表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一滴の波紋【原文】1巻の2  作者: 藤田 ユキト
58/60

ある日の日記・99回


九十九回




 話しは、ここ、二三日間のスキーの旅のことにでも移ることにしましょうか。


僕は別に何にも予定がなかったので、相棒シャンが誘ってくれるのに従いました。


他の者達からは


「あんな奴が来たら、面白いものまで面白くなくなってしまうよ! あんな奴、誘うなよ!」


とゆう、ひどい罵声を浴びせられて、一瞬たじろいでしまいました(悪霊君の囁きです)。


そんな馬鹿な! そんなひどい罵声を浴びせられるほど、俺は奴等から毛嫌われているのか!……


そんなら行くのはよそうかな? とも思いました。


それに一度もスキー場へなんぞ行ったこともなかったし、別に行きたいという気持ちも、それほど湧きはしなかったのです。


 ただもしかしたら、このまま自分がダメになっていって、ここに居られなくなり、この会社から出ていかなければならなくなるかもしれない、田舎へ帰らなければならなくなるかもしれない。


それならもう二度とスキー場とやらへ出掛けるチャンスも来ないだろうし、それならとにかく行って、一風変わった思い出を作ってでも良いだろうという気もあったのです。



 出かける前に言いましたように、別に彼女の思いを胸に秘めては、とても楽しめはしないだろうという落胆的な気持ちで出掛けたのです。


しかし相棒シャンが、あれ程までに僕のことを気遣い、楽しませてくれるとは予想もしていなかったのです。


まったく彼が居なかったら、僕はずっと一人ぼっちで、ただポツ~ンとして、空しい時間を過ごしていなければならなかったことでしょう。


過ぎてみれば、本当に彼には感謝しても感謝し尽くせないほどの有り難さを感じました。


 風呂に行くことから、食事に出かける時、暇な時、話し相手にもなってくれたり――


またスキーに行っては、手取り足取りして、コーチしてくれるし――


彼があれほど心の温かみを持っている奴だとは思いもよらなかったのです。


これまで二三度、彼のアパートを訪ねて酒を交わしながら世間話や、お互いの考え、あれこれ腹を割って話した仲ではあったが、まだそれだけでは、本当の心の交流というものを感じられないでいたのです。


 僕には本当に心の触れ合いというものを、ここ最近まったく感じたことがなかったのです。


少なくとも、この会社の中ではね(感じられたといえば、川口の人達とだけぐらいだったのです)



 だから彼の心暖かい気遣いに戸惑い、この好意を素直に受け入れて良いものかどうか……? 戸惑ったのです。


何しろ彼には別に僕が居なくても他の者達とけっこう楽しくやれる融通性があります。


しかし僕にしてみれば、彼が居なければまったく他の者達と楽しく出来なかったのです。


このことを裏を返して言えば、彼はそういった僕の一人ぼっちさを哀れんで(思いやって)暖かい心の気遣いをしてくれた、ご慈悲のかたまりみたいな行為だったのです。


しかし僕にしてみれば、彼以外に、仲良く出来る者はいないし、とにかく自分が楽しみたいとかどうのとかいうことを考える前に、もう彼の好意にガムシャラにすがらずにはいられなかったのです。


 この二日間の間に、行動を共にした中で、僕自身本当に彼のことを思いやり、気遣った行為の一つでもあっただろか? と疑いたくなります。


あったかもしれないし、なかったかもしれない。


 とにかく今の僕は悲しいことながら、人との心の触れ合いなんぞというものが、まったく感じられない、冷たい心に成り下がっている人間(男)なのです。


本当に僕にも、そういったものが感じ合える相棒の一人でも欲しいと思います。


彼とまったく似た奴が田舎に一人居ることはいますが……


 だからといって、今、田舎へ帰ることも許されません。


従って、こちらでもそういった者の一人でも持ちたいのです。


彼とは、今後どこまで続くのか? ……知れません。


何しろ僕の心は冷えきった冷血人間の如く、融通性のないものですからねっ!


もし彼の方でその心を失ってしまったなら、それで終わるのでわないかと思います。


それは自分の方に彼が遠ざかっていくのを引き止めるだけの愛情というものがあるかどうか? ……


分かりませんからね……


 とにかく今後の成り行きに任せておきましょうか……ねっ!


二階の若い連中とは、相変わらず上手くいかなかったので、ここでは省略することにします。


ただ極端に相性が合わないということでしょうかねッ。



 次に、女性の方々との交流ですが――


まったく落第点をつけられるにふさわしい恥態をさらけ出しっぱなしでした。


何しろ、一見ものすごく上手く滑れそうな格好をしていながら、てんで滑ることも出来ず、尻餅ついているばかりの、無様なかっこうでしたからね。


アァ~、もし彼女が見ていようものなら、いっぺんに振られていただろうなぁ~と思います。


やはり難しいですよ!


生まれて初めてスキー用具をはめたんですからね。


他の連中がスイスイスイスイと、僕の前を滑っていくのを見ると、シャクにさわってシャクにさわって仕方ありませんでした。


こんな恥態を見せるんなら、いっそスキー用具をおっぽらかして(ほったらかして)、待合室に逃げ込んだほうがよっぽどましだと思いました。


しかしその余裕すらなく、もう見られてしまったものなら、今さら隠しだてしたってはじまらないと思い直し、恥のかきついでに、ますますふて腐れて練習に没頭しました。


尻もちドスーンドスーンと、もう目も当てられないような恥態です。


アァ~、これで今まで築いてきたスターの座も降りなければならなくなるのかと思ったら、無性に寂しくなりました。


それに遠慮ばかりして、ちっとも女性の方々と話しできなかったし、せっかくこの日記によって親しみを作り上げてきた親睦心も、これでおジャンになっただろうと思います。


 しかしあの石野と細田は可愛かったなぁ~


近くで見たら、より一層その可愛らしさは僕の目の中を潤してくる。


アァ~、もしこのような恥態を見せてなかったら……


もっと気楽に(砕けて)話すことが出来ていたなら、あるいは交際のきっかけも作れたかもしれない……


などとゆうことを空想していたら、もうまったく女性に対しての自信も全消してしまったみたいです。


 これじゃ、いくらモタイ殿と意が通じて、交際出来るようになれたとしても、上手くいかせられそうもない。


恥をかく前に、一層ここで諦めてしまえ! などと、ショボーンとなりました。


アァ~、早く彼女が欲しい。


そしてモタイ殿との苦しい恋心を断ち切りたい!





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