ある日の日記・72回
七十二回
早くお数珠でも手にとって、お経をあげたい心境です。
こんなに若くして線香の煙りに染まるようになったら、ますます陰気臭くなるような気もしますが、それは見た目だけです!
中身が充実して明るくなれたなら、それでも構わないのです。
イヤッ!
それこそが今の自分にとって本望とすべき姿なんです。
何しろ、そのような悲しい運命を背負っている人達を目の前にして、ニタニタ、イヤらしい笑顔を装っているのも気が引けますし――
幸せそうにしているのも、力強いカップクをしているのも……
良い男のようにしているのも……
そのようなことを装う全てのことが気に引けて、とても出来ませんからねっ!
だから内面的なことででも充実させ、活気づけさせようと思っています。
これがこれからの自分にとって固定する姿ではないかと思うのです。
顔では苦虫を噛んだような、渋い顔を装っていながら
中味(心)は晴れ晴れとしている姿……
これが僕の本望としている人間像だと思います。
ハイ!
いつもいつも自分事ばかり言って、いい加減ウンザリしているでしょうねっ!
いくら自分が自己を売りたくないといっても、やはり誰一人として自分の本心を知っていてくれる者が居ないことを考えると、寂しくて寂しくてどうしようもないんです。
誰か――
誰でも良い。
一人でも自分の本心を理解してくれる人がいてくれたら……
その一人さえ居てくれたなら、もう僕は他の者の誰一人として知ってくれなくてもいいのです。
誰一人として自分の心を理解してくれる者が居なくてもチッとも寂しくないのです。
今の所は、ただそういう人が居ないから寂しくて仕方がないのです。
こうして日記によって自分の本心をさらけ出そうとしていることは、ただひとえにその唯一の人を得たいが為だけなんです。
もしその目的が果たされた時には、こんりんざい自分を売るようなことはしないだろうと思います。
どうしてかって?
僕にはその人さえ得られたなら、他には何も幸せを欲しないからです。
土曜日、会社のある同僚の所へ遊びに行った時、つい舌がすべってウソをついてしまいました。
別に虚勢を張るつもりはなかったのですが、その一言を言って、思いがけないほど彼が信じ込んでしまったのでビックリしました。
どんなことかって?……
君達の耳にも入って、あれやこれや誤解の種にもなっていることなんです。
そろそろ帰り時刻になってきたというのに、なかなか「帰っぞ!」という言葉が言えなくて、ついあらぬことを言って、帰るキッカケを作ろうと思ったのです。
「そろそろ帰らないと心配だなあぁ~。誰かに奪われてやしないかなぁ~」
「何?彼女か?彼女居んの?」
「アァ~、他の所にあずけてあるんだよ!」
「そうか!しかし大丈夫だよ。奪う奴なんかいやしないよ。何なら電話でもかけてみっか?」
「イヤッ。電話はいいけど……」
「そんなに急いで帰ることはないよ」
「そうだなぁ~……しかし俺もそろそろ落ち着かなくちゃなぁ~。俺の予定だと25歳で結婚することになってるんだよ。だからこれからお金を貯めなくちゃいけないんだ。飲みにいくのさえやめたらすぐに貯まるんだけどなぁ~」
「飲むのなんかよせよ! 何にもなんないよ。飲んでいるくらいなら、部屋の中で一人手酌で飲みながら、ステレオでも聴いていた方がよっぽど気が休まるよ。あんな!?――、わざわざ金払って飲むほどのことはないよ」
「しかしなぁ~、今は義理で行かなければならない所があるんだ。そことはどうしても手が切れなくて弱ってるんだよ。本当に俺ももう、ここら辺で手を打たなければいけないと思ってるんだが――
つくづくイヤになったんだよ。本当に飲んで気をまぎらしていた所で、何にもなんないしなぁ~」
アッ、トッ、トッ!
どうも話が変な方向へ向かいつつありますので、また元へ戻すことにいたしましようか!
「しかしなぁ~、こんな休日に一日中一緒に居たら、ウンザリするだろうなぁ~」
「何?女とか?」
「アァ~、あんなにチョコッと話をしたり、一緒に居るだけでも、俺はウンザリするからなぁ~」
「そうだなぁ、俺もどっちかっちゅうと、そんなにベッタリくっついているのはイヤだよ。たまにチョコチョコからかったりしているのが一番良いよ!何ちゅうたって一人が一番気楽で良いよ!」
「そうだなっ。しかしやっぱりそれでもなかなか一人じゃやっていけないしなぁ。いずれ持つしかないんだよ」
「じゃ、その彼女と一緒になるのか?」
「ウン、分かんないよ。今んとこは。今は金がないしなぁ。ただ金を貯めなくちゃ、結婚なんか出来やしないよ。しばらく放っておくさっ!」
この会話については一部――、じゃない
大部分、付け足した点があるが、ただ自分の気持ちをもっと分かりやすくしようと思って付け足したものである。
それを言った後、「それはウソだよ!」と訂正しようとも思ったが――
反面、もしこのままにしていて後日皆の耳に入り、ウワサに持ち上げられたらどんな反響が起こるだろうと興味しんしんたるものも湧いてきたのです。
本当はそれを訂正するキッカケが掴めず、従って奴がそう思い込んだのならそれでもいいや。
別に急いで結婚しなければいけないということもないし、そのままにしておいて様子を見てみようかということになったのである。
さてその反響というものはいかほどのものであったのだろうか?
その詳細は掴みかねるが、しかし何か巻き起こったことは確かだろうと思います。
もし僕のことが君達においても、他の若い娘においても、まったく興味をそそるほどの存在価値もないものであったら
たかがそのようなことを言いふらされても「アッ、ソッ!」と、いともあざやかに無視されていることでしょうが――
僕としてはそのような悲しい仕打ちは信じたくありません。




