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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第三章 伝説の最高点//in全世界
57/135

ごじゅういっかいめ 魔王覚醒かな?

 勇者と魔王が出現する前、ルネックス、ヴァルテリア、そしてメルシィアとアシェリアとの決着がつくのと同時のその瞬間。


 中衛率いるシェリア、グロッセリア、ベアトリア、フレデリカも戦っていた。

 相変わらずグロッセリアは姿を消したまま、何処にいるのか全く分からない。フレデリカはストレス発散の道を見つけたかのように無双。ベアトリアは自分で作った武器たちを何本もぶら下げて狂想曲を奏でていたりした。

 ちなみにシェリアは大人しくいつも通り一人ずつじわじわと敵の陣を壊していく戦い方をしていたが、それはそれで帰って鬼畜だ。


「わたくしはリーヤ、天使階級四、ここで、貴方達を殺し―――」


「それだけでワタクシたちを止めるだなんてずいぶん舐められたものですわねぇ、ワタクシの無双を邪魔しないでくださいまし。ただただウザいだけですわよ、吠えることしかできない狂犬は大人しく成り下がっておりなさい!」


 禁魔導書をペラペラとめくりながら蔦が伸びたりドリルが出来たり触手が大量発生したりと忙しくしているフレデリカだが、口は止めない。

 素早く蔦でリーヤを貫くと、他の蔦で他の天使たちを薙ぎ倒す。


 グロッセリアが大体どこにいるかは、全く情けの無い殺し方で十人ほどが一気にいきなり薙ぎ倒されている場所だろう。

 あちこちに一瞬で転移するので、正確な場所はやはり分からないが。

 わざわざ痛みを感じるように殺しているところさすが黒魔導士と言うところだ。


 シェリアの横で、フレデリカを見習ってベアトリアのドリルが進化していく。


「別に、フレデリカを先輩にして見習おうとか思ったわけじゃァッ! ないんだからァッ! ねェッ!」


「……ありますよね。うん」


 ツンデレを叫びながら天使たちを倒していくベアトリア。全てが順調だったと思われるが、突如前衛にて異変が起きる。

 ルネックスから情報を飛ばされたところ、十二女神の出場だ。


「まさか、こんなに早く……フレデリカさん、グロッセリアさん、場合を見て前衛へ動いてください! 私は中衛を任されていますので」


「わかりましたわ。勿論全うさせていただきますの。さぁ、耳を澄ませて静聴なさい、ワタクシの名はフレデリカ―――ワタクシの前にひれ伏さぬ者は、地獄へ落ちるがいいですのよ」


