じゅうななかいめ 国の現状と虚無精霊かな?
朝早くから、ルネックスは国王に呼び出された。
いい加減その威圧溢れる顔にももう慣れており、あとはカレンだと横を見てみると、平気そうな顔でコレムを見つめていた。
何故ルネックスの周りはこんなにも強い者だらけなのだろうか、とコレムは苦笑い。
しかし今日は呼び出したのにもうひとつ理由がある。
「前、私の姉や側近がなんちゃらと言っていたな。それに関する情報などを貴様に渡そうと思う。漏洩は絶対にするなよ」
「はい。分かりました」
コレムの部屋に呼び出されたのはやはりまた非公式だからだろう。
というよりこれは国家機密で言っていいのだろうかとルネックスも迷っていた。
しかし平気そうにしている女子陣をみると何故かこのままで良い気がした。
「今、この国は魔物が繁盛しており、林業や農業、水魔術も減り、生活がままならなくなりそうな状態なんだ。それに合わせて姉と側近の反乱があるのだ」
「そういうことですか。アンドロイド化を持っているお二人さんがあれを呼び出したと」
「うむ。断定はできないが私の中ではそういうことになっている」
「思った……わたし達……役に立てない……?」
「!? あ、あぁ、今日はその話もかねて此処に呼び出したのだ」
コレムは見えていないわけではない。カレンの指にある奴隷の印を。
しかし奴隷でありながら王に明言をしてきたその姿は驚きを隠しきれなかった。
ルネックスもルネックスで驚いてはいるが双方表情に出すことは無い。
フレアルとシェリアはこの場にもかかわらず大声でカレンを褒めている。
「このいずれ起こる戦、どうするかは貴様らに決めてもらいたい」
「僕に任せるのなら、僕は手伝うつもりです。アンドロイド化という能力も気になりますし」
『るねっくす、そののうりょくあたしまだしゅとくできない……』
脳内にフェンラリアがルネックスに語り掛ける。
普通ならば大精霊は新スキル取得に時間はかからない。しかしこのスキルが現れてからもう何か月かが経っている。
ルネックスはこのスキルにもっと興味がわいた。
だからこそ、参加したかった。コレムは純粋に戦いたいだけだと思っているようだが。
「そ、そうか。ならば助かる。それで姉と私の側近の話だが、姉は少し厄介で【姿消し】のスキルを持っているのだ。私は幼き頃何度挑んでも勝てなかった」
「つまり攻撃するときは慎重に、ということですね」
「うむ、それがイチバン勝ちやすい。欲を言うと姉がスキルを使う前に目に留まらぬスピードで暗殺的なことができると攻略できる」
「わたし……出来るかもしれない……姿消し……持ってる……」
レベル:32
魔力:1600
体力:2400
運:72
属性「水、風」
称号「」
スキル「回復魔法LV12、姿消しLV5、真偽判別LV90」
不意打ちでカレンを鑑定してみると、並よりは強かった。運はルネックスが居れば何とかなるため今は無視するとして。
カレンは前方に立ってもいいかもしれない。
「心強い……」
「そう言っていただけて何よりです」
実はルネックスはこれからの事のために信頼を手に入れたいだけだった。
聖神のことはいずれ話さなければいけないとは思っている。
「じゃあ僕らは」
「うむ」
シェリアとフレアルとカレンを連れてルネックスは部屋から出た。
コレムが冷や汗を流していたのは傍にいた彼のお気に入りのメイドしか気付いていないだろう。
こつん、こつん。
廊下を無言で歩くルネックス達の靴の音がきれいに響いている。
ルネックスは何か考え込んでおり、フェンラリアも同じようにしていた。
「よし、街に出よう」
「どうしてそう考えたのは分かりませんが、分かりました」
「あ、そう言えばフェンラリア。ディステシア様怒ってない?」
「ううん、おこってない! おうえんしてくれていたよ」
実はさっきルネックスはフェンラリアの力を借りてディステシアに通信をしていたのだ。
そこで計画などを話し、最後に「神界を敵に回すかもしれない」と伝えたのだ。
