じゅうごかいめ 調査かな?
右側の側城の中の部屋は数え切れないほどある。
その中でも一番大きいスイートルームがルネックス達の住所となった。
これはコレムからの信頼の証であり、ルネックスにとっての幸せだった。
ドラゴンを倒してよかった、とひそかに思ったルネックスだった。
あの後ハーライトからさんざんあの威圧に耐える秘訣を教えろと言われた。
勿論そんなものはない、と答えると「ありえねぇ」と引かれ気味だった。それも仕方がない、ルネックスも自身の力を少々引いているのだから。
「んん……っく」
フレアルが起床したころは、ルネックスが魔導書を読んで三十分、シェリアが魔術の訓練をして十五分、フェンラリアが魔力の扱い方を練習して四十分が経っており、その起床した時のあくびの音さえも誰も気付かなかった。
しかしそれでもルネックスは完璧にフレアルが起きたことを察知し、本を捲る手を止める。
「フレアル、おはよう」
「あ、フレアルさん起きたんですね! おはようございます」
「わー、ふれあるー、おはようっ!」
ルネックスの挨拶に気付いたフェンラリア達が一斉に挨拶をする。
シェリアは若干遅れていた。
「みんなおはよう! 早いんだねー、あたしは平均これよりも遅いよ」
「んー僕は早く起きたら魔導書が読めるし得だと思うんだけどな」
現にこの国の識字率は三分の一にも満たない。
しかしルネックスはかけるし、読める。
幼いころに両親からスパルタで叩き込まれたのを今でもはっきり覚えている。
フェンラリアは当たり前で読めて書けて、シェリアは読めるけれどかけない。反対にフレアルは読めないけど書ける。
なぜ書けるのに読めないのか、それは本人にも分からないらしい。
ルネックスのようにこれが当たり前で、文字の形は覚えたものの意味は頭で分かっていてしかし言葉に出せないという複雑なことだ、とフレアルは言い訳をしている。
ここにその三分の一の逸材がそろっている、と言うことになる。
どちらか片方できるだけで、国全体から欲しがられて抜擢される可能性もあるのだ。
「私は相変わらず読めないよ、本とか。だからこそ暇なんだよーいつも」
「フレアルはロゼス達と仲良さそうだと思ってたんだけどな」
「バカ言わないで、私があんなのと仲がいいわけないでしょ?」
服を変えながら、フレアルはそう愚痴をこぼした。
もちろんルネックスは本に目を落としていて全く見ていない。
そう言えばロゼスの名を出すのも久しぶりだった。
旅に出てから、辛いことは全て吹き飛ばし、自分にあのスキルをかけたのだから。思い出すとこみあげてくるのは怒りではなくその人格に対する哀れみだった。
「ルネックスさんー、歴史については分かりませんがロゼスが嫌な奴なのは分かっています」
「失礼します、朝ご飯をお持ちいたしました」
「あ、そこに置いといて」
「了解しました、失礼しました」
シェリアが意気込みをしたところで、朝ごはんを運んできたメイドが部屋のドアを叩いた。
ご飯三人分のプレートが机に置かれる。
ルネックス達のことは大臣などコレムの側近には知れ渡っている。
ある程度の知名度もあり、ちやほやされたりも昨日の帰り道していたのだ。
エリューネス内でもルネックスの名は知れ渡っていないが誰かがコレムの信頼を勝ち取って居候をしているというところまでは行き渡っている。
「はぁー、疲れた。僕だってこの計画、やりたいわけじゃないんだよな」
「え? じゃあやんなきゃいいじゃん」
「はは……ちょっといろいろあってね、やらなきゃいけないんだ」
第二次ラグナロクを起こすために、ルネックスはやっている。
起こすため? そんなものではない。
ラグナロクは起きる運命がある、しかし彼女たちの笑顔を守るために。
フレアルはサラダを頬張りながらルネックスに聞く。
国の城なだけあって希少な肉を使ったステーキが三つというのは驚く。
ルネックスはそこまで食べる方ではないため半分をフェンラリアに食べさせる。
口に入れるとともに肉が溶けて溢れた油が気持ちよく口に残る。
口直しに付けてあるサラダは宿なんかよりよっぽどシャキシャキしていて、まるで出来立てをたべているかのようだった。
