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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第四章 伝説の征服点//in冥界&神界
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ななじゅうよんかいめ 私は此処に

 前を見た。ナタリヤーナが肩で息をしながら、片膝をつきながら自分を救おうと真っ直ぐ視線を投げかけてくれている。

 左を見た。味方だった大精霊も味方だった人の二人の補佐も消えてなくなった。右を見た。聖神とロゼスは苦虫を嚙み潰したような表情をしている。

 後ろを見た。敵ばかりで、味方は居ない。ナタリヤーナを入れて、自分を入れて四人で五人以上の相手をしなければいけない。

 目の前には最強が四人。ルネックス以上の世界の概念を操る闇のアデルが負けるとは自分でも思わない。でも自分がこんなことをしているのは、意味があるのか。

 闇のアデル―――そうか、自分は生きているのに、概念としか理解されないのか。


 手が止まる。

 足が震える。

 今の自分は何をしているのか。外の事に何も触れてこなかった、闇の中でもがき足掻いた女の子は考える術を知らなかった。

 でもわかるのは、今のアデルが此処にいてはいけないという事だけ。

 今自分がしていることは、決していい事ではないと断言できるという事だけ。


『ぁ……うあ……わたくし、は……』


 アデルは片膝をついた。何を天狗になっていたのだろうか。無限に成長する者達の成長ぶりをその目で見せつけられて、成長を知らない彼女が何を言えるのだ。

 成長してこなかった彼女が、どんな権利をもってして彼らに抗えるのか。

 与えられた物しかないアデルが、自分で積み上げた物を振りかざす英雄たちに、果たして恥じずに自分の能力を発動できるだろうか。


 テーラの手が止まる。彼女に瞳にあったのは無限の闇と無だ。アデルと似ているようで、しかしその闇の中には光があった。

 言葉にできない、神様のように光輝いている場所があるのだ。

 アデルがテーラに追いつくことはできない。何もないのだから、闇を抱え込むことしかできないのだから、勝てるなど間違っても言えない。


「……『闇』は『無』じゃない。自分を追い詰める必要はない。キミの行動は、キミで選んだものでしょ? ボクはそれを否定する事は無い」


『ぅうっ、ひぐっ……うえぇぇえええええ……ッ』


 ぺたんと座り込んで、テーラの言葉に豪快に涙を流しながらアデルは嗚咽を続けた。思いのままに突っ走る、何億年も生きていたとはいえ何にも触れてこなかった小さな子供なのだから。

 それがひとつ、成長をした。

 間違ったこともあっていることも分からないのだ。だから、ゆっくり探っていくしかない。昔はアデルのように生きていたテーラにはその気持ちがよくわかる。


 探れ。深く、必死に。

 手は差し伸べよう。だが、受け取らせることは無い。優しい言葉をかけながら明確な道を与えなかったことで、アデルの視界は逆にはっきりする。

 自分で求められる道がある事を。与えられた能力で成し遂げられることだってある。

 ただその道は、人に教えられて作り上げる道ではない。そんなことをしてしまえば、今度こそその人生ごと借り物になってしまう。


『わたくじがッ……うぅっ、ひぐっ……わるがった……うええぇーん!』


 ごめんなさい、と何度も繰り返す。ルネックスに敵対しようとしたのは、面白そうだったから。たったそれだけの理由、たったそれだけの衝動。

 一言では語りきれない思いを持っていることを、無視していたのだろう。此処にいる全員が可能性を持つことを無視していたのだろう。

 薄っすらと微笑んだルネックスが休憩するグライエットに視線を向けた。


「グライエットさん。お願いがあるのですが、構いませんか?」


「どうした?」


「彼女をお願いします。殺すつもりはありませんので……保護してもらえますか。恐らく、壊れかけた今の彼女の心ではこの戦場はあまりにも危険すぎます」


「ふっ。貴様がそう言うのなら了解した。―――っ!」


 優しく微笑みながら返したグライエットとルネックスに小さな声がささやいた。―――ここは、戦場だぞ。


 〇


 肩で息をする。しかし、地面にへたり込んで哀哭を上げる主をしっかりとその視線には留めていた。大賢者をにらむ。

 今のナタリヤーナに大賢者や鬼神を突破できる力はない。なにより、最初からその可能性はアデルにだけあって、自分は彼女より弱い。


(お嬢様の願いをひっくり返すなんて、そんなの許されるわけがないのです……お嬢様の願いは貫き通されるべきなのです。だって、だって……ありえない、わからない、わからない……私は、どうすればいいのですか、お嬢様ぁッ!)


