表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
一滴の波紋【原文】1巻の2  作者: 藤田 ユキト
19/60

ある日の日記・60回


六十回



 一月二日



 こうして気持ちを整理してみても、いまだにこの会社に落ち着こうという気が起こらないし

君達(悪霊君)からの拘束を断ち切ることが出来ない。


 本当に煩わしいし、とてもこの妄想がウソだとは思えないのだ!


「一人ボッチだというから、わざわざ来てやったのよ! 可愛い上に、色んな音楽も聴いているのねっ。思ったより、かっこいい人じゃない。会社が始まったら言うわ――」


――などなど、しつこく自分の心をとどめておこうとするのです!


 今日、思いがけなく彼氏の電話呼び出しにたずさわって

一瞬、目の前が真っ暗になってしまった。


 やはりまだ二人は付き合っているのか?

ただそれだけで、もうダメだ!

やはり思い切って帰るのが一番良いんだ!

このままこの思いを胸に詰め込んでいては、とても年明けの仕事なんか出来やしない!

耐えられないと――


――と、思い詰めたしだいである。今現在の所は……ねっ。


 とにかく、もう一端は死んだような(モン)の我が身だし

とても辛いことなんだが、

もうしばらくでも辛抱してみようと思う。

その内、彼女でも出来たら、彼女のことなんか忘れられるかもしれないし……。


 とにかく……


 もうしばらく辛抱してみよう!


 一月三日


 ここしばらくタバコをやめてみると、確かに頭のイライラがとれて、身体が軽くなることを再発見した!


 このタバコによる弊害をよけられたら、どんなに楽に(健康に)なれるだろうかと思います。


 しかし……、気が弱いんですねっ! 完全にやめることが出来ません。

本当にたまに吸うタバコの味というものは実にうまい……。本当にうまい――


 あんなにたて続けに吸って、タバコの味すら分からないほど中毒になっている苦しみを味わうのはまっぴらゴメンと言いたいのだけど、果たして出来るのだろうか?


 とにかく本数を減らし、適量に吸いさえすれば、まったく問題にすることもないのだからねぇ~っ!


 今日は先輩の家から帰ってくる途中で、昔、僕の事を思いやって姉さんがわりを務めていてくれた女性(ひと)に会った。


 こっちも顔を見合わせたらバツの悪い時だったのだが……、向こうさんが顔をそむけて下さったので助かった。


 とても……


 あのように僕の心を理解してくれるお人が、この会社に一人でも居られたら、まだ心強いことなのだが。

その人が辞めてしまって、今はまったく張り合いがない!


 この先、誰か自分に味方して下さる女性(ひと)が現れてくれるかは分からない。

しかし一人くらいは欲しい……。正直のところ!


 どうして若い娘は、俺の器量を理解してくれないんだろう!

細田君もまったく自分のことを理解してくれなかったみたいだし――


「あの時はまったく面白くなかったわ」(細田くんがそう言ってたと――)


 などと、今日、先輩から聞かされてみると、またガックリして自信がなくなってくる。


 しかし良いさ!


 気長にいきましょう……。




――お袋への手紙


 前略


 お袋さん、お元気ですか。

正月には僕が帰らなかったので寂しい思いをされたことと存じます。


 僕も本当にお袋さんの顔を見たかったのですが

八月、九月、十月、十一月、十二月と、我が人生最大の苦しい境地をくぐり抜けるはめになっていたのです。


 仕事の面でいいますと。

一応、機械技術(操作)は修得して、さほど問題ではないんですが。

人間関係の点で、ものすごく頭を痛めたのです。


 このような会社組織にあっては、1つの仕事を修得したら、また次に一段高い能力を要求されてきます。

それで僕が頭を痛めたのは、生まれながらに無口な性格だから

いくら仕事の面で優秀な成績を残しても、同僚、上役達との付き合いがうまくいかなければ

段々、上の位に登っていくことすら出来ないのです。


 僕は別にそのような欲はないのですが、一時、もうある程度の仕事をのみこんだので

一段くらい上の役職にさせようという話が持ち上がって、色々そのような点が問題になったのです。


「仕事だけやっていたって、そんな役をつけられるか!」


「チッとも喋らないし、人と関わりあわないんじゃ~、人の上に立たせることなんか無理だよ!」


――といった批難の渦に巻き込まれてしまったのです。


 生まれつき口数が少ないということは仕方がないとしても

その、四、五ヶ月間には、それと死ぬほど思い詰めた失恋の苦しみに沈んだこともあり

まったく口を開くことも出来ない有り様だったのです。


 毎日毎日、イライラしてばかりで、必要以上に会社が面白くないとか、周囲の同僚、上役達の人柄が気にくわないとか、口もききたくないとかで、まったく孤独に閉じ込もっていたのです。


