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僕のブレスレットの中が最強だったのですが  作者: Estella
第一章 伝説の始発点//in人間界
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よんかいめ 限界を超えた訓練の日々かな?「2」本気

 武器を手に入れ、その杖を完全に使いこなし、魔術を使って手の中に収められるようになるまで、ルネックスは一か月かかった。

 完全に自分の武器を使いこなすには普通には一年弱必要だ。そこも彼の才能だろう。

 フェンラリアはもう苦笑い以外することがなかった。

 そして魔術も、本当は魔術師たちが一年かかって取得するようなものを一か月で大体だが取得してしまっている。

 苦笑いどころでは済まない。もはや天才という言葉では表現不可能。


 それはさておき今日は、ルネックスの誕生日である。

 この国の風習では、スポンジケーキにチョコをぬって、《自分の実力向上に関する》願いを言葉に出し、その翌日にケーキを食べるという流れである。

 朝、ルネックスが期待しながらブレスレットに入る。ブレスレットはしっかりと手首にはめてある。

 ―――今日で十三歳。

 少なくとも冒険者ギルドに行けるようになるまで一歩近づいた。


「フェンラリア!」


「るねっくすー! さみしかった! ねえねえきょうたんじょうびだよね!」


 フェンラリアはルネックスが入ってきたのを見ると嬉しそうに腕に向かって飛んでいき、掌にとまった。

 エプロンに三角巾。

 それらを身に着けていた彼女は、きっと料理をしていたのだろう。


「うん、そうだよ」


「だからねっ、だからねっ、けーき、つくったの!」


 今までで一番うれしそうな笑顔を浮かべて、フェンラリアはチョコを綺麗に塗ったスポンジケーキを見せてくれる。

 ルネックスがそれを見ると、きらりと目が輝いた。彼はきっとこれを期待していたのだろう。

 四年前辺りに父がしてくれた最後の祝い以来、自分の誕生日を忘れてしまうほど全く感覚すらなくなり、もうどうでもいいと思い始めていた。


 ルネックスがめを輝かせたのを見て、フェンラリアも嬉しそうにどや顔で微笑む。


「ほらっ、たべて?」


「うん! ありがとうフェンラリア!」


 萌えるくらいの笑顔でフェンラリアがフォークを差し出してくる。

 ルネックスは【創造クリエイト】でおしゃれな机をひとつ、椅子を二つ創り出した。そしてケーキを机の上に置き、二つの皿を創造クリエイトする。

 フェンラリアがルネックスからお手柄を奪いたいと言い出してナイフを創造クリエイトし、ケーキを半分に切って皿にのせる。

 ちょうどいい大きさで、ルネックスが丁度食べれるくらいだ。


「はむっ。……んんん~!? なんだこれ、ほっぺたがとろけるッ!」


「ふふ~ん! あたしのおいしくなーれのおまじない、どう?」


「んん! 最高!」


 フォークでケーキを小さく切って口の中に運ぶうちに、その丁度良く溶けるなめらかさと甘さに食べるのが止まらなくなってしまった。

 この国では翌日に食べるとの風習だが、この村では食べてから願いをかけると真逆だ。他の国や村から移住者が来る場合、真っ先に村長たちが教える代表的な風習でもある。

 ルネックスも村長たちと同じようにフェンラリアにも叩き込んでいたのであった。まあ、叩き込むというよりは一度教えたら彼女がすぐに覚えただけなのだが。


「それでさ、今日はなにをするの? 武器も魔術もちゃんと出来るようになったよね? ね?」


「もう、まわりくどいいいかたしてる! 実戦したいっていえばいいのに」


「てへへ……」


「しかたないね。あたしが護衛してあげるから、じっせんしにいくよ!」


「充分すぎる護衛だよ……」


 たしかにフェンラリアという護衛がいれば、死ぬ心配はまずないだろう。

 しかし彼女は大精霊、その主は人間不信者。ルネックスはいつでもフェンラリアが裏切る可能性もあることを想定したうえで付き合っているのだ。

 最も、フェンラリアにそのような考えはないのだが、ルネックスはどうしてもその考えを改められない。トラウマというものは中々立ち直れないのだ。

 ちなみに実戦というのは、魔物の生息地でもある森で行う。

 なぜ森に魔物がいるのかは言うまでもない。丘や地、人間の生息地帯に魔物が居たらこの世界は破滅寸前だろう。

 ルネックスもきっと十二年も生き続けられず、ロゼスか誰かの盾になってあっけなく死んでいただろう。そしてフェンラリアに出会うこともなかったはずだ。