緊張して返答を聞く前に切ってしまったのだがフェンラリアが返事を聞いてくれたらしい。
敵に回すと言われて応援してくれるというのは心強かった。
「えっと、何の話をしているのか分からないんだけど? 私にも聞かせてよ」
「あ、ふれある、なんでもないよ! 【転移】」
「え? ちょ、隠し事はやめなさ――――――――」
「フレアルさん、転移中に話すのは舌を嚙んじゃいますよ」
くすり、とシェリアは微笑んだ。
シェリアは約三年前から一緒にいたためディステシアの事は知っているのだ。まああの日から毎日来いと言われていたのだから。
フレアルは急いで口を閉じ、転移が終わるのを待った。
転移が終わると同時にフェンラリアが姿を消す。
「あのっ! ルネックスさんですよね?」
転移した先は街の中心から少し外れたところだが、声をかけられた。
「あ、私エェーラです。こちらはアルゼスです」
「えっと、覚えてないと思うがドラゴンの時に助けてもらったアルゼスだ」
「あ! あの方たちですね? 覚えていますよ」
街の外れと言っても人通りは多い。
中でルネックスの事を知っている者達は陰に隠れてその情景を見ていた。
「助けていただいてありがとうございました! 今日は礼を言いに来たんです」
「あぁ、リィアとウェラは傷が深いからまだ無理そうだが俺達は治ったんだ。だから耐えきれなくてついお礼を言いに来てしまった」
「え!? 治ってからすぐですか!? ……無茶はしないでくださいね」
シェリアが慌てて飛び出し、帰らせるのも悪いため一応注意だけはしておいた。
周りで見ていた者達がわずかにルネックス達に好感度を抱いていた。
フレアルはそれを見て感動して涙を「ドバァ」と流していた。
「僕らはショッピングしながら食べ歩きしたいのでそれでは失礼しますね」
「あぁ分かった。何かあったら頼れよ!!」
そう言ってアルゼスとエェーラは走り去っていった。
見届けたルネックスは「母」性溢れる笑みを浮かべて振り返った。
フレアルが空気を察してルネックスとシェリアの手を引いて表通りに出る。
その時。
「わぁああん! ママぁ……」
泣きながら歩いている子がルネックス達のそばを通り過ぎていった。恐らく迷子だろう。
向こうは裏通りでアッチ側の人も少なくない。
「あ、君! どうしたの? 両親とはぐれちゃった?」
ルネックスが行動する前にフレアルが駆け出し、五歳辺りの女の子が頷く。
その隣には二歳くらいの男の子がいて、その子も泣きだしていた。
それもそうだろう、裏通りは寒くて禍々しい雰囲気が漂っていることが多いのだから。
何故フェンラリアがそこに転移させたのか。
ルネックスとフェンラリア本人しか知らない計画である。
「んん……ママいなくなっちゃった……おねぇたーん!!!」
「よしよし……ルネックス、ちょっと来て! 表通り行ってこの子の親を探しに行かなきゃ」
「うん、分かった。シェリアも来て」
「分かりました!! カレンさんも早く」
「あ……うん……」
女の子と男の子の背中をさすりながらフレアルが先を進む。
「あいつら」のわがままをも手なずけてきたがゆえに子供の扱いが良くなったのだろう。
そしてほかの子供と過ごす間に、子供に愛着が沸いているのだろう。
「みなさーん! この子のお母さん知りませんかー!?」
表通りに出たフレアルはまず叫んだ。
するとこちらを向いた人混みの中から美しい顔立ちをした女性が駆け出した。
「すみませんっ! 私が彼らの母親です。この度は私が眼を離したせいでお手を煩わせてしまいました……本当にすみません」
「大丈夫! 私はね、子供が大好きだから!」
女神のように微笑んだフレアルから出たオーラは、聖女様のようだった。
ほわり、と周りの雰囲気が暖かくなり、皆で女性とその子供たちに暖かい声をかけていた。
満足したように微笑むフレアルとルネックス。
ルネックスはいつも遠くで見ていたから彼女の特性を知っている。だからこれも計画。
「うあああぁああ!! たっ……助けてぇえぇっ!!」
