ある日の日記・57回
五十七回
昨日はその店の忘年会があって、早じまいだった。
俺はお客の身だから、まさかそれに参加させてくれなどとも言えないが――
――少なくとも自分はただのお客とは一風違った存在だと思っていたし
――彼、彼女等がそのような誘いの言葉を吐く気配さえも見せずに
別れの挨拶を言うことにチョッピリ――
チョッピリどころじゃない。
物凄く寂しくなったのだ!
しかし今の塞ぎきっている自分にしては、最初まったく好感を持たれるようなこともしていないし
従って、その好感の暖かい心の通いもなく
今はただのお客という存在に落ち込んでいることも認めている。
ついて行ったって、また同じく、せっかくの楽しい忘年会を暗くすることだし
行かない方が良いということは察知していたのだ。
だからその結果については何も文句はない。ただ寂しかっただけだ!
ひとせんは自分の事を親身になって気使ってくれていたママさんだと思っていたがゆえに
何の――
体裁だけでも良かった。
そのような意味合いの言葉を聞けたら、あれほど自分の心は寂しくならずに済んだのだ!
それからロクスッポ愛想のない別れの挨拶をかわして、身を震わせながら車に乗った。
どうしてか――
何もかもイヤになったのだ!
このまま目的のない道路上を突っ走って
いつの間にかあの世へでも行けていたら――
涙が無性に流れて来て、前方の景色もよく見えないままに、ムチャクチャに突っ走った。
もしかしたら本当にこのまま死ぬかもしれないということを
意識の薄らいだ頭の中で思い描いていた。
「死ぬな!」
「死ぬな!」
――と、誰かの暖かい声が、僕の死への突入の気持ちを引っ張るのだ!
こんなに男として、立派な体格を授かっていながら――
こんなに素晴らしい美貌を授かっていながら!?――
こんなに恵まれた才覚を授かっていながら――
こんなにやさしい心を授かっていながら――
ただ、この恋しい運命によって、それらの恵みの全てを無意味に生かしきらないでいる。
そのもどかしさに腹が立ち――
今の自分にとっては、そのようなものを失ってでも
皆と仲良く出来る、健康な聴力が欲しい――
今の自分にとっては、あまりにもそのような恵まれた才覚なんて返って重荷なのだ!
その重荷を捨て去って、自分もごく平凡な男に――
ごく平凡な幸せを掴みたい――
誰かの、そのような暖かい声に、ハッと我に返り、こんなことで死んでたまるか!
もっともっと――
何か価値あることをして、命を燃やし尽くしたい!
たとえ今苦しくて、塞ぎきっていても――
それによって皆に心配かけ、嫌われていても――
彼女の一人も持てない、惨めな男であっても――
そうさ!
死んだ気になってこの力なき生命を精一杯燃やしていたら
いつか――
きっと――
それらの苦しみが解消する時もおとずれるだろうし
心も明るく朗らかになれる時も訪れるだろうし
また自分が本当に探し求めていた、一生の連れ合い女にも巡り会える時も訪れることを夢に抱いて
とにかく立ち返って来た。
今もこれからの予定や見通しは皆目ありゃ~しない。
こんなに自分が死にもの狂いで、生への執着心にすがりつこうとしていても
他の者の目には、やはり無様な醜い最低の男として映ることだろう。
とてもとても、このような生き恥をさらしているのは忍び難い。
しかしもう良いんだ!
何も求めたりはしない。
どんなに人から白い目で見られようと、自分はそれでも精一杯生きているのだし
自分にその自覚があっら、何も人の言に気が根することも、胸を張っていきていいさ!
全てにおける我を捨てて、御仏のご慈悲にすがる――
これが今後、自分が立ち直れるか?どうかのカギになる――
僕も実に情けないことになったものだと思う。
何も――
ねぇ。
そんなことに頼らず自分一人の力で生きていけないのか?と腹も立つ。
しかし――
自分は覚悟していたことなんだ!
一時、そのみ教えにつき従っていた頃もある。
しかしまったく何の苦しみも、悩みも、あらゆる煩悩を知らずに、自分一人その悟りを得たとしても――
イヤ!
そのようなことでは悟りなんか開けやしないと自覚して
ひとますそのみ教えに背を向けてあらゆる煩悩を知る為に落ち込んでいった。
本当は自分の魂なんてチッとも落ち込んではいないのだ!
ただこの数年間、そのみ教えを離れて、もがき苦しんで来たことは――
最初にハッキリと目標にしていたことなんだ。
本当に辛い辛い苦節が、どれほど繰り返されたことか――
その一つ一つを思い起こしてみるに――
やはりそれらの煩悩は空無であって
あえてそれらを知る為に、自分の短い貴重な人生の時間を費やすこともないことを悟った!
だから後は、ただひたすら信仰の道に没頭するだけだ!
全ての我を捨て、欲を捨て、打算を捨て
み仏の、み教えにつき従っていくしかない!
これが目下の所、立ち直る為の試策である。
しかし俺もいい加減気まぐれだからなぁ~
果たしてうまくその道に没頭することが出来るだろうか?
それが心配なのだ!
――ママさん所はどうしていこうか?
誠チャンも何だか俺のことを気に入ってくれているようだし
他の人達とも、また自分が前みたいに心を開いて朗らかになりさえすれば
すぐ元のように仲の良い関係が取り返せるんだ!
昨日は本当に寂しかった!
もしママさんが「どうしてガロさんも連れて来なかったのよ! あの子はウチの身内みたいなものなのよ」
――そりゃ――ないか!
あんまりそのようなことにこだわるのはよそう
もし来年も、金と暇があったら行くだけさ!
そんだけのことです
ハイ!




