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一滴の波紋【原文】1巻の2  作者: 藤田 ユキト
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ある日の日記・83回


八十三回



 一月二十八日


 「アァ、アァ~」


そうですか!


もう僕は何も言いませんよ!


勝手にして下さい!



 その不気味な足音が、彼等の気付かない間にダンダン近ずいて来つつあります。


現実の刹那的快楽に酔い浸っている内に、彼等の自由は一粉たりとも残さず、奪い去られようとしつつあるのです!


もう彼等には、その悪魔の手から逃れられなくなっているのです。



 アァー、神よ!


彼等に真実の世界を見極め得る叡智を授けて下さい!


そうでもしないと、彼等はダンダン悪魔の心に、魂を奪い去られるしかないのです。


 「ダンダン、ダンダン」、この会社のやり方がこ汚く見えてきた。


右を見ても左を見ても、ヘドが出そうで、とても頭を上げておくことが出来ない。


ひとたび頭を上げ、目を開いたら、そこには権力にドッカと座り、同じ人間である労働者を奴隷のごとく扱い捨てている悲惨な情景が展開されている。


もう僕には、とてもそのような惨めな姿を見ていられないのです。


とてもそのような中に、自分が求めている人生などありそうもありません。


だから……、だから僕は捨てるのです。


この会社で身を立てることを……、ね!




 とにかく今は、強盛な信心を確立すること――


これが今の自分には一番大切なことなんです。


こんなにも仕事に自分の全生涯をかけるのがつまらなくなってきているご時世なればこそ――


このような信仰に心の寄り所(人間として真にあるべき姿、人生の目的、生死の謎)を見つけるしかないのです。


 とてもとてもそれ無くしては、これからの人生を生き延びていけそうもありません!


心を救ってくれるもの?……


心を充実させてくれるもの?……


これからの人生の目標(目的)を指し示してくれるもの?……


それを与えてくれるものは、この信仰より他にはありっこない!





「アァ……、早くこの信仰に巡り合わなかったら、今頃どうなっていただろうか?」と言えるようになりたい。


 とにかくこれがなかったら、まったく生きている目的も分からず、ただ泡を掴むみたいに手応えのない現実を浮遊しているにしか過ぎないんだ。


最初はこのような事で自分の自由な時間が節減されることが、拘束されるとかいうことで――


窮屈でもあったし、たかがこんなことをしたぐらいで、自己の性格(悪い)が改善されるものかと疑ってかかった事もあった。


ポツンポツンと――


「こんなことしていて、いったいどうなるのか?」と――


この活動が無意味に思えることもあった。



 しかしたとえ、このようなことをしなくとも、それと同じくらいに――

イヤッ!


それ以下の生活を送っているに過ぎなかったことだろう。



 だから今の自分には、この活動が有意義なものであろうと、なかろうと、ただ突き進んでいくしかないのです。


まだまだ、この信仰の尊さというものが分からないでいるだけなんですね。


ひとたびその尊さというものを自覚しえたなら、きっとこれまでの苦悶もいっぺんに消し飛んでしまうことだろう事を目標にして――


ただ突き進んでいくしかありません。




ーーーーーーーーーーーーーー


 もう辞めた!


馬鹿ばかしいや~!



「もう居なくなっているのかと思ったら、まだ居やがったよ!

一人隠れていったい何をしてるんだろう?」とか


「もうあんな奴のことなんか相手にするな!」


……とかゆう――


もうまったく僕のことなど、まともに相手されていないみたいですので、もうこの日記による交流も絶交にしましょうか?


まったく無駄な時間(労力)を費やされて、勿体なくて仕方がありません。


今度の活動が加わることによって、およそ自分の生活時間から、君達と関わりあっている時間的余裕など作れそうもありませんし――


 とにかく、やめた! やめた! や~めた!



 もしこれでも、まだ僕に対して興味のあるお方(女性)が居りましたら、今後、僕にジカに申し出て下さい。


もっともそうゆう貴徳きとくなお方など、一人も居られる訳はない事ですがね!


――と、今日のところはひとまずふてくされておくことにしとこう!




 一月二十九日


 とにかくそんなに急かせないで下さい!


