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ふしししし♪わらわは根っからの遊び好きなのじゃ♪

酷い話もあったもんです。


でわどうぞ♪


「お待ちあれ!お待ちあれ!いま(しば)し!暫しにござります!」


 深志茅野家と大宮茅野家との間をつなぐ渡り廊下の上で、飯井槻さま付きの侍女頭で上臈(じょうろう)でもある〖膳局〗が腰をかがめながら言い募り、どんどん後退りしながら〖とある若者〗を押しとどめようと躍起になっていた。


「ただ余は姉上に会いに参るだけじゃ。何の不都合やある!」


 茅野家の家紋である〖白地に丸赤餅〗の刺繍が大きく施された(かみしも)を身に纏った一人の若侍は膳局を押しのけるように手で制しつつ、ズンズン大宮茅野家に向かって突き進んでいく。


 何を隠そう。彼こそが深志茅野家の若き当主〖茅野参議寿覓(かやののさんぎひさもと)〗。その人であった。


「扉を開けい!余は深志家当主であるぞ!邪魔だていたすと容赦はせぬぞ!」


 細身の体に女子の様に色白の美しい容姿を持つこの当主は、身体に見合わない大声で以て、隣接する大宮茅野家のこじんまりした屋敷中に響けとばかりに呼ばわった。


「ですから参議様、今暫しお待ちいただければ飯井槻さまに御面会いただけますので!」

「余と飯井槻は姉弟の間柄ぞ!であれば、今すぐに会うても不都合あるまい!」


 首を後ろから左に振った寿覓の指示のもと、深志茅野家の近習らが破城槌を構え、渡り廊下を塞ぐ扉を壊しにかかる。


「わかりました!わかりましたから!これ参議様の到来なるぞ!扉をお開きなされよ!」


 寿覓の余りの行動に根負けした膳局は、致し方なしと云った苦渋に満ちた表情で扉を早急に開くよう指示を出した。


「わかればよい。膳局よ、手荒な真似をして済まなんだ」

「此方こそ、姉弟の仲を引き裂くような真似を致しまして、申し開きようもございませぬ」


 たぶん、この御方は左様な事など露ほども思われてはいまい。


深々と渡り廊下の板敷きに(こうべ)を垂れ平伏する膳局を一瞥し、近習を連れスタスタスタスタ。さっさと屋敷内に入って行かれる寿覓様の足元を見やり、彼女はやれやれめんどくさい事だと思った。


 ズカズカズカズカ。


 人数は少ないが、屋敷の廊下に居並び平伏する大宮茅野家の家臣一同『女子多し』の中央を歩き、飯井槻さまが御座所である奥書院に着いた寿覓は、スッと障子を前にひざまずき、こう部屋の内部に向かって述べられた。


「お久しゅう御座います姉上様。ひさに御座いまする」


 そう云うと障子がススッと片方開かれ、寿覓に中に入るよう無言で促した。


 



 奥座敷の畳の上に正座をし平伏した寿覓は、他より二段は高い畳の座に、陰姿ながら自身の姉である飯井槻さまが、御簾の向う側でユラユラしながら透けて見えた。


「参議殿。面を上げられませ」


御簾の右端に座す端正な顔をした侍女が、おもむろに寿覓に対して面を上げる様に促した。


「ははっ!有り難きしあわせに御座いまする。姉上様。いえ、小夜殿」


 そう言って寿覓は、冷徹な笑顔を浮かべ顔をゆるり上げた。


「ぎゃあ!!やっぱり速攻バレてるぅぅううう!!」


 御簾が内側から開かれ、転がる様に寿覓の御前へ転がり()でた。


「ほらほらほら!やっぱ騙すの無理だったじゃないよう!あたし自害しなくちゃならなくなったよ!どうすんのよコレ⁉ねえ、どうしたらいいと思う(びょう)ちゃん!!」


 おしろいを顔中に塗りたくられ、真っ赤な紅を唇にさした小夜は、これらすべての化粧を大粒の涙でドロドロに溶かしながら、幼馴染で大の仲良しである侍女の苗に取りすがり泣きじゃくった。


「まあ、私もすぐにばれるとは気付いてはいたんだけどね…」


 あ~あ。っと、小夜とは対照的に肩の力を抜き、飯井槻さま発案・膳局脚本・演出の三文芝居に役目柄付き合っていた苗は、姉共々〝聡明な〟寿覓が御出座しになられたと聞いた時から、こうなるだろうなと予想していたので、単に肩が凝ったくらいにしか感じてはいなかった。


「そうしょ気るでない小夜よ。余が斯様な小芝居で騙せるものかどうか、少し頭を使えば解らぬお主ではあるまい」


 優し気な眼差しで小夜と、そして苗を見た寿覓は、二人を気遣う様に気を抜いて胡坐をかき片膝を立てた。


 普段の仕草が飯井槻さまそっくり。


 寿覓は、その容姿こそ女子めいてはいたが、背丈は飯井槻さまよりも高く、顔だちに至っては飯井槻さまが柔和で柔らかそうな、如何にも見目麗しき深窓の姫御前といった御顔を為されているのに対して、やや釣り目がちで涼やかな秀麗な御顔を為されていて、こちらは普段は大人しいが、いざ事があれば勝気になり配下を叱咤激励する姫御前さまといった様子であった。


「先程、自害せねばならぬと申しておったが、左様な真似はせぬとも良いぞ。なにせの、姉がいつもの悪戯心を発揮して仕組んだ、なんとも気長な遊びに引っかかったのじゃからの」


 笑顔を取り戻した寿覓は、本当に姉が馬鹿で申し訳ないと頭を下げ謝罪する。


「えっ…?ええっと、はい?」


 言われた意味が飲み込めない小夜が、涙にぬれた大きな眼をクルクルさせて寿覓と苗を交互に眺め見た。


「んーとね。この三文芝居は最初から飯井槻さまの悪戯で、始めから寿覓様にはバレるように仕組まれていたってことよ。まず初めに寿覓様が来ることを見越してね♪」


 それでも暫し事態が飲み込めなかった小夜は、次に発せられた苗の言葉に…。


「たぶんアレね。飯井槻さまが帰って来たら今回の一件の一部始終を御聞きになって、大笑いしながら小夜をいじって十日くらいは遊べるって踏んでるわ」


「あんのクソ姫様!あたし下剋上してやる!兵庫助様に言いつけてやるぅうううう!!」


 いまいち下剋上の意味が理解できていない小夜は、謀の成否を見にきた膳局〖熱演女優賞〗に突進して掴みかかり、その襟もとでギャース!ギャース!と、泣き喚いたのであった。


ここまで読んでいただき、余は満足じゃ♪ BY寿覓。

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