 金銭的には、そのように苦しい時期だったから、その苦しみを少しでも慰める為にと、飲み代にも多くかかりましたし――

また、気を紛らすために、音楽(レコード、同様のカセットテープ)鑑賞に没頭し、そのテープを買うのにも、月二、三万円平均は費やしていたのです。



 後、車以外の月賦分(ステレオ、英会話教育セット)の返済も多く

去年の暮れのボーナスで、やっと一通り(ひととおり)収まったような有り様です。


 そういうことで、金銭的にも困っていて、帰る分の汽車賃を使うんなら、その分を浮かして送金した方が少しでも現在の金銭的苦境を楽にできるし――

何分、そのように思い詰め塞ぎ込んでいる為

返って顔を合わせても今まで同様、チッとも晴れやかな顔をすることも出来ず辛かったのです。


 だから本当に寂しくはあったけど、正直言うと、ここんところよく帰っているので、少し飽きも感じていたのです。

イエイエ、お袋さんの顔を見ることにではなくて

その休みの期間、何処へも出かけないでボケーッと過ごすことにです。


 だから今回は同じ無意味な時間を費やすことになろうとも、こっちで一人で過ごしてみるのも、返って何か面白いことにでも出くわすんじゃないかという期待をして、とどまりました。


 過ぎてみると別に変わったこともなく

上役のところに行き、泊まりがけでお酒を飲んだり、上等のご馳走を食べたりで――


 ここでも口数が少ないということで、あんまり面白くは、はしゃぎ回れず

返って益々自分の力のなさを痛感させられました。

 後は考えをまとめて、休みあけてからの予定を練りました。


 とにかく今はどうしたらいいのか迷っているんです。

この会社にこのままずっととどまるかどうか?

仕事だけを取り上げてみたら、誰にも負けないという自信と根性を持っているつもりですが、前にも言ったようにより重い仕事を命じられてくると、そのつど周囲の人達との人間関係が重要なものとなってくるのです。

その難しさを思い、悩んでいます。


 とにかく去年の暮れのボーナスをもらったら辞めようなどと一時決心していた頃もあったのですが、あんまり周囲の連中が「その辛さに耐えきれなくて、逃げ帰ろうとしているんだ」という意味合いの言葉を吐いて、僕のことをバカにしているように思えたので

僕としても負けん気がありますから、そのバカにしている奴等を「今にみていろ!いつか手前等を見返してやる!」といった、悔しさが湧いてきて、辞めるのをひとまず据え置きにしたのです。


 とにかく何とか身を立て直そうということばかり考えてやってきている。

最近では苦しいことばかりが続きます。


 今年はどうなるのか分かりませんが、とにかくまだまだ僕がキチンと身を立て直しきるまでには日数がかかると思います。


 その一番苦しい時期だったから――

イヤ、本当はそのような時にこそ、お袋さん達の暖かい慰めを求めるべきだったのだけど、それも出来ず。

残念ですが帰ることが出来ませんでした。


 とにかく、四月くらいまで様子をみながら、辛抱してみようと思っています。

それで先々、見通しが暗かったら辞めて田舎の方へ帰ることも決めようと思っています。だから今のところ、もうしばらく好きなようにさせていて下さい。

 では、お身体を大切に!

また気が向いたら手紙出します。

このようなことを書いたからといって、そんなに心配しないで下さい。

これでも結構成長できているのですからねっ!

男が身を立てていく為には、どうしてもくぐり抜けなければならない苦しみですから。


※この手紙は多分出していないでしょう。思い出としてここに記しておきます。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