 お嬢を信じて何千年も生きて来た。誰も信じてこなかったナタリヤーナにとって、アデルは心からの支えで、彼女こそが正しかった。

 そうだと思っていた。

 いつだって自分を引っ張ってくれる彼女は、闇なんて称号とは似合わずに光輝いていた。その中に潜む哀しみを、確かに分かっていた。


 時がたつたび愛おしさが増えてゆく。つみ重ねられた愛はいつしか狂おしい狂信者のように変わっていったのだろう。

 そして、ナタリヤーナもアデルのように、何も考えてこなかった。

 だから自分の思いの行くがままに―――。


『ぅああぁあぁああああああぁぁぁあああああああッ!!』


 空気の破裂音が小さな音を奏でて伝えた。―――君は、間違ってる。


 〇


 グライエットがルネックスに手を伸ばした。しかし間に合わない。空気を使った攻撃に手を伸ばすにはある程度の時間が必要だ。

 自分の空間で休息しかとらない鬼神では、そのような技術はない。

 そもそも魔界は武力重視で、技術は気にしないといっても過言ではない。グライエットは唇を噛みながら盾を展開しようとするが―――。


「必要、ない」


 聞きなれた英雄の声が立ちはだかり、雲を散らすようにして白い煙が舞い上がった。ウテルファイヴが立ちはだかっている。

 光の刃が腹を貫通しているが、その刃がルネックスの方に行かないように必死に手でつかんでいる。振り返ったその顔は誇らしげだ。


 口から血を垂れ流しながら、苦しむ様子を一切見せず微笑んでいる。


「ウテルファイヴさんッ……‼ ぼ、僕……」


「迷うな、英雄を、守るのは、当然の、事だろ。気負うな、やりたくて、やったんだ。褒めて、くれないか?」


「っ……よくやってくれましたね。ありがとうございます。本当に……」


 英雄を守って儚く散る。それがウテルファイヴの夢―――そんなわけがない。それは此処にいる誰もが知っている事だ。

 だがこの瞬間この時、彼は自分が勇者を守ったことを誇りに思った。

 これは覆せない真実。


 今まで以上の攻撃を、魔力が減っていた状況のままに撃ちだせたということは、ナタリヤーナが覚醒をしたという事。

 見れば、アデルがこれ以上ない真っ青な顔をしている。しかし、終焉の形態を成したナタリヤーナの瞳に色は無い。

 どうするか。アデルは、目を閉じた。一筋涙が頬を伝って流れた。


『……おやめなさいナタリヤーナッ! これ以上の狼藉は愚かなだけですわ。賢明な判断をなさい。彼らへの攻撃を許しませんわ!』


『……お、嬢様? 何を言っているのですか。お嬢様の最初の願いは彼らの果て行く様を見ることです。なぜ、そのような正々堂々な方向へ行く必要があるのですか? お嬢様はお嬢様らしく、自分らしく生きれば……』


『それはただの我が儘ですのよ。わたくしが言えることでもありませんけど……お学びなさい。この世界はわたくしが支配しているわけではありません。可能性の思いが支配しているのですわ』


 ゆっくりと立ち上がったアデルに、いつもの子供のような面影は少し消えていた。少し大人びた言葉で、少し大人びた音質で。

 成長していったアデルを見て、ナタリヤーナは交互に自分の手を見た。このままじゃ、足手まといだ。

 お嬢様は成長している。なら自分も成長しなくては。急ぐ気持ちを抑えたのは、他でもないテーラだった。


「成長は急ぐもんじゃないよ。まあ、ゆっくりやってけばいいんじゃない? あんたを大切に思ってくれる奴は、なにもあんたのお嬢様だけじゃないって見せたげるよ。ルネックスも知り合いゼロから初めてんの知ってるんだから」


