ある日の日記43回
四十三回
こがんこつバ言うちょると、いかにもオイが芝居バ打っちょるように聴こゆっじゃろうが。
「藤田さんも、とぼけるのがうまかネェー」と‥‥
オイは何も、とぼけとらんと。
そがん心は持っとおバッテン、今ん所、どうしようもなく、表に現せんでおっと。
どうしてなんかオイにも分からんと。
づっと昔、何かのハヅみで、そがん表に現すっ心バ、失のうちしもうたようなもんたい。
オイも、そい以前には実に朗らかじやったと。
茶目っ気があって、面白くて、皆から好かれとったと。
そいがある時期が来てから、まったく自分でん訳が分からんまに、内に閉じ籠るようになっちしもたと。
取り返したか!
オイも出来っとなら、どがんこつでもしてでん、取り返したか!
オイ一人では、そいは出来んとじゃ。
今んまでの経験で、そんこつは身にしみて分かっとっと。
じゃけんワイドンに、そいバ求めたかと。手を貸してもらいたかと! 実に悲しかこっちゃからナァー。
アルコールを入れっと、いくらか自分の地が現わるっようにナァー。
そいの現わるっとバ、おさえとる何かが取り除か(れ)るっからじゃろう!
そん何かを取り除きたか!
こん現実にも、オイの地をありのまま現わせらるっようになりたか。
そうでなかと‥‥
そうでなくとも、もうオイの青春は後わずかしか残っとらんけんネッ。
そがん青春のひとかけらも味わワンで済ますっとが、あまりにも寂しかと。悲しかと。 じゃけん今は、あせっとっと。
本当は、まだオイの青春ちゅうもんは、一杯残っとっとかもしれん。
こいからまだ始まるのかもしれん。こん残り少なかちゅうこつは、オイの錯覚なんかもしれん。
そいばってん、今のオイは焦っとっと。どうしようもなく焦って仕方がなかと。
こんこつは本当のこつバイ。
誰じゃ! 「心にもなかこつバ言いよ!」ちゅう奴は!
しかしそいも仕方がなか。
あるひょうしで、そん抑えがなくなって、パァーっと騒ぐ時があっからなっ。
しかしそいも‥イヤ! そんこつはまれなこつバイ。
そい以外の時は、やっぱいそん心バ押さえてふさぎこんどっと。
じゃけん今まで言うち来たこつは本心たい。
そして今後、オイが望むこつは、そん自分の心バおさえちょるもんを取り除くこったい!
最後の最期になって、こがんわびしか一日バ送るようになっとは思わんかった。
今まで知らぬまに貯めてきちょった一円玉、五円玉を、かき集めて
そいを合わせて、やっと給料日までのタバコと晩食を買えた。残ったお金は、二十円たい。
実にギリギリ。危機いっパツたい!
もしワイに言っとったら、金を出してくれたかも分からん。
けんどワイ達が居るちゅうこつは半信半疑やし、とてもそいをハッキリさすっ勇気が出てこんかったと。
じやけん仕方なく、こがんわびしか一日バ送ったと。
本当にワイドンが言うちょるように、オイは今日で、もうヘトヘトになっちしもうたバイ。身も心も萎びちもうた。
昨夜もあいバして見せてやったし、今日は一日まともな食バ取っとらんし。
見てみい。こんしなびた顔バ。ほほバ。目バ。腕バ‥‥
心ん中は、見せられんけん仕方のなかこつバッテン。そいでもオハンから、どいだけいじめられち来たか想像がつくじゃろう!?
ワイにも分かるじゃろう!?‥‥分からんかったら、オハンは鬼バイ! 人の心バ持たん天使の仮面バ被った鬼バイ。少しは反省セイ!
しかしそいも、後、3日で終わるこったい。
給料日が来て、ふところがあったこうなったら、こんふさぎこんだ気持ちから逃れらるっかもしれん。
欲を言えば、ワイとも晴れて公に付き合えるようになっときたかのー。
しかしそいもあてにはならんしなぁ~。
今んオイには、オイの気持ちバ、どがんしてオハンに伝えたらよかか、そん術を知らんし。
オハンの方はオハンの方で、何も言ってはくれんし
どうにもならんと。こんままでは‥‥ナァー。
分かるじゃろう!? ‥‥
じゃから給料日を通り過ぎてん、今んようにワイのこつバ思い煩うていくかもしれんし。 見切りバつけて、もう、女のこつは考えんようにしようかとも思う。
とにもかくにも、今度の給料日が、ある一つの転機となるこつは間違いなかじゃろう。
どげんようになっていくか? 分からん。
そいバッテン、もう変わらんならんと!
いつまででん、こん同じような生活バくり返していくこつは出来んと。
人生、長いようで短かもんじゃけんにゃ!。
いつまででん同じ所に止まっとくわけにはいかんとたい!
そいでもオハン達が、どがんしてでん望むんじゃったら、出来る限り、意にそうように続けていこうと思うちょる。ただそいだけたい!
こん一日の詫びしか姿バ見て、ワイドンは
「スターになぁ人の最後の、侘しか一日ネェー」と言うたようじゃのー。
しかしそいもあてにならんし。信じもきらんけん。チッともあてになんぞしとらんと。
そいにワイのこつであるが。そんこつも半分あてにしとうバッテン。半分は信じきれんで諦めとっと。
こんこつはこん先、成り行きが解決しちくるっと思うちょるから
今は何も気を煩わさんようにしとっと。
・ ・ ・ ・ ・ ・
後、昨日の書き残していた会話バ簡単に書いとこう。今は疲れとっけん仕方なか。
声→『すごかナァー。藤田君。中学ん頃は首席同様に頭が良かったんだと。そいに運動神経もバツグンに良くて、特に野球がうまかったとて!』
『茶目っ気があって、皆から好かれてて、良か子じゃったんだって』
『彼は、いつでんスター街道バ歩いて来たと。彼ならきっとスターになれるっパイ』
『掘り下げていけば、掘り下げちゆくほど、良か面バッカイ出てくっ!』
『あいじゃったらやるっパイ。スターになるのは間違いなかバイ!』
『ウチ達が、(彼が)スターになぁ為に、下調べしょっとっとて言うたら、先方はビックリしょったとよ!』
『あん人が、月末にスターになぁーちゅうこつは、もうハッキリ決まっとっとて。すごか人じゃナァー』
『藤田さんとオイとは、宿命のライバルじゃ。じゃけん。今しか確かむっ時はなかと。どっちが強かか試してむい!負けて、もともとたい。』
『そがんこつして何になァとネッ! 大人げなかネェ。いくらやってん彼の人間的な大きさにはかないっこなかと』
『藤田君は、茶目っ気があぁとバッテン。そいを表に現わさんだけたい!』
『金勘定なんかしとるヮ。今日、ウチが来るちゅうこつ、知らんとかしら。ばかネェ』
‥‥残り三百円しかなくて、思案に暮れとった時
『五時も六時も、大して変わらんちゅうのにナァー。おかしな奴じゃ。彼女が待っちょっちゅうのに、早く帰ってやりゃ~良かろにナァー』
『あいじゃ、たとい彼女が来てでん、話の種がのうてうまくゆくはずがなか!』
『冷たか目ネェ。敵は一杯、居っとネェ。あいでやっていくっとかしらネェ』
【完】
もう、言うだけの事は言い尽くした。
今は、もう、何も言うことはない。
だから一応これで終わることにする。




