じゅうろっかいめ 奴隷と冒険者ギルドかな?
国王との会見が公式の謁見の間ではなく国王の部屋で行ったのは恐らくあの調査そのものがプライベート的な、非公式のものだったからだろう。
退室してから気付いたルネックスは既に遅かった。
仕方ないし、大事なことでもないため部屋に戻ってからすぐに眠りについた。
さて、ハーライトに確認したが今日は予定も何もない。
自由を手に入れたし、おまけにコレムから思い切り金銭を押し付けられたもので財布がいまとても温かいのである。
そろそろ計画も実行したいし、ハイレフィアとの約束も済ませたい。
つまり奴隷を買いに行くということ。
ちょっと国王から食料を貰っているのは格好が悪いため料理がしたいのだが、この中で誰も料理できる者がいないことに驚いた。
料理系の奴隷を探しに行くことにする……。これは仕方がないのである。
しかし今日はそれが主ではない。
念願の、冒険者デビューをしに行くのである!!!!!!!
「んんー私料理できると思ってたのにな」
「フレアルさん……試しでキッチン爆発させたのはだれですか?」
うっ……とフレアルは引っ込む。
爆発する前提でコレムに許可を取ってキッチンを貸してもらったのだが案の定爆発した。
シェリアはまあまあできたのだが黒焦げ。
フレアルはあろうことか爆発。
フェンラリアは料理のやり方を知らないためパス。
ルネックスは火の加減がとっても悪い。
そしてそれは置いておいて、今ルネックス達の目の前には「奴隷商」と書かれた看板が。今日はルネックスのために開いているようで、ほかの客は入ってはいけないと書かれていた。
ただ奴隷を買いに来ただけなのに随分と豪華な接客の仕方だ。
「あのー! ハイレフィアさんいますか?」
「む! もう来たのか、ルネックス。それで今回はどんな感じの子がいいんだ?」
ルネックスは一旦料理の話を置いて呼びかける。
すると奥からハイレフェアが出てきてルネックス達を中に引っ張る。
机に座って、いざ交渉を始める。
シェリアとフレアルは中を見回して驚いた。何故なら店のホームは普通の家の仕様に変わりはないからだ。
もしも奥に行くのなら、奴隷たちの結構残酷な叫びを聞くだろう。
最も、新入り以外はすでに感情を失って諦め顔をしているのが多いのだが。
「僕はですね。単純に料理ができればどれでもいいですよ」
「ふむ。そりゃまた低級な絞り方だな。新しく入って来た子がいるから見に来な。売られただけで特に犯罪履歴とかもないからよ」
それはまた残酷なことをするものだ、とルネックスはため息をつく。
勿論奴隷を買っても痛めつけるようなことは決してしない。
ハイレフェアは奥の扉を開けてルネックス達に手招きをする。
シェリアとフレアルは覚悟を決めた顔をしてルネックスはに付いて行く。
「へえ、意外に平和なんですね」
「まあむやみに声を出すと私が首をふっ飛ばすしな。ははっはっはっは!!」
「いやそれ笑えませんから!」
ハイフェレア、もしかしなくてもとってもヤバイ奴である。
中では老若男女問わずに奴隷たちが静かにルネックス達を見つめている。
しかしルネックスは見向きもしない。
いずれ彼らは全員解放する気なのだから。ただゆっくりマイペースに生きているだけだ。
ハイフェレアに招かれたのはとある部屋である。
新入りが集まる部屋だ。いわゆる面接をするのだろう。
「ちょっと待っててくれよ。……ほな!」
奥の扉で何か音がして、ハイフェレアがそこから押し出したのは銀色の髪をしたオッドアイの少し大人びた綺麗な少女だった。
新しく入っただけあり真っ白なワンピースはまだきれいな状態だった。
唯一の欠点は無気力状態というだけだろう。
ルネックス達はそこにあった椅子に座り、鎖でつながれた彼女が前に立つのを見届けた。
「んじゃあ私はちょと仕事があるから」
「はい、わかりました。また何かあったら呼ばせていただきますね」
そう言ってハイフェレアは出ていった。
ルネックスはしばらく少女を見つめている。どこから話せばいいのか分からないからだ。
友情的なものに長けているフレアルに任せることにした。
「えっと、まずあなたってなんて名前なの?」
