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一之介からの手紙。

遅くなりましたが、続きになります。


どうぞお楽しみくださいませ♪


〘左様にござりまする。以前より御社様が面白きものを食してみたいと、(かね)てより仰せであられましたので〙


 ひょろひょんは匙を垂れ味噌の入った器の上に置き、姿勢を正して慇懃に応える。


「つまりはわらわより先にお主も、蕎麦を喰っておったというのじゃな?」


 途端に機嫌が悪くなる飯井槻さまに、ひょろひょんは続けてこう述べる。


〘畏まりました。では次からは侍女殿からも御聞きせず、味見もせず連れて参りましょう〙


 と云った。


 聞いた飯井槻さまは更にムッとされたので、兵庫助は腹の中で『ざまあみろ』と、笑ったのだが、次に発せられた言葉に色を失ってしまい、思わず箸を畳に落としてしまった。。


「そうではないのじゃ。わらわも食べ歩きをしてみたいと申しておるのじゃ。ひょんひょろよ、お主なればわかると思っておったのに、とんだ心得違いかの?」


 はあ?このバカ姫御前は何言い出してんの?


「「「いいですね!飯井槻さま行きましょう!」」」


 侍女たちが前のめりになり、笑顔で言った。だが、ちょっと待ってほしい。


 そんなことをすれば周囲への体面どころの話ではなくなる。幕府にでも知れようものなら取り潰しとまでは言えないまでも、難癖をつけられ大宮茅野家開闢以来介入を阻止してきた、幕府による寺社統制下に置かれるやもしれない。一回だけなら誤報かもしれないでは逃げきれない可能性だってある。


 これは、絶対に避けねばならない事だ。


 今回の蕎麦屋の招き入れにしても、誤魔化しきれているのかどうか。


 いやしくも御城からの帰り道、蕎麦屋を拾いました。なんて話は聞いたことがないし、バレていたら終わる。茅野家全部が終わりそう。


「ヤバい!ヤバい!ヤバい!…どうしよう…」


 今更ながら事の重大さに気付かされた兵庫助は畳の上で(うずくま)り、すっかり頭を抱え込んでしまった。


〘それではこう致しましょう。幕府の要人を幾人か招き、接待と成しましょう〙


「ほう、当てがあるのかの?」


 ひょろひょんの言葉に一呼吸おいて、飯井槻さまが尋ねる。いやいやいや、問題はそこではないのだと兵庫助が御停めしようと顔をもたげた。


〘その前に、御人払いを〙


 ひょろひょんは控えている蕎麦屋の長兵衛の方をチラッと見て、飯井槻さまに訴える。


「左様か、すまぬな長兵衛殿よ。しばらく侍女共々自室で待って居ては呉れぬか?」


 飯井槻さまが長兵衛に退室を促される。


「お、おう。なにやら立て込んだ話があるみたいだし、しょうがねえな。でもよ、蕎麦は早めに喰ってくれないと困るぜ?」

「あい分かった」


 飯井槻さまはニッコリ微笑み、侍女たちと供に御料理の間を離れる長兵衛を見送った。





〘こちらを〙


 と云ってひょろひょんが、おもむろに懐から一通の文を飯井槻さまに差し出した。


「なんじゃ?わらわ宛の恋文か♪」


 兵庫助にとってはどうでもいい冗談を言いながら、飯井槻さまはその小さく白い手で文を綺麗に寛げた。


「…ふ~ん。なるほどの。一之介からの文か」


 読み終えた飯井槻さまは文を、御相伴(ごしょうばん)に預かっていた料理人の御爺様に手渡す。


「御爺様、何か心当たりは御有りかの?」

「御座いませぬ」

「左様か」


 う~む。と、長兵衛に言われた通り早めに蕎麦を喰いながら似たような顔で思案する二人の手元から、ヒョイと文がひょろひょんの手元に戻った。


 あの~。儂まだ読んでは無いんですが?家老なのに。儂、家老なのに……。


 半べそを掻きながら、兵庫助は己の存在意義を大いに疑問を抱いた。


「それにしても一之介の身の上に何があったのか、大いに気になるところだがの。ひょんひょろよ、それもあっての要人の接待かの?」

〘左様にござります〙

「あなた様は要人からこの件の次第を聞き出される御積りなので?」

〘内容が内容であります(ゆえ)


 ふむふむと飯井槻さまは(うなづ)かれ、スッと膝に上に両手を置かれて思案される。


「なるほどの。して宴はいつ頃になる予定なのじゃ?」

〘明後日には〙

「左様か、一之介への返事は今書くがよいかの」

〘それにつきましては、御家老様に一筆書いてもらうが宜しいかと〙


 と云うなり、ひょろひょんは兵庫助けを向かいの席から眺め見る。


「へっ⁈儂?」


 文すら読んでない、この儂にどうしろと言うのだ?


 どう考えてもヤバそうな立場に唐突に置かれた兵庫助は、ただただ恐懼(きょうく)するばかりであった。


ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました♪

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