 ルネックスは父と母という、人の人生最初の知り合いも失って始まった。シェリアやフレアルと段々と増えて行ったが。

 原初はアデルと同じように、何もない闇の中を必死に彷徨っていた。それが今は、誰よりも上に立っている。

 それは、たくさんの人が積み上げた思いの形でもあった。


 ナタリヤーナはテーラの言葉に何か言おうとしたが、口を開けたまま何も言えなかった。否、言う資格がないと判断した。

 今の自分は、あまりにも無知で愚かすぎる。頂点に立ったつもりでいたのだろうか。調子に乗っていたのだろうか。


『………………………私に、悔い改める機会をください』


「「うん、勿論」」


 内心から頭を下げたナタリヤーナの思いを受け取ったルネックスとテーラは、同時に発した言葉にお互い顔を見合わせて笑った。

 しかし、味方が増えたことに二人、異を唱える者がいたのだった。


「ふざけるなァっ!」


 聖神とロゼスだった。二人でこれだけの人数の相手をするのだ、それに自分達は疲労困憊で、負けることは見ればわかる。

 だが、プライドが認めなかった。歪んだ心を修復するのに、あの程度の大団円では足りなかったと言えばいいのだろうか。


 勢いのついた、幾多の怨念が混み合わさったおぞましい声に戦場が震えあがった。月がひび割れ太陽が震え、熱風が吹き荒れる。

 しかしルネックスがぱちんと手を鳴らしたことによって、ゆっくりと収まっていった。


「……ルネックス。ヒントをやろう。闇のアデルがいるなら、光もいるはずだ。俺は……ちょっと、此処に留まっているのが時効みたいだ。今度はまた楽しい舞台で会おうな。あと絶対神、お前は力を失いすぎだ、俺についてこい」


「グライエットさん。必ず僕は勝ちます、だから待っていてください。次は、僕からグライエットさんに感謝を述べに行きます!」


「それは楽しみだ。世界を救った勇者に感謝を述べられるというのは、悪くない感覚だな!」


 ハッハッハと笑い声を上げながら、神としての力を失いかけているゼウスを連れて鬼神グライエットの姿は薄っすらと消えていった。

 神として、絶対神として君臨するための力は削られている。つまり、次鬼神が復活するまでにゼウスは力を取り戻しておく必要があるのだ。

 新たな神が誕生し、その全てをまとめるために頂点に立つのだから。


 グライエットとゼウスがいなくなったからとはいえ、負けるつもりは毛頭程度もない。たった二人の相手をするだけだ。

 それに、グライエットからの助言も十分彼らの脅威になりえた。


「闇と対を成す光の原点シャルよ、我が力を喰らい姿を現せ」


『うぇーい……シャル様が来てやったぜー……ん、呼ばれるのはリンダヴァルト以来。アデルもいる。何かカオス』


 カオスの意味はよくわからなかったが、白い髪をずるずると引きずった眠そうな目をした少女がルネックスの横に並ぶ。

 しかし転生者であるテーラは必至に口を押えて笑いをこらえ、セバスチャンに首を叩かれ、ゴスッという乾いた音を出していたのは……大丈夫なのだろうか。


 そんな楽しそうな空間を無視して、聖神は咆哮をあげた。もう少し周りが見えていれば、ロゼスがうっとおしそうにしていたのも分かっただろうが。


「貴様ら放っておいたらそのような愚かな真似を……もう許さないから」


「許さないのはこっちだよ。今までどれだけの事をしてきたと思ってるの? 僕は貴方を許せるとは思わない」


 ずっと昔から対峙してきた二人は今、命を賭けた勝負にためらわず剣を構えた。




 ―――レディ。

 ―――ロード。


 ―――セット。

 ―――………ロスト。

最後のレディは世界のシステムが操作したものですね。

物語の中で解明されることは多分ミニ小話くらいな物なので、言わせてもらいました<m(__)m>

とはいえ、最終決戦が始まりました。

光のシャルは光らしくない感じがしますが、光です(笑)

アデルが一方的にライバル意識を燃やしていた時代もあったのですが、今は仲間ですね。

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