「わかったわ。別にワタシが出れないからって嫉妬してるわけじゃないわよ」


「嫉妬だねぇ? 問題はないよ、中衛はアンタに任されてるんだから、むしろこっちが嫉妬したいくらい重要な役目なんだよ」


「そ、そう。でも別に嫉妬なんてしてないわよ。そんな暇はないし」


 明らかに嫉妬していて、グロッセリアの言葉に嬉しさの表情を浮かべているが、後の言葉も真面目で真実を言っている。

 天が禍々しいほどに真っ黒な光を放っている。魔力を体にまとっていなければ吹き飛ばされるような、風はないが、突風が吹き荒れる。


 メルシィア。シェリアは文献で読んだことがある。英雄の魂をそのまま埋め込まれた、悲劇のヒロインとも終焉の英雄とも呼ばれる少女。

 彼女と渡り合えるのはそれこそテーラたちかルネックスであり―――。


「確かに無いけど、君達は気にしなくていいよ。ボクの言葉を信じな! もうちょーっと情勢が転換すると思うんだ……このまま終わらせてくれるとは思わない」


「テーラ様! どうして」


「どうしてって、こっちの加勢だよ。向こうにはルネックスとか大英雄とかいるし大丈夫! それより中衛が突破されたら困る―――」


 更なる地割れに、血を流すかのように真っ赤な川が通っていく。何だ。テーラすらも警戒をしている。シェリアは少し震えてしまった。

 真っ黒で禍々しい魔法陣に、よく見覚えのある紋章。

 それは、シェリアが闇で嫌われていたからこそ―――自分から調べた、それは。


「魔王再召喚の魔法陣……一体、誰が」


「魔王再召喚かー、闇に関する知識は負けたね、分かってたんだけどなかなか出てこなかった。安心して、これは敵になるやつじゃない」


『皆のもの―――静聴するがよい』


 全てがしぃんと静まり返った。テーラもはっと口をつぐみ、言葉を待った。








 そしてこれは、また時間を巻き戻した後衛たちの現状。彼らは、切羽詰まった前衛よりも緩やかな中衛よりも難しい戦いを強いられていた。

 前から天使が向かっているように見えて、後ろにも大量に潜伏していた。大天使はいくつも天使を生み出せるので、そこが厄介だ。

 だが、ルネックスやシェリアが様々な階級を屠ったのだろう、数は順調に減っていく。


「みんな手を止めないで!」


 フレアルが懸命に呼びかける。前衛や中衛に比べて実力が少し違うアストライア、ルシルファー、ウテルファイヴ、フェンラリアたちチームは、苦戦していた。

 別に天使が強いわけではないのだが、しっかり連携が取れていない。大精霊が居るので付いて行けないというわけでもある。


 だが、努力家チームである彼らは着実にその差を縮めていった。それを天使たちも察しているのだろうか、天使階級二と天使階級三がこちらに来ている。


「裂傷――切り裂く傷は永遠に癒えること無し、果ての末に滅びること確定されたり、その魂を糧に技を放ち、我が力となって見せよ――ライトフラッシュ」


 フレアルの手札の中のひとつ。白魔導士ウテルファイヴと連携を取る魔術のひとつで、及びに二人の戦術級魔術のひとつ。

 ウテルファイヴが引き継ぐように詠唱を繋ぐ。


「心斬——心の傷は永遠に癒えること無し、終わる末にも消えることあってはならず、しかしその魂を糧に我にその力を見せてみよ―――ライとフラッシュ」


 もう、雲に同化するようなことは無い。雲に囲まれた天界ではあるが、ウテルファイヴはもうだらけた表情などは見せなかった。

 世界の巡回をもくろんでいる、とそう言われたときから、だ。


 ウテルファイヴだって英雄なのだ。讃えられ、褒められ、高みの存在だと崇められた。なのに、届かない高み――世界の巡回。

 大英雄ヴァルテリアは巡回を諦めた。だが、ウテルファイヴは諦めたことなどない。


 ―――これは、彼の想いをも込めた一撃。


 ―――これは、彼女のある者への想いを込めた必撃。


 ―――曰く、この攻撃に貫けぬものはないのだ。


「うぁああああぁあああぁあっぁああああああ―――!」


「っぁぁあぁぁぁぁっぁぁぁぁぁああああああああああ―――!」


 ―――どうして諦めなければいけないんだ。


 ―――どうしてこの先にいる彼に頼る必要があるんだ。


「オレ、がっ、諦める、理由に、お前、は、なら、ないッ!」


「私が貴方達を止める! 先に行かせないし死ぬつもりもないもの! 私たちが積み上げてきた訓練を、ひとつも知らないくせに!」


 生まれ持った才能で何を言う。生まれ持って役目が決められた者が何を言う。才能あっても望むものはなく、或いは才能も望むものも何もかもがなく。

 そんな者達の必死な努力が込められた一撃を、どうして超えられてなるものか。


 全てが消えてなくなった。天使など、もういない。階級が定められたあの者達も、跡形残らず消し飛ばされた。

 はぁ、はぁ、と肩で息をする。魔力が現在ほとんどないフレアルに戦闘を続けられはしない。フィリアのいる後衛のずっと奥に行くので、これからは大体フェンラリアに任せることになる。

 ずっと奥には、天使が絶対に入ろうとしない魔界の扉を置いたテントがある。

 ゼウスが視界の範囲内で敵を切り飛ばしていっているのが見える。魔力を全く消費せずに、ただ剣を振るっているだけなのに。


「終わりなさいッ!」


「うるさいなぁ、私の前に立つなよ! 生まれ持ってきたものなんて意味がないだろ! 自分の手でつかみ取ったことがあるの!? 必死な努力をしたことがあるの!? 汗水流した努力の結果さえ、努力そのものさえ、ひとつも分からないくせに! 私達の前に立つなよ! 私達の視界を塞ぐなよ! 努力の意味だってまともに感じたことがないくせに―――!」