「わたしは……カレン……カレン・フィース……それ以外……分からない」
カレンの深い瞳は一度もざわめくことがなく、その表情は僅かにも動くことは無い。
奴隷とはそういうものなのだろう。
ルネックスは困っているフレアルに頷き、この場の主導権を握ることにした。
「分かった。カレンが何かの精神的な衝撃で記憶を失っていることは分かった」
「……どうして……そんなに細かく……どうせ……わたしのこと……良く思ってないでしょ……」
「いやぁ、僕はね。奴隷を一人の人間だと思っているし、出来る限り敵にも味方にも公平的に接しようと心掛けてはいる、良くも悪くも今の段階じゃ何も言えないね」
これは紛れもないルネックスの本心だが、カレンは半信半疑のようだ。それを見たシェリアが少し慌てる。
「る、ルネックスさんは嘘をつきません! それに色々強さがヤバイですけれども気取らなくって優しい方なんです、信じてください!!」
カレンは必死に訴えるシェリアを見て、ルネックスを見つめた。
フレアルは「一歩遅れた」と言って悔しそうな表情を浮かべた。
「……【真偽判別LV90】」
信じられないほどのレベルであるスキルがルネックスに放たれた。異常も何もないが、カレンの眼に映ったのはルネックスの周りを渦巻く神々しい光……。
詠唱したそのレベルに皆は驚いていたが、ルネックスは何ともない。
フェンラリアのカンストを何年も見てきたのだから仕方がないのだろう。
それにルネックスはブレスレットからスキルを引き出して使うときのみそのスキルはレベルが上限をも突破していてカンストしているのだ。
だからドラゴンを簡易に倒せたのである。
カレンは初めて見るその偽りも黒い感情もない綺麗な心に惹かれた。
「わたしのこのスキルは……人の言葉の嘘を見分けたり……人に宿る悪の心の……濃度を見ることができるの……少ないほど……目に浮かぶオーラは神々しくなる……」
「え? ぼ、僕はきっとそこまででもないだろうな」
「いやルネックスは最強! 私ちょっとマジで緊張するぅ」
「私は無理ですぅ! 本当に鬼族ってこういう時真っ黒ですから!!」
やはり、ルネックスは全く気取らないしシェリアの言う通りだ。
90レベルまでいくと、寸分の狂いもなく見ることができるようになるためスキルの誤作動などということはありえないのだ。
つまりあの神のような神々しい光は本物で、純粋な、いやそれよりも上の心を持っているということになるだろう。
カレンは初めて見たのだ。
奴隷になって色んなところに連れていかれてから見るのは真っ黒な者達ばかり。
そのおかげで90まで上がったのだから感謝すべきでもあるのだが。
「貴方……神様なの……?」
「え? 僕? 僕は神様なんかじゃないよ。そういうのだからきっとシェリアの言う通り神々しく見えたのだと思うけれど、僕が実行しようとしている計画は真っ黒なんだよ」
「けい……かく? その計画が……真っ黒だというの?」
「あぁ。……――――――――――」
ルネックスは椅子から降りてカレンの耳元でそっと彼の計画を話した。
女性陣が羨ましそうに見ていたのはスルーである。
それを聞いたカレンは驚きの目でルネックスを見つめ、まるで救世主を見るかのような目とどうすればいいか分からない困惑の眼を器用に両方浮かべた。
「良い……わたしは貴方なら……受け入れられる……」
「おうっす! どうだ? 買う気になったか?」
カレンが決意をしたところで、タイミングを計らったかのようにハイレフェアが入って来た。
ルネックスがそっと頷くと、ハイレフェアは「金」と言って手を差し出した。
案外この人は金のためにやっているのかもしれない、とルネックスは思った。
二十万クラン。
これがカレンの本当の値段なのだが、興味などでまけてもらった。
今持っている持ち金全てらしい。
本当はコレムにもらったものだけで十四万だったのだがそれも足りなかったようだ。
借りを作る代わりに、今度もまた来てほしいと頼まれた。
そう言われなくても、いずれルネックスはまた来るつもりである。奴隷のいい意味での支配は、彼女のこの店から始めることにしているからだ。
金を置いて行って、ルネックスは店から出た。
「それでさ、カレン。僕らは冒険者ギルドに行くんだけど」