「いやぁああぁあぁぁ!! やっ、やめてぇ」
向こうから男性と女性が走ってくる。それを追いかけているのは子鬼が二体。
冒険者的には弱い魔物なのだが、街の人々にとってはとても脅威がある魔物だ。
ここからはルネックスとシェリアの出番である。
シェリアが杖を握り、ルネックスが短剣を構える。
「【邪気】!!」
「はっ!!」
杖から闇属性の黒い靄が溢れ、ゴブリン一体を包み、靄がなくなった時ゴブリンの姿はもうなく、吸収されていた。
ルネックスが投げた短剣はまっすぐゴブリンの急所に当たり、絶命した。
それを見た町の人々、ルネックス達を監視していた者達さえも歓声を上げた。
彼が望んでいたのは、この情景である。
「よくやったなお前達! 冒険者か?」
「はい。なったばかりなので今のところFランクですが、これから上げていくつもりです」
「それ、ギルドの依頼に入ってたやつだからいいんじゃないか?」
「ルネックス……ギルドの説明書……見ると……横取り……ありだって……」
いつの間にか受付嬢はカレンに説明書を渡していたらしい。
そこは想定外だったがまだ時間があるため横取りすることにした。
ゴブリン二体の魔石を取ると、教えてくれた男性に礼を言ってルネックス達はその場から去った。
その姿を町の者達は見えなくなるまでずっと見ていた。
「こんばんは、横取りです」
「ルネックスさん、こんばんは。ゴブリン二体の魔石、ランク一つ飛びですね」
「あ、それDランクだったんですか」
「えぇそうですよ。説明書に書いてありましたが一つ飛びならありです」
最初に説明しておくものなのではないか、とルネックスは内心でツッコミをする。
というかこのギルドの受付嬢はツッコミどころが多すぎる。
受付嬢は魔石を手に取り、鑑定スキルを起動させ、6500クランを受付に出す。
「こちら報酬の6500クランです。またお待ちしておりますね」
「分かりました、ありがとうございます」
「あ、そうでした。私ユーラです、覚えてくださいね」
もっと話を聞くとユーラがマドンナだということは後程わかるのだが。
受付嬢と客同士でこんなやり取りをするのは珍しいわけではないらしい。
ほくほくになった財布を持ってルネックス達は城に向かう。
「ルネックスさん……とっても疲れました」
「僕もだよ、フレアルとは違って戦闘までしたんだし?」
「な゛っ……私だって活躍したもん!」
「いちばんかつやくしてないのはあたしだよー」
ルネックスのポケットからひょこりとフェンラリアが顔を出した。
……
。。。
「ねむい……」
「そうだねールネックス! じゃあ」
『ルネックス、フェンラリア、フレアル、シェリア、カレン』
城のルネックス質の部屋に冷静で質の無い声が聞こえた。
その声を聴いたフェンラリアは慌てて跪く。
「き、きょむせいれいさま、きょうはどうなさいましたか?」
『……聖神が動く。私たちがどちらの味方をするかは解らない。気を付けよ』
「つまり、その防備をしておけということですか?」
『そうだ。しかし私たちに残された時間も少ない、ラグナログが起こるのだから』
「どうして? 私たちはそれを防いで来れたんじゃないの?」
『違う。すべて聖神の計画内にはまっていた。とにかく君たちが死ぬことはありえない』
「きょむせいれいさま、あたしがんばります! しなせません!」
『フェンラリア……うむ、それでは私はもう行くぞ』
その女の子の声……世界最高峰の精霊虚無精霊の声は去っていった。
世界では大精霊が一番上とされているが、もうひとつ精霊内しか知らない「虚無精霊」がいるのだ。彼女は何にも手を出さないが、全てを知ってすべてを動かすことができる。
ルネックスは一礼をして、また寝ながら計画を練るのだった。
お久しぶりです。
書いていたらデータが全部消えてどうなるかと思いました。死ぬかと思いました。
ディステシア様覚えていますか?精霊を管理している神様ですよ。
ちなみにディステシアと虚無精霊は同格の強さを持っていますよ。