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この街で生きている  作者: Cook's Leon
3/11

人生のメリーゴーランド

merry-go-round


出典:ランダムハウス英和大辞典(小学館)

音節


mérry-go-ròund

[名詞]

1.1回転木馬,メリーゴーランド(carousel,carrousel).

2.2(社会生活・事業・出来事などの)急旋回,急転回.

3.3((米鉄道俗)) 転車台(turntable).

4.4((米俗)) 目が回るほど忙しい仕事[場所など].

━━ [形容詞] (絶えず循環して行き来している)石炭輸送鉄道の



朝起きて学校へ行きそれが終わればバイトに行き、食べて 寝る そんな毎日の繰り返し。

最後に心の底から笑ったのは何時だろう、こんな生活を時間をあとどれだけ過ごすのだろう。


 県道を走る車の中はうるさいほど静かだった。目を充血させながら運転する母は一言もしゃべらず、ただ前だけを見つめていた。彼女が人目も気にせずに大泣きしているのは初めて見た、泣きたいのはこっちだと思ったが不思議と涙は出てこなかった。

窓の外を見ていると僕と同じくらいの制服を着た数人の男女が気だるそうに歩いている。

そうか、もう放課の時間か。皆勤賞逃しちゃったな。でももう、関係ないか。

「母さん」

呼び掛けると彼女は少し驚いたようなそぶりを見せ、変に高いトーンで

「ん?どーした?」

と返した。分かりやすく動揺している。

「ちょっとコンビニ寄ってもらえる?」

「うん、わかった」

変わらず高いトーンで返し顔には笑みまで張り付けていた、それを見て胸に刺されるような痛みを感じた。

それからすぐにコンビニが見え、車は駐車場に停車した。シートベルトを外しドアを開けると、母も降りようとしていた。

「車で待ってていいよ」

「え?」

「顔、ひどいことになってるよ」

そう言うと彼女はルームミラーを確認し目をこすった。

「ね?待ってていいから」

「わかった、そうする」

と微笑んだ。

車外へ出るとコンビニの前で肉まんを頬張っている男子高校生がいた、そのすぐ脇を通りコンビニに入る。

温かいミルクティーを手に取り、手ににじむ暖かさを感じながらレジへ向かった。

「あ、健人じゃん」

「ん?ああ、スバルかそういやここでバイトしてたな」

「お前なんで今日来なかったん?メールも返信しないしさー」

「あーゴメンゴメン。まぁ、色々あってさ。そんなことより肉まんちょうだい」

「肉まんお一つですね、お会計200円頂戴します」

「ん…はい」

「はい、ちょうどお預りします。明日は来いよ!またな」

「ああ、また明日ね」

後ろ向きに手を振りコンビニを出る。車に戻ろうとしたが、やめた、運転席に回り窓を叩く。

「どうしたの?」

「ちょっと歩いて帰るね」

「え?」

「歩きたいんだ」

「そう、わかった。気を付けてね」

「うん」

車で走り去る母を見送り、家とは反対方向へと歩き出した。


 先ほど、僕の人生が終わった。いや、正確には終わりが決まった。

余命を告げられたとき不思議と心は穏やかだった。もっと心が荒れるものだと思っていた。泣き喚き、この世の不条理を叫びながら走り回り、医者に掴みかかりでもするのかと思ってた。

最初は確かに驚いたし、信じなかった。医者の話を聞いている次第に少しづつ心は落ち着いていき。そっか、死ぬんだ。短い人生だったなぁ。と、どこか他人事のように感じていた。

 しばらく歩くと、人気のない小さな公園が見えてきた。ベンチが一つ置いてあり、僕はそこで先ほど買った肉まんを食べることにした。

 ベンチに座り、肉まんの包み紙を開ける。少し冷めてしまっているため立ち上る湯気は微かなものだが一口食べると口には温かさが広がる。しかし。

「味が…しない」

書いて字のごとく、味がしない。まるで粘土を食べているようだ。ミルクティーにも口を付けてみる、やはり味がしない顔が自然とにやけてくる。笑うしかない。

「死ぬのは、怖ぇよなぁ。」

突然、目の前に白髪の老人が現れた。

「隣、いいかな?」

「あ、はい」

考える間もなく隣に滑り込んでくる。この人はいったい何者?死ぬのが怖い?頭の中は沢山のはてなで覆い尽くされた。

「肉まん、冷めちゃうよ」

しばらく硬直していると、老人が再び話しかけてきた。

「でも、味が…」

何を言っているのだろう、そんなことより聞くことがあるはずなのに。

と、いきなり老人が手を伸ばしてくる。

「ちょっと失礼するよ」

「え、ちょ…」

反応する間もなく肩に手が置かれる。するとそこからじんわりと温かさが広がり、まるで身体中を覆っていた氷が春の日差しで溶けていくような、優しい感覚が全身を包み込む。

「ほら、食べてごらん」

完全に呆けたまま、言われるがまま冷めた肉まんを一かじりする。

「おい…しい…?」

「そうか、なら良かった」

先ほどは味のない粘土のようだった肉まんが味を取り戻し、いや、今まで以上に美味しく感じる。

「あの…」

「ん?どうかしたかい?」

聞きたいことは山ほどある、どれから聞こう。

「あの…」

これはちがう、もっと普通に。

「あの…あなたは?」

そう聞くと老人はポリポリと頭を掻き

「おじさんかい?おじさんはね…」

髭が綺麗に剃られた顎をさすりながら僕の目を真っ直ぐに見つめこう言った。


「おじさんは、魔法使いだよ」


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