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美人に兵庫助はデレデレなのじゃ♪

そう云えば、兵庫助って本作の主人公なんですね。


わたしすっかり忘れてました。


では、お楽しみくださいませ♪


「一之介の勤める寺が絡んだ騒動とな?」


 兵庫助は眉間に皺をよせ、ひょんよろの言葉を聞き返した。


〘左様に…〙


 ひょんひょろが兵庫助の問いかけに応えようとした、まさにその時。


 ドン!


「あっ!」

「な、なんだ?」


 人がぶつかってきた突然の衝撃に兵庫助は一旦はよろけたが、よろけついでにぶつかって来た挙句に転びそうになった相手を気遣い、瞬時に体勢を立て直し身体をスイっと支えてやっていた。


「大事ないか」


 兵庫助が抱え込んだ主は頭に被せた手拭を白い手ではらりと除けて、うなじの美しい女性が顔をチラリと見せた。


「これはお武家様、とんだ粗相を致しました」

「いや…。大事なければそれで良いの…だ」


 プルンとした赤みを自然に帯びた唇が僅かに開き、発したとろけるような言葉に兵庫助は頬を紅くして眼を女性から逸らせながら応える。


 見ればこの女子(おなご)、紺の絣を着流しに唐傘を持ち(むしろ)を抱え、如何にもさっきまで湯屋にいたらしい風体で肌も桃色に上気しており、それが何とも言えない艶かしさを醸し出していて、飯井槻さまをはじめとした女子という生き物に、生理的にめっぽう弱い兵庫助を圧倒して止まず、彼は思わず吐きそうなくらい興奮してしまった。


 が、気力で押しとどまってみせ。


「そ、その、それにしても其方(そなた)、斯様な、ぶ、武家地で何をしておるのだ?」

 と、(うわ)ずった声音で女に問い掛けた。


「あの、お助けして頂いた身の上で失礼とは思いますがお武家様、ここはお武家様の御屋敷町ではございません。町家の中でございます…」

「へっ?」


 提灯持ちの癖に知らぬ間に武家地を抜け、番人が立つ町家の木戸すら潜っていた事にも気付かなかった兵庫助のポンコツぶりに、雛はアイタタと額に手をやり、実際のところどこぞの役立たずと違い、サラサラ恙無(つつがな)く一行を案内していたひょんひょろは無表情のまま辺り一帯を観察しているのを見るにつけ、彼は穴が有ったらすかさず籠って蓋をして、もう一生表に出たくない気持ちで一杯になってしまった。


 どうやらここは甲州街道の宿場町〖高井戸宿〗の外れらしい。


 とすれば、深志茅野家の下屋敷まで僅かばかりの距離だな。暗がりだからよく分からなかった。


「もしかして此方(このかた)、持ち物から察しまするに遊女なのではないでしょうか?」

〘はてはて〙


 雛が小声でひょろひょんに話しかけている。それに対して相変わらずひょろひょんはとぼけた答えを返している。コイツ絶対この女子の正体に気付いているであろうな。


 とすると、本当に彼女は遊女なのか。


「はい、私ここで流している(はし)(うめ)と申します」


 彼女はハッキリ自身が遊女ですとは名乗りはしなかったが、その物言いと風体から遊女、それも夜道で男を誘い世銭を稼ぐ〖夜鷹〗に間違いはないであろう。


「もし橋梅さん。お仕事の邪魔をしてしまっていたらごめんなさい。もしそうでしたらこちらの提灯持ちを置いていくので、搾り取れるだけ根こそぎ色々絞って、終わったら道端にでも捨てて来て下さい」

「助かります」

「なんでじゃ!」

「……っ」


 真顔で雛は言いそれに辞儀しながら橋梅が返し、兵庫助は驚愕しながら突っ込みを入れ、ひょんひょろは後ろを向き肩を震わせ密かに笑っている。


 何やら騒がしくも楽しくもあり、兵庫助はうっかり微笑んでしまったが、すぐさま正気に戻ったひょんひょろは、夜半時とはいえそれなりに煩雑している高井戸宿である。そこで宿泊したり遊んだ帰りの人々や遊女目当てに遊びに行く人々の目がこちらに向く前に、早急に姿を隠すよう施してきたので、兵庫助は鶵と橋梅の手を引き簾が掛けられた人気のない路地に入り、そこから裏店を巧みに巡って深志茅野家の下屋敷に辿り着けないものかと思案した。


「それでしたら地に明るい私が判るかと思います。如何でしょう、ここはひとつこれで手を打ちませんか?私も助かりますし、ね?」


 そう云って橋梅が不意に兵庫助の手を取り、その平の中で人差し指をすうっと這わせ示した数字はどうやら道案内の代金を表しているようで、しかもその値は一朱を意味しているらしい。


 だって儂が小声で一分ですかとお尋ねしたら、可愛らしく目を瞑り首を振ったからだ。


 此の財政厳しいもう少し何とかまかりはしないかとお願いしたが、同じ結果になったので致し方なく財布を出してみたが、たった三分しか金がなかった。


「ねえ、これって経費で落ちるかな?」

「落ちる訳ないじゃないですか。バカですか」


 鶵さんは取っても冷めた目で兵庫助を見やる。


「そもそもなんだって橋梅さんの手を取って連れてきたんですか?あたしだけでよかったでしょう?意味が解りませんよ、全くもう!」


 言われてみれば確かにそうだ。なんだって儂は雛だけではなく、単なる通りすがりの橋梅の手を引っ張りここまで来てしまったのだろうか?

「すいません。よく分かりません」


 そう云った途端、雛はぷっくり頬を膨らませたかと思うと、ハアー…っと息をついて心底からの呆れ顔を作って儂に近付き。


「それに…」


 パシン!


「あいた!」

「あら♪」


 雛は唐突に橋梅さんと繋いだままだった手を叩き、無理に切り離してから畳みかけるようにこう言った。


「いつまで楽しそうに手を握ってるんですか!本当に兵庫助様はヤラシイうえに大バカなんですね!」


 と。


 なんなん。何で怒ってんの?


「あらあら♪仲が御宜しいんですね♪」

「「いえ、そんなことは全くないから!!」」


 兵庫助と雛は声を揃えて否定する。


「あら、そうなんですか?ではお武家…。いえ兵庫助様、先程の道案内の報酬のお話ですが、あれお金の値ではないんですよ」


 ウフフっと、橋梅は形の良い唇を微かに開いて色っぽく含み笑い、上目遣いで兵庫助の両の眼を見詰めた。


「一晩、御慰みを頂戴したいって意味ですの♪」

「なっ!!」

「にゃっ!!」


 なに言ってんだ此の女子!


「ほら、やっぱり仲がいい♪」


 橋梅は儂らの態度にクスクス笑い、笑われた儂らは当惑する以外に手立てを知らなかったのは云うまでもなかった。


ここまでお読みいただき誠にありがとうございました。


でわ♪

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