「そう言えば、僕らが助けたあの四人はどうなったんだろ」
「あーそれならこれむによるともうなおってぴんぴんしてるんだって!」
「怖いですねフェンラリアさん……そんな情報何処で」
「えへへ! またおしえられるときにおしえるよ」
確かにどこで入手しているんだ、とルネックスは苦笑いを浮かべた。
「おい、ちょっといいか?」
部屋のドアがもう一度叩かれ、ルネックスが承諾するとドアが開かれる。
「コレム様からドラゴンがどうして出たのか調査しろとの命令だ」
「あ、そういうことですか。勿論今から行かせてもらいます」
「お前本当に気の利く奴だな、嫌そうな顔すらしないのか」
「え、だって嫌なんてそんなことないんですもの」
「ほぅ、つくづく興味の湧く奴だな。俺が見た中では皆嫌そうな顔をしていたよ」
そりゃ、調べるだけとか嫌だとルネックスは思っている。
この調査が計画じゃなければ、ルネックスだって嫌そうな顔くらいしただろう。
ハーライトはそれに気づかず、驚いてばかりだった。
ハーライトがドアを閉めるとともに、フェンラリアが姿を消す。
「まだ朝食だったのか、しかし意外に早めに起きるんだな」
「えぇ、古郷ではずっとこれくらいに起きていましたから」
ハーライトはまた新しい驚きを手に入れるのだった。
ルネックスは普通に言っているものだが、今は五時半辺り。普通の人が起きるのは人によるが六時以降だったのだ。
フレアルを見れば、それは分かるだろう。
しかしルネックスの場合遅く起きても早く起きてもロゼスに引っ張り出されたりするときもあるため、備えていたと言っても悪くない。
備えているうちに習慣になってしまったということだろう。
実は小さいころに「早く起きなさい」と母に叩き起こされたりもあったとかなかったとか。
ルネックスが思い出をひっくり返しているのを見て、ハーライトは目を細めた。
「ふむ。何やら深い過去がありそうだな。まあいい、俺ぁ任務の邪魔はしたかねぇ、準備が整ったらさっさと行きなよ。コレム様の機嫌を損ねたら首が吹っ飛ぶ」
「そうですね、分かりました」
「ルネックスさんの首は頑丈ですから吹っ飛ばないと思うのですがね」
「私もそう思う! ルネックス最強」
「……僕の首が吹っ飛ぶ前提の話とか怖いからやめてくれる?」
勿論ルネックスは首が吹っ飛ぶとは思わない。
昨日のひと時で彼は既にコレムの性格や行動、人格をすべて読み取っていたのだ。
そして逆にフレアルとシェリアの話が怖かった。
ステーキがなくなり、サラダも食べ終わった頃を見て、ハーライトは声をかけて席を立った。その際に自分の声に返答をしたシェリアとフレアルに驚いた。
昨日までガタガタに震えていたのに今日には話もできるなんて。
ハーライトは驚き、恐怖、興味、好奇心が沸き上がったが、それが見えることは無い。
「それじゃあ俺は行くぞ。精々気を付けろ」
ドアを開き、逆の手で閉める。
元々ルネックスが失敗するとは思わない。余裕の表情で帰ってくるのが眼に浮かぶ。さっきの話も冗談で言っただけだし、思わず自分が抱いている彼への感情に驚いた。
何処までも、ハーライトを驚かせてくれる少年だった。
プレートはメイドが片づけてくれるためそのままにしておいてもいい。
最も国王からの任務があり、片づけているどころではない。
ルネックスはさっさと身を整え、武器を装着する。
ブレスレットに短剣を置いてきてしまったものの、やはりまた恋しくなってしまって昨日の夜またブレスレットから出してしまったのである。
その作業が念じるだけ、とはまた最強なことをこの身で味わった。
「まぁ、またあの森に行くしかないよね? そこまで遠くないし」
現にあのドラゴンが出た森はこの部屋の窓からしっかりと見えている。
「きょうはあたしがちょうさをしてあげる!」
「え? フェンラリアが? どうやって?」
「あたしのすがたもみられないし、てがるでかんたんにすむせかいでふたつのユニークスキル!」
そうだった。
完全に忘れていた。
「ユニークスキル」