「ん……」
カレンは人差し指についている奴隷の証である指輪をルネックスに見せつけた。
つまり彼女は付いて行くということだろう。
そのイチャイチャシーンとも言える場面を羨ましがって見ている女性陣。
まあ今はどうでもいい。
問題はなぜ奴隷商とそう遠くない場所に神聖な場所でもあるギルドがあるのだろうか。
ルネックスは苦笑いしながらギルドへ入る。
木で作られた建物とテーブル。
真ん中にある受付のテーブル。
端にある依頼書のある掲示板。
休んで居たり受付に居たり依頼を見たりと様々な行動をしている冒険者達。
彼らは何があっても思わないだろう。
この細くて力がなさそうな少年がコレム公認の少年だということを。
「こんにちは。今日は冒険者登録ですか?」
「あぁそうです。ついでに彼女たちとのパーティ登録もしてください」
「承知しました。ギルドカード作成のためにステータス鑑定をさせていただきますね」
受付まで行くと、受付嬢が声をかけてくれた。
ステータスを測るというので偽証しておこうとは思ったがランク上げに影響すると困る。
「【ステータス鑑定LV56】……ッ!? か、完了いたしました」
「あ、はい。ありがとうございます」
受付嬢が驚いているのもルネックスには当然の反応だったが。
彼女は順番にシェリア、フレアル、カレンも鑑定していく。
フェンラリアの事についてはフレアルが早速先程カレンに話していたためポケットからルネックス達以外に姿を消したままポケットからひょっこり顔を出していても驚くことは無かった。
「ギルドカードの作成が完了致しました」
そう言って受付嬢は四枚の金色に光るギルドカードを渡す。
Fランク パーティ登録済み ルネックス・アレキ と書かれているそれはとても綺麗だった。思わず語彙というものが消えてしまうほど美しかった。
「ランクというのはF、D、C、B、A、S、SSという順序であります。依頼を一定受けることでランクが上がります。上がれば様々な権力も得ることができますね。ランクが上がる基準は依頼の難しさなどにもよります。簡単なものをこつこつ積み上げればゆっくりですが上がりますね」
ルネックスはカレンやフレアルのレベル上げのために雑用などは考えていない。
「重要依頼などがありましたらよっぽどなことがない限りBランク以上の者達に依頼します。これで冒険者の権力などはお分かりです?」
「はい」
「ギルドカードについてですが、失くしたらそれで終わりです。冒険者にふさわしくないとみなされてギルドに入る事すらも許されません。抵抗したら監獄行きです」
「うえぇ……絶対になくしません」
「そのほかの事については質問がありましたらお聞きください。ちなみに貴方たちはFランクからのスタートで、一か月に一度は依頼を受けなければならないですよ」
それは「ちなみに」というのだろうか。というツッコミはするつもりはない。
受付嬢はしばらく考え込んだ後言いにくそうに小声で言った。
「ルネックス・アレキさんって国王様のご認定なさった方ですよね?」
と。
ルネックスは案外に庶民の間でも情報ネットワークが凄いのだな、と思った。
舐めてはいけない。
嘘はきっと通らないためルネックスは肯定した。
受付嬢は感動の眼を浮かべ、たたた、と奥のギルドマスター室に向かった。
「これ以上いても邪魔なだけだから帰ろう。カレンの服とかも買わなきゃだし」
ちなみにシェリアの角もカレンには見えるようになっている。
ルネックスは受付嬢の遠ざかる背中を苦笑いしながら見つめ、その場からそっと退出したのだった。
その後カレンの服をかったり、カレンの意識を奴隷から一人の人間に戻したりと感動シーンも交えながら一日はまた終わっていくのだった。
色々とヤバイですね今回。
カレンちゃんは後方応援の役目を持っています。
役割を分担すると。
ルネックス:前方攻撃。
シェリア:前方攻撃。
フレアル:回復係(後程わかりますが彼女は回復スキルを持っています)
カレン:後方応援。
え? フェンラリアがいない?
彼女が戦闘に参加する事なんて後からくらいにしかないですよ。
活躍を期待していますか?
活躍すること「だけ」はたくさんありますよ勿論!!