「もりって、あぶなっかしくない? あそこの森のまものって凶暴だよね」


「スライムだけ狙うから大丈夫だよ」


「ほかのはどうするの?」


「それは、さぁ……充分な護衛が……」


「あー! あたしにまかせるきだ! よろこんでひきうけるけどね」


 引き受けるんかい、とずっこけてしまうようなボケをみせたフェンラリアだったが、彼女自身はこれがボケだったとは気づいていないようだ。

 この国の笑いの笑点だと必ず昇天してしまうほど笑えるものだ。笑点が低いのもそうだが、いわゆるお笑いに相当するものが存在しないからでもある。

 まあ、それはさておき。


 今日行く森は、冒険者たちがやたら滞在し討伐を行うため、魔物がレベルの高いものだらけになり、そのどれもが凶暴なのだ。

 しかし、だからと言って離れすぎた森に行くと自分の力を過信しているロゼス達に遭遇してしまうかもしれない。

 フェンラリアのことは、誰にもまだ言ってはいけないのだ。

 今はこの充分すぎる護衛に頼るしかなく、ルネックスもフェンラリアが引き受けてくれると分かった前提で頼んだのだ。


「んん、あたしがちずを【創造クリエイト】しておくね」


「りょーかい」


 実戦。

 なんて魅力的な言葉だろうか。とルネックスは思う。そんな彼の考えを見抜いたかのようにフェンラリアはそっと口角を上げて微笑んでいたが、夢の実戦に思いをはせている最中のルネックスが気付くことは、やはりなかった。


 地図はこの国すべての地形をコピーすることができる、その主人の滞在地によってコピーされる地形も変わる。まあ、地図能力を持つ者の魔力にもよるのだが。

 フェンラリアは勿論国の地形を全てコピーできるが、大精霊であっても詠唱に結構な時間がかかるのだ。なのでフェンラリアが詠唱をしている間もやはりルネックスはまだ見ぬ実戦に思いをはせていたのだが。

 フェンラリアはもう一度微笑み、意識を詠唱に戻す。

 一方のルネックスは感情も心情も表情も実戦に向かって飛んでいってしまっている。


「かっこいい場面があったらなあ、僕も活躍出来たらなあ、でも無理かな……」


 自分で自分の地雷を踏み、ルネックスの周りを纏うオーラの気温がズーンと下がる。冷気がフェンラリアにも伝わり、しかし彼女はそれを見逃した。ただ、脳内では盛大に呆れている。ルネックスらしいな、とその目が物語っている。


「おわったよるねっくす。妄想と想像はちょっと置いといてもらっていいかな?」


「あー、気づかれてたの、フェンラリア凄いね」


「この大精霊さまをなめないでちょーだい」


 褒められたのが相当嬉しかったようで、フェンラリアはどや顔で言う。ルネックスは思わず吹き出してしまい、フェンラリアにはたかれる。

 正直で、純粋すぎて、こんな心に触れて来ることがなくて、初めての感覚に戸惑っているのはルネックス自身も分かっている。

 けど今はこれでいい、大切なものをくれたフェンラリアに、恩を返すために。例え裏切られるかもという感情が、まだ心の中でわだかまりを作っていたとしても。


「じゃあ、早速行かない?」


「え、もういくの? こんかいは、あたしのてんいスキルでいっしゅんでいこう!」


「へえ、あるんだ」


「ちょっと!? もうちょっとおどろいてよお」


「って言われても、全部のスキル持ってるでしょ、今更驚かないし、ひとつひとつに驚いていたら僕の心が持たない」


「それも、そうだよねえ……」


 自分で納得してしまった、とルネックスはまた吹き出してしまう。フェンラリアにまたはたかれてしまうが、笑点が低いのだから仕方ない。

 大精霊の凄さは理解している。新しいスキルが出るたびにそのスキルが追加されるという、世界のきらきら勇者(?)やユニークスキルで喜んでいる奴らの敵と書いてライバルと読むような者だ。

 それがこんなに無邪気で、近親感を抱けるような者だとは全く微塵も思っていなかったけれど。


「さて! 【転移!】」


 テンション急上昇中なフェンラリアがぐしゃっと地図を掴み、転移魔術を半ば強制的にかける。

 ―――大精霊の力には、抵抗不可能。


 必死に悲鳴をこらえ、何があるかも分からないほどぼやけている景色。

 もちろんこれはフェンラリアのいたずらで「転移スローモーション」というスキルがかけられているからであり、本来は一瞬で着くと感じるはずのものをスローモーションで感じられるのだ。


 これはまたどこかの勇者のユニークスキルらしい。というかユニークと言うのだろうか。ユニークスキルとは、唯一の、その人しか持っていない場合のスキルのことをいうのだが……この大精霊おかたは破格だから規則外ということで、ルネックスはその考えを締めくくらせる。