「反逆者どもめ、我が剣を見よ!」


「反逆、か。お前らは反逆の意味すらも知ってなどいないだろ―――!」


 吠えるフレアル。初めて聞いた流暢な言葉で話し、眼をカッと見ひらくウテルファイヴは叫ぶ。己の器がここまでだと知った男は、諦めるのと反逆の意味を知っているのだ。

 なりふり構わず剣を振り下ろしてくる作り出された生命体どもに、分かるものか。恐らく吠えた言葉すら、意味を理解していないだろう。


 フレアルが吠え、最後に剣を振って退場する。フレアルに付いて行けないようにその先をフェンラリアがブロックする。

 その瞬間、地が揺れた。雷が降って、紅く染まり始めた地面にたたきつけられる。


「なん、なの……うてるふぁいゔ、これはなにがおきたの?」


「ルネックスさんから情報を貰った。十二女神が出場したらしい。気を引き締めるぞ。―――皆、決して油断するなよぉッ!」


 英雄、その通り名を諦めること無き英雄を象るように作られた、『永遠の焔』ウテルファイヴは剣を混沌の闇がおおる天空に掲げる。

 漆黒の闇に一筋、銀の糸が輝き。

 士気が上がる。

 あるはずのないものがあり、聞こえるはずのないものが聞こえる。魔法陣などあるはずがない。魔王の声など聞こえるはずもない。


 だが、聞こえて見えるものは、確かにそこにあるのだ。

 目を背けるな。じっとそれを見据えろ。その先にある未来を、捉えるんだ。


『皆のもの―――静聴するがよい』


 ウテルファイヴは、そう言う魔王の言葉に口を閉じた。十二女神メルシィアのはなった威圧と同じくらいの闇の威圧。

 思わず意識を手放しそうになるが、英雄として、永遠の焔としてそれはありえない。


『俺、リンダヴァルトと』


『私、アステリアは―――汝らの味方をさせていただこう』














「おいおい、マジかよ、リンダヴァルト?」


 前衛―――ルネックス、ヴァルテリア率いるそこでは、丁度魔王の姿が見えるいい場所だった。メルシィアは突如現れたかつての強敵に唇をかみしめる。

 ヴァルテリアは冷汗を流しながら、かつての相棒リンダヴァルトを見つめる。


「俺からは、師匠ヴァルテリアがなんで消えちまったのか聞きてぇところだが、まあ、今は諦めるか。んで、さっき放たれた魔術に使われた魔力はルネックスとヴァルテリアの方だけ返しといたからな」


 声を戻して、そう言う。ヴァルテリアはこれが終わったあとに質問攻めを受けそうだな、と冷汗を流しながらも頷いたのだった。

 アシェリアにとってもメルシィアにとっても、あれは決着をつける一撃だった。

 それを消された挙句、敵の方だけ魔力を返還され自分たちは無駄に魔力を大量に消費した。これは彼らの最大の誤算だ。


「鬼畜な……!」


「鬼畜だと?」


 言いながら剣を構えるメルシィアを、リンダヴァルトは睨む。


「そもそも世界の巡回を起こさなくてはならないようにしたのはほかでもねぇお前らだろ? 何人苦しんだ、何人死んだ、どれだけの無辜の魂が消えた? お前らが好きなように世界を消費したからだろ。……ふっざけんなよぉっ!!」


 世界を震わすほどの威圧を纏ったリンダヴァルトの言葉に、メルシィアがびくりと震える。確かに、神は世界を無駄遣いしてはいた。


 ―――だけど。


「それは今ここでこの私が負けてもいい理由にはならない」


 救世主であるメルシィアも彼女なりに、彼女の心の内に秘めた思いがあるのだ。それを受け取ったリンダヴァルトは、ふん、と笑いながら、剣を構えた。

ふう、やっと時間が空いたぜぇっ!

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