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一滴の波紋【原文】1巻の2  作者: 藤田 ユキト
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ある日の日記・88回


八十八回



 今現在の僕には、家財道具の一つでさえありませんし、貯金もまったくありません。


ただ一緒になるのなら、最初の結婚式資金、借家の資金、最低限度の家財道具、購入資金がありません。


それをどうしたらいいものでしょうか?


そんなこと構わないと言ってくれますか?



 とにかく、まだ信じられないのです。


「早く手紙出せ! 手紙出せ!」と


かの悪霊君達が急かしますが――


まだ今の僕には、その事が信じられないのです。



また、その言葉に従って、手紙を出したら、とんでもない現実を見せつけられるかもしれないのです。


この日記が他の人の手に渡っていることも――


また、それを彼女が見て、好意を寄せていることも……


本当なら、常識でもっても考えられない事ですからねっ!



 僕は怖いのです。


その現実を見せつけられることが……


本当は、今までにも全然僕のことなんか考えてもおらず――


また、彼氏と相変わらずアツアツの仲でいるのかも知れないのです。


それを想像するにつけ、とてもとても自分の手は手紙を書くことを止めてしまうのです。



 アァ~、何と気の小さいことだろう。


これじゃ、彼等が言ってるように――


「一緒になっても、上手くいくはずがないよ! あの日記の中の藤田さんと、実際の藤田さんとは、全然違うんだよ! 話しても全くおもしろくないし、とても家庭なんか築いていけるものじゃないよ!」


――ということが、正しいのかもしれない。


イヤイヤ、これは今風邪をひいて、身体の調子が悪く、弱気になっているにすぎない事なんだ。


ねっ!


君もそう思ってくれるだろう?



ダメだ! ダメだ! ダメだ!


こんな消極的だったら何をやっても成し遂げられる訳がない。


「いつまでもゴタクばかり並べ立てて、チットも行動に出ようとしないよ。やっぱり藤田さんは気が小さいんだよ! みそこなったよ。あれじゃ、俺達の指導者としてやっていけるはずないよ!」と――


どこからともなく、また自分の心を弱める(痛める)ささやきが飛んできます。



何だか今の時点においては、僕と君とが一緒になることは確定的だとゆうウワサが広がっているようですね。


こうなってみたら、否が応でも一緒にならなければならないのだけど――


 しかし、どうしても彼氏のことが頭から離れられないのです!


「ひどい奴だなぁ、人の女を奪おうとしてやがる。あんな奴、叩きのめしてやれ!」


という批難を受けていることでしょうね。



 しかしそれでも、もし君が本当に僕と一緒になる気さえあったら、たとえ彼等から袋叩きにされようと、僕は決行する覚悟でいます。


そのことが本当でしたらね。


何~に、たとえ袋叩きにされても、命まで奪うことはしないでしょう。


どんなに痛めつけられようと、息の絶えない限り、僕は君への愛を死守する覚悟でいます。



本当に本当なのでしょうか?


ウンとかス~とか言ってくださいよ!


もう僕は出しますよ!


我が人生最大の恥を覚悟して、とにかく手紙を出します。


そうしてみなければ、事の一切が新展しませんからね。




 本当は、ある上役の人が――


最初、自分のことを知りたくて、この日記を手にされていたのではないかと思います。


その事も思慮に入れながら、君に絶え間なく語りかけてきた訳です。


もう僕のことは、これまでのことで、大体お分かりになったことでしょう?


本当は、見かけだおしで、なんの取り柄もない人間だということを……


それでも構わないのです。


そしてもう彼とも、君達とも、この交流を断つことにしましょう。


長く苦しく

    長く苦しく


アァ~、またまた同じ言葉の繰り返しになってしまいますねっ!



 とにかく出しますよ!


月曜日までにわネッ!


がん首をよく洗って、とにかく待っていて下さい。


それまで、他の男性には身を許さないこと!――



たとえ僕との交流が実現不可能な状態だといっても、そんなに愛想無く断らないで下さいね!


これまでさいさん、僕が尽くしてきた努力を思いやったら、とてもつっけんどん(簡単)に断れないはずです。


そして今度こそ君からの真実の言葉が聞けるものと期待しています!



アァ~、これでこのドラマも終わることになるのか!


イヤッ!


やっと終わりを迎えることになるのか……



本当に、涙が一滴ひとしずく、便せんの上に落ちます。


そしてそのしずくが僕の手紙を潤おわしてくれます。


その真心さえ送ったら、きっと彼女は分かってくれるはずだ!




 本当に、ここまで思わせていながら――


また、あの憎たらしい悪霊君達が、僕の決意を脅かすようなささやきをするのです。


「彼女は別に一緒になりたいという気はないと言っているのに、藤田さんは一生懸命書いてるよ」


「いよいよ決行するんだってよ。マァ~、仕方ないだろうなぁ。藤田さんにとっては、ああするしか方法が無かったんだよ」


「藤田さんだったら、文章書くのが上手いから、きっと彼女を怒らせるようなふうには書かないだろう」


「マァ~、好きなようにさせるさ!」


「でも、寂しいわね! これからが面白くなっていくってゆう時期に、壊れてしまうなんて……」


「そうねぇ……」


???


本当に僕はどっちを信じたらいいのでしょうか?


一緒になる気が無かったら、ないで結構なんです。


もうこんな生活には耐えられないんです。


どう転ぼうとも、とにかく事の真相をハッキリさせることが先決問題ですからね。



 一月三十一日


 恥ずかしながら小生は落第です!


妹よ!


このあわれな兄貴の姿を嘲り笑ってくれ!


妹よ!


お前の前途を祝して、今日カンパイをした。


どうしてもお前には、男としての自分の意思を伝えたくなかった。


兄妹きょうだいなるが故にねっ!


もう決して、お前に愚痴をこぼすことなんかしないつもりです。


昨日のことにおいても、はなはだ迷惑かけたことをお詫びします!


本当にごめんなさい!


俺も男だったんだ!


お前の兄貴であっても、やはりお前を一人前の女として見る目が養われていたんだ。


ごめんなさい!


そして、さようなら!


可愛い妹よ!





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