ある日の日記・84回
八十四回
とにかく、今、君からの言葉が聞けないのでしたら約束してください!
いつか時期が熟した時、必ず返事をくれることを――
たとえ悲しい返事であっても構わないのです。
ただ一言、君の真実の心から発した言葉を聞きたいのです。
それによって、僕の心にも踏ん切りがつき、また未知の世界へと旅立つことが出来るのです。
本当に君の気まぐれさには、ホトホト手を焼きますよ!
後、他の娘については、もし君がどうしてもダメであったら、まだ彼氏のいない娘を紹介してもらうこと……
――を、これまでの苦しみを代償し、そのお釣りとして望むことでしょうか……
本当にもう僕は、実のある花に触れたいのです!
確かに手に掴んでいるという実感を感ずる恋人が欲しいのです!
と言っても、そう思うのは一人になって、そのわびしさ、寂しさを噛みしめている時だけなんですがね。
今は、とにかく仕事をしている時が、一番楽しいし、それに没頭している時には、君のことも、又、他の娘のことも、人生苦も、全てのあらゆる苦悶を忘れていられることが出来ます。
その時間の間だけはね!
だから仕事中に(会社にいる間に)、そのことを打ち明けられてもピンとこないのです。
やはり最初は、手紙か何かで所信をのべてもらいたいですね。
話しを本題に戻しましょうか……
アァ~……
またまた僕は幻想の悪霊君達のささやきに引きずり込まれてしまいます。
どうしても……
今の自分には、どうしても彼等の囁きを断ち切ることが出来ないのです。
しかし仕方ありませんね!
これが今の自分に与えられた、神の御慈悲、試練ですからね!
そう思って、とにかく書いていきましょうか……
とにかく今は最高に愉快です!
とてもとても、この幸福境涯にひたっている苦しみに耐えることが出来ません。
腹の腸がよじれるほど、僕の内心は、笑い転げているのです。
まさに、今世紀最大の喜劇が展開されていると言ったことは本物になってきましたね!
とにかく愉快で愉快で、どうしようもありません。
この奇跡がこのままずっと続いていけば、僕は本当に笑いころげ、狂い死にすることでしょう。
何がどうして、このように面白いことがありましょうか!
人を(特に、一般的に僕等を押し付けて、ふんぞり返っている上役陣)こけにし、からかい――
そして、そ知らぬ顔をしていることほど痛快な満足感は得られません。
もう~、もう僕は絶頂に達しそうで、失神寸前です。
でも僕は彼等の醜態を哀れみ思いやる、優しい心がありますから――
彼等の前でガバーっと、大口開けて笑い転げることが出来ません。
心の奥底で……
まさに――
君達にも両親が居られたら、一度や二度は経験があると思いますが――
二人がナニしてる時、その現場のコッケイさを見せられて、つい吹き出しそうになり、布団をかぶって笑いを殺している、あの苦しみを回帰させます。
でも、本当は別に最初から、彼等をからかおうとゆう魂胆など皆目なかったのです。
しかしそれが今日になって、ある上役から、この日記を見て(読んで)憤慨しているような仕草を盗みとりすることが出来たのです。
「お前は俺達のことを甘っちょろい、甘っちょろいと言っているが、お前の方がよっぽど甘っちょろいじゃないか! この頃は折り直しばかり出すし(仕事上のミスです)ダラケているよ」などなど。
僕はその言葉を聞かされた時、初めて自分の妄想していることが、実際現実で起こっているのでわないか?
ということを直感出来たのです!
それまでというもの、ただ自分の心の中で秘かに思い楽しんでいるものでした。
彼等が知っているとゆうことは半信半疑で、このような事を妄想して、一人楽しんでいることを、他の人が知ったら「気狂いでわないか?」と思われるのを恐れて、必死になって、表面(態度、顔)に出すまいとこらえていたのです。
その事が――
「奴も相当とぼけてやがんなぁ! あんなに騒がれているというのに、まったくお首にも出さないよ! 本当に腹の立つ奴だなぁ」と。
呆れはてられる要因ともなっていたのです。
ある時期など、本当にケンカをふっかけられそうなほど、彼等を腹立たせるような、毒々しい嘲笑の雨をふらせていたこともありました。
しかしそのような時でも、僕が平然と素知らぬ顔をして、その苦境を生き延びることが出来たのは――
もし、彼等がケンカでもふっかけたら
「何言ってんだい! そんなこと関係ないだろう。そんなに腹が立つんなら、見なきゃぁいいじゃないか! 俺は『何もワサン達に話しかけとっとじゃなかとバイ。彼女達にだけ話しよっと。そいば、ワサン達が盗み聞きすっとが悪かたい。俺は何も悪うはなかとバイ。』」と
――いとも簡単に蹴散らすことが出来るのである。
がしかし、それが起こってはこのドラマも壊れてしまうことになり、つまんないし……
無くて良かったのである。
それでとにかく、まだ続いています。
恥ずかしながら続いています。
もう飽きましたか?
僕は書くのにウンザリしてきているのです。
もし君達にもアキが来ましたら、その時こそこのドラマが完了することになります。
また、かねてからの念願であった、彼女の言葉が聞ける時だと思っています。
きっと約束してくれますよね!
その日が訪れたなら、君の真心ある言葉を聞かせてくれるのを……
とにかくそうやって、この日記がハッキリと表沙汰にされている事を自覚できました。
さっきの続きに戻りますが――
それで僕は、その言葉を聞かされた時、一瞬、先に述べた事態を直感しつつ、とぼけて返答しました。
「甘っちょろい?甘っちょろいとはどうゆうことですか?」
「甘っちょろいは、甘っちょろいんだ! お前は俺達のことを……」
(アットット!)
と、口をつぐんでしまいました。
それで僕は――
「アハ~ン、やっぱりそうだったのか」
どうりで、この頃、上役連中が僕に対して冷たい態度をとっていたんだなぁと、事の一切を呑み込むことが出来ました。
このことで、腹を立てているとは、ウチの上役連中も「底が見えと~ナイ」と――
少々悲しくもなりました。
たかが、こんなことぐらいで……
ネェ!
君達にですらこの冗談が分かるというのに……
僕がこれまで彼等に対して批難してきたことは、間違ってなかったと――
その事によって確信することが出来ました。
しかし出来たものの……
やはりこの空虚さは、癒されはしないのです。
「ウ~ン、やっぱりなぁ。考え直さなければならないか。とてもとても――。やっぱり田舎へ帰ろうかなぁ~。でも、やっぱり居ようかなぁ~。まだ彼女に対する望みも完全に断ち切られてはいないし?……」
――ということで、結局はまた、ここに留まるも否も、彼女の出方如何にかかっていることを、あらためて自覚させられたのです。
フフフ、もうどうしようもありませんね!
「奴は女にばっかり話しかけているんだよ! 俺達のことなんか、てんで問題にもしとらん! もうアホくさ、みちくさ、ションベンくさ!」などと、男連中から見離されてしまうことでしょうね。
しかしそれはどうでもいいことなんです。
僕は別に最初から彼等のことなんか眼中になんか置いていませんでしたし――
ただひたすら君達に語りかけていただけですからね。
トドのつまりは、元に戻っただけなんですよ!
アァ~、マッコツ、クダラン!