マァ~、信じられることでわありませんが……


また、君達が(特に彼女も)来ている霊感を受けるのです。


それゆえ、このまま時を一緒に過ごしたい気持ちで一杯なのですが……


一日ついたちの集会、九時~十時半までは出掛けなければならないのです。

今日も仕方がありません。

申し訳ありませが、勘弁して下さい。


 それから帰って来て、またこの日記を書く時間的余裕が作れましたら、その事についても――


また会社の出来事についても、書けるしこ書きたいと思ってます。

ですから僕の言動を知りたいのでしたら、僕が会社にいる間に、勝手に入って読んで、知って下さい。


 とにかく決められた掟を破る訳にはいかないのです。

始めたばかりの内は特にね。


この修行が今後の自分にとって、大きな良き役割を果たすことになりますから。




 今日は休みだと!……


とまあ~、こんなことを書いたら、「まだ気狂い(きちがい)が治っていないのか!」――

と、疑われてしまいます。



 とにかくですねぇ~――


どこを見渡しても、そのような装置のひとかけらさえ見つからないのだし――


また、女性が男子寮に忍び込むということすら考えられないことですからねっ。



 しかしそれでも先ほど述べたのは、この気狂いの頭で確かに感じたことですから、それを述べるのも仕方ありませんね――

ハイ!



 とにかく、この先長く交流するものでしたら、一応その日の時間割(特に部屋を開ける時間)を明記しておかなければなりませんねッ!


「あの人(僕)と、バッタリ会ったら大変だ!」


という恐怖の念を解消させ、君達が入りたい時には気兼ねなく入って、日記なりなんなり、手にすることができるように――


 この掟を定めましようか?


それでいつでも、その時間割を明記した手帖を枕の上へ置いておきます。




 「アァ~、バカバカしい!」


まだそんなくだらん妄想にひたっているのか!


――と、自分自身嘆かわしく思います。


こんなに心を縛られ煩わされるほど、彼女の存在というものが素晴らしいものだとでもゆうのか?……



 とわいえ、やはり本当ホンナゴツ、彼女が来てくれているということを感ずるだけで、自分の胸は踊り高ぶってくるのですから不思議ですね!


この現象は、ここしばらく感じられなかった事なんです。


会社においても、この寮においても、これ程その実感を感じ取れたことはなかったのです。



 本当にしばらく忘れかけていたのです。

そしてもし、この事が本当でありましたら、また前のように(初めの頃、煩い縛られていた)窮屈で煩わしくもあり――


また楽しくウキウキすることもある、生活を再現させなければなりません。


しかし……


しかしもうよしましょうよ!

あのような窮屈な生活苦は二度と味わいたくないのです。


本当に僕のことが知りたかったら、この日記を通してして下さい!



 アァ~、早くこの束縛から救われたい!

どうしてこうまで、君達は僕の心をもてあそぶのでしょうか?……



こんなに「姿現すがたあらわさず」自分の心を弄んでいたら――


本当に僕は気が狂ってしまいそうなんです。


 いっそ、彼女を道連れに心中でも出来たら、この苦しみから逃れることが出来るのに……



 何もかも全てが煩わしく、生きているのでさえ面倒臭くなっている、現在の自分にとっては――


ただ一つ、彼女との恋に我を忘れ、そして死んでいくことしか、これからの人生は考えられないのです。



 しかし……、しかし……、


悲しいことに、彼女の傍らにはいつも切っても切れそうもない彼氏の面影が付きまとっている。

その彼氏のことを思うと、どうしても僕と彼女とが意思を通じ合えることなんか考えられなくなるのです。


どうして神は、いつもいつも自分にばかりこのような悪さを企てるのでしょうか?


とてもとても……


とりわけ、この恋(片思い)の苦しみほど難解なことはありません。



 本当にもう、今の自分には養っていけるだけの力を備えていますし……



 アァ~、また君達を引っ掛けようとして、自分を売りたくなります。


しかし……


もうよしましょう。


本当に、会社の連中の目に止まっていましたら、とても「まともな精神状態でわない」と、一撃のもとに嘲笑されることは――


ありませんからね!




 本当にこれだけの文通で、もう僕の性格やら、思想、姿というものは理解出来たでしょう?……


これ以上語ることは、同じことの繰り返しでしかないのです。


とりわけ、君との意思疎通においてわね。





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