 なぜなら、森に着いたからだ。


「……ぜぇ、はあ、フェンラリア、ちょっと意地悪すぎないかな? 重力もそのままって……」


「魔術で身体強化すればたえられたよ?」


「僕はそのレベルまで行ってないよね!? そこまで上級者じゃないよ!?」


 理不尽さに思わず絶叫してしまう。

 魔物の森で絶叫、完全に終わりのフラグが立ったと思われたが、フェンラリアを突破できる魔物など此処付近に存在するとは思えない。

 ドラゴンなら彼女と同等くらいに戦えるだろうが、ひょいひょいとドラゴンがそこら辺の村の小さな森に居てたまるか。

 フェンラリアが気配察知をするとともに、ルネックスも杖を出現させる。


「くるよ、かまえてッ! まじゅつのはつどうじゅんび!」


「了解!【―――――――――――――――――】」


 魔術の発動に、ステップを踏んだり準備動作をしたりするときもある。そうすると魔術の密度と速度がより高くなり、的中率も上がるのだが、頼れるパートナーがいない限りそれは使われない。

 時間が必要で、魔物が待ってくれるとは思わないからだ。

 しかし今は十分なほど頼れるパートナーがいる。だから彼は軽快なステップを踏んで発動準備をきちんとする。


「……っ、きた!」


 フェンラリアの知らせと共にルネックスが眼を開けると、そこには数十体のスライムが居た。

 それほど強くなく、ただぷにぷにしているだけなのだが。

 スライムの特徴はその弾力があるからだの中に人間を閉じ込めることができるのだ。

 最下級魔物と称される原因は、自分から行かないと閉じ込められることはないからだ。特に対処はむずかしくない。

 これもルネックスの運8000による効果なのだろうか。


【水弾】


 水弾は水の弾を発射するだけで、実質はメリットデメリットもない低級魔術だが、ルネックスはそれを改造しより小さく、より威力が強くした。

 壁に試しで当ててみたことがあるが、粉砕してしまった。

 杖から無数の小さな水の弾が出てくる。フェンラリアは後方に退避し、ルネックスは前方に進む。


「———」


 思い切り杖をスライムの群れの方に向けると、数百個もの水の弾が中心にて爆発した。

 これで半分が全滅。

 ルネックスが敵だと認識したスライムたちは彼に全速力で向かっていく。しかしスライムは速度が遅いという弱点がある。全速力でも緩んでいてもそう変わらない。


「もう一回! 【水柱】!」


 もっと一際レベルが高い水柱。透明に白が加わって濁った長くしっかりした氷が数十個。

 体力が限界なのも分かっていながら、ルネックスはそれを全力で放出させる。後ろではフェンラリアが心配そうに見つめていたが、彼はそれに気付くことはなかった。

 魔術の改造での威力の向上。まだ魔術に関して疎い彼がスライムを倒すのにはもってこいだが、魔術に疎いからこそ加減ができないデメリットがある。


 水柱は二方面に別れ、それぞれの方面のスライムを消滅させた。しかし同時に、彼のステータスの体力も急速に減っていく。

 魔術の改造は本来初心者などが使えるものではない。初心者の段階で、しかも改造した魔術を二度使った。

 体力が減って地面に座り込んでしまうのもまた、当然のことではあったが。


「はあ……はあ……」


「るねっくす! たいへん! 体力がないよ、今すぐかえろう!」


 スライムが全滅したのが見え、ルネックスは座り込んだ状態から力なく倒れた。

 フェンラリアは彼が倒れた理由を即座に見分け、応急処置で治癒魔術をかけるとすぐに転移魔術を使い、今度はスローモーションなどにすることはなく一瞬で創造世界クリエイトスペースにルネックスを転移させる。

 イメージは医療センターで、フェンラリアは新しい世界スペース創造クリエイトする。


「んあ……」


「るねっくす!? よかった……しばらくじっせんはおあずけだからね!」


「えぇ……わかったよ、さすがにこうなっちゃ何も言えないな」


 その後ルネックスは十分休み、またブレスレットの外に出ていったのだった。


 実戦は切なく終わり、大量のスライムの核、つまり心臓のようなものが森に残された。それは素材ともなり、冒険者ギルドで出される依頼にもたまに魔物の核を集めるものがあるため、そんな冒険者たちの福となったのであった。

 これもルネックスの運8000の効果だろうか。自分に作用していないのが気になりはするが。



 まずあの時、あれ以外に魔物が出なかったのも、ルネックスの運とも言えるかもしれない。狙い通りスライムしか出なかったのも、体力切れでもフェンラリアが治療に向かうことができたのも、運と言える。

 運8000はやはり最強なのであったと、あらためて認識するには十分な一日だった。

お待たせしました。


武器の名前、スキルの名前、人物の名前いつでも募集中です。

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