表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一滴の波紋【原文】1巻の2  作者: 藤田 ユキト
44/60

ある日の日記・85回


八十五回




――しかしとにかく、息のある内は、僕の手が勝手に動いてしまうんです。


書かずにはおれない、書いて書いて書きまくらずにはおれない。


何かの力が僕の手を動かしてしまうのです。


何の為に、何を目的として、このような(つまらない)ことをしているのか?……


自分にも分かりません!


しかし……


しかし動きます。


ただひたすら、あやつり人形のごとく、自分の手は彼等(悪霊君達)から動かされるのです。



 さて、いよいよ調子にのった所で、本、本題に入ることにしましょうか!



この頃、ささやかでわありますが、この日記を通じて自分の恐ろしいほどまでの偉大な力を知らされて、彼等はビクビクしてきつつあります。



「もしかしたら、野田さんの団結心も、藤田から壊されるんじゃないのか?」


などという噂が立ちつつあります。



「藤田ならやりかねないなぁ~」と……



 でも僕は決してそのようなつまらない闘争はいたしません。


今は別に彼(親分さん)を恨む気持ちなど微塵も持っていませんし――


彼の団結心を壊して、自分が天下を取ろうなどという途方もない夢想などするはずがないのです。


ただ彼は彼、自分は自分ということを彼に認めてもらって――


僕は僕なりにマイペースで気楽に仕事なり、生活なりしていきたいのです!


それさえ認めてもらえたなら、何も彼(彼等)に反発する必要はサラサラないのです。



しかし……


しかしまだ分かりませんね!


あるお人が言われていますように――


「彼は明日の大日本●●●をしょって立つ大物になるよ。」


「本当に課長が言われたようになってきたよ。奴ならやりかねないなぁ。」と……



でも、とてもとても僕にそのような大業など果たせる訳はないのです。




――とわ言っても、自分でも不思議なくらいに何かの力で、その目的地に行進させられているような気がします。


たとえ現在意識での力なき自分が、弱音を吐いていても――


もしかしたら本当に、そのような軌道に乗せられているのかも知れませんね!



 その事の成就を達成させうる力を養わせる為に、このような奇跡ともゆうべき、荒修行を与えられているのかも知れません。


何度、もうダメだ!いよいよダメだと絶望したか知れません。


もうこれで自分の力量も底をついたと、何度、落胆したか知れません。


 その度に、また不思議と立ち直り、挑んでいく根性と勇気が湧いてくるのですから。


本当に僕は、その大業を果たす為に生まれてきたキリスト的存在でわないか?とも思います。



 まさにあのみすぼらしい馬小屋でウブ声を発せられたキリストの誕生のごとく――


自分もみすぼらしい日雇いアルバイトの分際から、のし上がってきて――


結局はその為に導き出されてきた天才児でわないかという気もします。



しかし……


しかし、やはりダメです。


今現在の力量からしてはとてもそのような大業など果たせられるはずはありません。




 ある人が、僕が田舎へ帰るかもしれないということを聞かされて――


「田舎へ帰るなんてとんでもない話だよ! 田舎へ帰らせてたまるか。」などと――



 僕の存在価値を認めて下さるお人もおられるようです。


そのお人の意を思うと、やはり一歩尻ごんでしまうのです。



 ただ現在の苦しみから逃れたい為にと、田舎へ帰ることを考えている自分が恥ずかしくなってくるのです。



僕からしてみれば――


「僕になんか自分一人でさえ生き延びていけるかどうか? 危ぶまれているというのに、そのような大業なんか果たせられる訳ありませんよ!」


と、突っぱねたいんです。



 どうして、こんなに博識もなく、皆と仲良くすることも出来ず、言うべきことをまともに言うことすら出来ないでいる自分に、何が出来ましょうか?……


と、人知れず誰にも知られないで田舎へ帰りたいのです。




 本当にわざわざ来てもらって申し訳ありませんね。


こんなになんの取得もない僕の為に、これだけの心配をして下さっていることは、誠に有難く存じます。


そちらの生活はどうですか?


こんなに寒いというのに、暖房から離れ、僕のつまらない日記に目を凝らしていると、とても寒くて疲れることでしょうね!



 がしかし、僕には君達の善意ある行動に、何一つとして報いる術もありませんが……。


とりわけ今の僕には、こうして日記を書く事しか、君達の愛情を思いやることは出来ないのです。



 今の状態はとても不思議で、夢の中をさ迷っているみたいです。


――とにかく、もうまったく君達の行為(言動)というものを信じられなくなっていたのですからね。


それが……


本当に信じていいことなんでしょうか?


彼女が……


アァ~


夢にまで見た彼女が――


とうとう僕に本当の恋をプレゼントしてくれた!


とても……


とても僕には……


このまま彼女の愛を受け入れて良いのでしょうか?


 この日が訪れることをどんなに待ち望んでいたことか!


人の嘲笑を、胸の中がかきむしられる思いで聞き流し――


彼女の冷たい態度に、何度、死の旅路に向かうことを思ったことか……



そして今、自分は、こうして彼女の愛を勝ち取ることが出来た!



しかし……


しかし、この愛をどうして彼女から聞き、また、自分から打ち明けたらいいのか?――


その術をまったく存じ上げません。



 とにかく本当に、僕達二人はお互いに打ち明け合うことも出来ないほど、色んな束縛が絡み合って、にっちもさっちもいかなくなっている状態ですからね。


「どうして打ち明けようか?」と、彼女も僕も思案しています。



しかし彼女は、そのようにガンジガラメに縛られていても、僕の方から打ち明けてこそ、この恋も本物だと確かめたくて――


とても彼女は、まだまだ自分から返事をよこそうとしません。


本当にどうしたら良いんでしょうか?


ここまで事が熟しているというのに……



 まったく熟れた柿を目の前にしながら、それをもぎ取れずにヨダレをたらして見やっているみたいです。


とてもとても、お腹がグウグウいって我慢できるものでわありません。


と言っても、このことをただ肉欲の叫びとゆうふうには受け止めないでください。


ただひたすら恋の叫び、恋をもぎ取りたい一心で――


僕はこれまで、その熟れた柿が自然に落ちてくることを待っていたのです。



本当にその柿が落ちてくるものなら、ほって置いても自然に落ちてくるとゆうことを信じて――


ただひたすら落下地点に、敢然と立ちはだかっていたのです。


今落ちてくるか?


今落ちてくるか……と、舌なめずりをしながら(アァ~、また変な風に受け止めないで下さい)見やっていたのです。



 それがどうでしょう?


ついに後、一糸の繋ぎさえ切れれば落ちてくるという所までこぎつけました。


その柿はやがて落ちてくるでしょう。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