寒いなぁ~、死にそう」

へらへらと冗談を言うスバルを横目に右手が自然と胸元へ行く。

「確かに、今日は特別寒いね。雪、降るかもってニュースで言ってた」

「お、マジか、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲作ろ」

「…?」

駅までもうすぐというところでスバルは立ち止まり、僕の目を品定めするように見る。

「なに?怖いんだけど」

普段は明るく陽気なキャラクターな上に昔からいい奴なおかげであまり思わないし彼自身、言われることもあまりないだろうが。彼の目は、怖い。普段のふざけた表情からは想像もつかないが、生まれついての三白眼と眼力、本心を覗かれるような、隠し事は通じないような

そんな目を彼は持っていた。

「お前、なんで今日見学だったんだよ、サボりか?」

「まぁ、そんなとこ」

ふ~ん、と彼は少し納得しない様子で前を向き直した。

特に理由は無いが、なんとなくまだ、彼には僕が死ぬと、そう、知られたくなかった。

「また明日な」

「明日休みだけど?」

そう答えると彼は背を向けながら右手を振り僕とは違うホームへと降りていった。








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