序曲 エンディングテーマ
僕はきっと脇役だろうな
「ねぇ、母さん」
「ん?どうした?」
ドラマというのはよく出来ているみたいだ、よく見る風景にそんな不謹慎なことを思ってしまう。
「1つね、頼みがあるんだ」
「頼みって?」
やつれた顔の母さんは一言一言を逃すまいと僕の顔をのぞいた。
僕よりも酷い顔してるんじゃないか?
「スバルにね、料理を教えてあげて」
「え?スバル君に?」
何を言い出すのかと突っ込まれる前に続ける。
「そう、陸奥星 昴に。僕にそうしてくれたようにさ」
「…ええ、そう、わかった」
唐突に物事を切り出す癖も、口を継ぐめばなにも続けない事も。1度決めたことは貫き通すことも、それをやめないことも。
流石は産まれる前から一緒に居ただけのことはある。全部承知の上って顔だった。
「いい天気だね」
滝沢が相部屋の値段で取ってくれた病室からの景色は病院という施設には似つかわしくないように思えた。でもこの考えこそ不謹慎というやつだろうか。しかし、外に遊びに行きたくなる光景はベットに縛り付けられた病人には現実を突きつける。
「そうねぇ、退院したら。昔みたいにピクニックでも行こうか、お弁当はスバル君に作って貰いましょ」
自分の母親に思うのも変な話だろうけど。母の笑顔は幼い少女のようだと思う。
「じゃあ、そろそろ帰るわね」
面会時間ギリギリまで椅子に齧り付いていた母さんは看護士さんの催促を受け、大きく息を吐きながら言った。
偉く味の薄い病食の食器を眺める。
「ねぇ、母さん」
「…ごめんね」
荷物をまとめいた母さんがピタリと動きを止めた。
「…何言ってんのよ、別に今生の別れじゃないでしょ!」
明るく努める母さんを見ていると心が痛む。
「そうかもね…この場所が悪いんだ、辛気臭い」
ごめんね。
「じゃあ、また明日ね」
サイドテーブルで残りわずかな砂がサラサラと音を立てて流れていた。相も変わらず綺麗な輝きを放つ。
「ありがとう」
「いいのよ、看護師さんに怒られちゃうから。じゃ!」
静かにドアがしまり母の足音が廊下に響いた。
「さようなら」
右耳の奥で、サラサラという音が止んだ。