普段はひとつしかないスキルの事を指すのだが、フェンラリアが居るとどうしても「ユニーク」にはならないのである。
フェンラリアが全スキル持ちだからだ。
昨日手に入れた恐らくフェンラリアを抜いたらユニークスキルであろうものだ。と彼女は言う。
「本当にフェンラリア……ちょっと怖いよ」
「ふふん! あたしは大精霊だもの、ちょっともこわくなくてどうするの?」
えっへんと胸を張るフェンラリア。
そのままの威圧でも十分怖いというのは伏せておこう。
実はあの時コレムの威圧に耐えられたのは散々フェンラリアに地獄と言う名のスパルタ教育をされたからである。
今となっては感謝しかないが大精霊の威圧は最強だった。
歩くのが面倒くさいため、フェンラリアの転移で森に入る。
ドラゴン出現で封鎖されているため中には誰もいなく、しーんとしていた。
「はぁ……フェンラリア、どうするの?」
「フェンラリアさん、華麗なる活躍をお願い致します!」
「フェンラリア頑張ってー!」
実は頑張る必要なんてなかったのは後から知ることになる。
「【電脳タッチパネル】」
フェンラリアが詠唱するとともに、ドラゴンが出現したその場からタッチパネルが浮かび上がった。
そこには様々なあのドラゴンに対する情報が書かれてあった。
封印が解かれた理由は、何者かにその体を強化され、アンドロイドになってしまい、魔術的な攻撃は聞かなくなってしまいあっさりと封印が解かれたのだという。
他にもアンドロイド化というスキルを持っている人間の者達の名が記されていた。
「えっと【羊皮紙】」
ルネックスがブレスレットに向かって詠唱と言うかお願いをすると数枚の羊皮紙とインクのたっぷり入った羽根のペンが現れた。
封印が解かれた理由と、アンドロイド化スキルを持っている者達の名前を記していく。
国王の姉、リュスタ。国王の一番の側近、ドネス。元宮廷魔術師長、アイナス。その二つ名を「隠れた魔術師」と言われいまだに本名が明かされていない国王のみに遣う者。
一番あり得るのは姉か側近の二人だが、こういうのはいつもありえない者が犯人ではなかったか。
そして聖神の封印を解くのが必要なほどの恨みがこの国にあるのか。
「疑問はいっぱいあるけど、とりあえず報告するしかないんじゃないかな」
「あたしの超鑑定でもわかんなかった。ふういんをとこうとしたひとのね、これむにたいするうらみがつよすぎてえらーがかかっちゃったの」
「大精霊をも超える恨みとか、本当に行き過ぎてますね。魔物化してなければいいのですが」
人間は一定の「黒い心」がキャパシティーを超えると魔物になってしまう可能性がある。
現に大魔王はその黒い心が魔の力を欲してしまい、魔物とまではいかなかったが大魔王の力を手に入れてしまったのだ。
ルネックスは少しだけその力に興味がある。
勿論魔になりたいわけではなく、その力を手に入れながら人間がどうして崩壊していないか気になるのだ。
大精霊の超鑑定をロックするほどの恨み。
これは結構大切なことのためコレムに報告するとしよう。羊皮紙に書き写す。
一息ついて、国王の部屋に転移する。
「ふむ、転移スキルまで持っていたか」
「あ、はい。持ってます。えっと、今回調査した結果ですが、全てこちらにまとめてあります」
ルネックスが羊皮紙を渡し、コレムがそれに目を通すと、驚きの顔を浮かべた。
「こ、これについての詳細は……まだ話せないのだが恐らくは合っている」
「リュスタ様と側近様ですか」
リュスタはコレムの姉だが、何故か親戚と言うことになっている。
そのため王位の継承は許されていない。
コレムは口をつぐみ続け、何も話そうとしなかったためルネックスも諦めた。
「いつか話してくれるまで、いつまでだって待っていますよ」
―――――――死ぬまで。
ルネックスのその言葉はコレムが初めて怖いという感情を知ったその言葉だった。
そしてコレムは話すタイミングを図るのだった。
ルネックスが退室した後、さんざん悩んで、もっと信頼できるようになったら話そうと思った。
この国王なんか変ですねw
国王の姉、国王の側近、ドラゴンの目的は国の破壊!!
何が起こるのか、お分かりですか?