じゅうさんかいめ 個人魔物討伐かな?
口に入れた瞬間サクッと良い音のするポテトフライと新鮮な野菜を使っているのがよくわかるレタスとトマトのサラダ。有名ブランドの牛乳を飲めばどんなストレスも吹き飛ぶ。
日常的には早めの朝ご飯。
それは早起きするルネックスには慣れているし、シェリアも同じように早起きしていた。
問題はフレアルである。
起きてから何十分も経っているのに未だ眠そうな顔をしている。
とりあえず体を揺すって眠気を吹き飛ばすことにした。
「るねっくすー、しょっぴんぐのつぎはあたしのかつやくだよねー!」
「フェンラリアが活躍したら世界が滅ぶからやめようね?」
「わかった! おくぶんのいちでちからをだすね♪」
個人魔物討伐。
冒険者ギルドなどというものは全く関係なく、いかなる場合でも責任は勝手に行動したルネックス達のものになる。
冒険者登録さえしていなければギルドには関係ないのだ。
その分討伐ランクというもので縛られることがなく自由なのだ。
甘いと言われたのでこういうふうに色んな場面で鍛えようと思う。
「あたしさいきんしゃべるのもぜんぶひさしぶりだからさー」
「……都会の森、消したらだめだよ?」
「もうルネックスさんたら、フェンラリアさんを何だと思っているのです?」
そう言っているもののシェリアの額からは冷汗が流れている。
フレアルはようやく眠気が冷めたようだ。
「もうひどいな~! あたしにんげんのじょうしきちゃんとまなんできたんだからね」
「え」
ルネックスは眠りが浅い方だ。時々夜中に何かを書く音が聞こえたのだが、きっとフェンラリアがブレスレットではなく自分で集めた知識を羊皮紙に書いていたのだろう。
これはルネックスも自身の「やりすぎ」を認めざるを得なかった。
「偉いね、フェンラリア……僕も言いすぎたよ。今日は頑張ろうね」
「る、るねっくすはわるくないよ! あたしはこれが、この日常がしあわせだから、あたしはがんばるんだもん、るねっくすをかなしませたりしないもん、そんなひょうじょうしないで」
ルネックスは思い出した。あの時フェンラリアが語った過去を。
「ふふ。僕は、誰も傷つけないと決めてるんだ。それが僕の「楽しい」なんだよ」
そう言って微笑んだルネックスを見つめて、フェンラリアも笑った。
フェンラリアの中でとある確信が生まれていた。
(あたしがやっぱりるねっくすのいちばんだね!)
という、女としての初めてのライバル念だった。静かに、それでいて強く燃える信念と愛情。
「さ、私も目が覚めたし早く行こう?」
「うん。……ご飯も転移されたし、早く行った方がいいね」
この転移システムもいい加減見慣れたものだ。今のところ苦笑いである。
女子達は服装が乱れていないか見直し、そこまで遠くない討伐スポットである森を目指す。地図は昨日宿の男性から入手した。
歩いて十分、フレアルがへばった。
元々貴族らしく扱われたりしてきたため長く歩くことはめったにないのだ。仕方ないと割り切り、ルネックスは何とかできないか考える。
「そうだお姫様抱っこ」
「却下!!!」
「え」
ルネックスさんのお姫様抱っことか幸せじゃないですか~! とシェリアが叫んでいる。しかし誰も気付かなかった。
「却下」と言ったフレアルの頬がほんのり赤くなっていたことに。
フェンラリアすらも気付かなかった、フレアルの心情に。
「あー見えてきた。フレアル、もうちょっとがんばろ」
「う、うん、頑張る! 私だって負けないんだからね」
「え? 何の話? ちょっと待って!!」
そう言ってフレアルは一気に走りだした「私も負けません」と言ってシェリアまでもが猛スピードで町の中心を駆け抜けていった。
目的の森はもうすぐ。
走っても悪くないのではないかと思い、ルネックスも走りだした。
ちなみに二人がなぜ走りだしたのか、というのは全く分かっていなかった。
「待ってー」
と。
そう言いながら速度が速すぎて二人を越してしまったという。
「……ルネックスさんは最強なのです」
「私、完敗だよ」
シェリアとフレアルはすっかり戦意喪失し、がっくりと肩を落とした。
いつの間にかすでに森についており、冒険者たちが戦っている声だけが聞こえる。
街の一帯から離れており、周りに人は冒険者が多く、それすらも少ない。
「あれ……そう言えばこんな近いところで戦っていいのかな?」
「ううん? さいていでも何キロかははなれないとたたかっちゃだめってきまりがある」
ルネックスの問いにはフェンラリアが答えてくれた。
すると中から悲鳴が聞こえ、大勢の冒険者たちがどっと出てきた。
多分このうちの誰かがジョークで言ったのだろう。
「みろ! 人がごみのようだ!」と言う言葉が此処一帯全体に響いた。
しかし相手にする者はいない。
親切な冒険者がルネックス達に駆けつけ、今の状況を説明してくれた。
「出るはずのないドラゴンが出ているんだ、お前も早く逃げた方がいいぜ」
そう言って彼も全速力で去っていった。
甘かった。
この一言以外にルネックスが言うことは無かった。
どんな予定外の出来事が起こってもいいように計画すらせずに。
もしも強い魔物に出会った時のためにもっと準備をしないで。
のこのこと森へ出てきたということに。
地図だけじゃなく、この森そのものも詳しく調べなければいけなかったのに。
「きゃぁああぁあああ!! リィア! アルゼス! ウェラ! ……がはっ!」
森のそう遠くないところから、女性の声が聞こえた。
「行こう! 助けないと」
「るねっくす……ブレスレットのかくされたしんののうりょくをおしえてあげる」
「え、なに?」
「これは、すべてのぞくせいとすきるのデータをもってる。るねっくすはたくさんべんきょうしてるからたくさんのすきるとぞくせいしってるでしょ? これは全部ひきだせるんだよ」
初めて知った、ブレスレットのとんでもない能力。
小さいころからすることがなく、魔導書やらの本を読み漁っていたルネックス。
使えなくてもスキルや属性に対しての知識なら自信があるほどにある。
彼が知らないだけで実際は国家の魔術師である宮廷魔術師のトップに当たるくらいの知識を持っているのだが。
「使って、いいんだね」
「うん。きょうだけはあたしもちょっとはぜんりょくをださなきゃ」
ドラゴンの一個上が精霊なのだ。
そのためフェンラリアも全力の半分以上を出さないと勝てないだろう。
フェンラリアの全力。
恐れていたことが、本当にまさか使われるとは。
それもこの街にきてまもなくに使うことになるとは。
「じゃあ早く行こう!」
ルネックスの掛け声とともに、三人は森の中へ駆けていったのだった。
彼の手首にはめてあるブレスレットが少しだけ振動した。
周りで見ていた冒険者たちは「ひゅー」「行けー」と応援し、それがさらなるルネックス達の戦闘への力となった。
「んあぁ!?」
入ってすぐ、そう遠くない場所に見たこともない形の、アンドロイドのようなドラゴンがおり、その下で三人のほどが重傷を負い、その前で三人に向かって名前を叫び続ける女性はドラゴンにも構わず諦めた表情をしている。
驚いてルネックスは情けない声を出してしまった。
「な……あのどらごんはね、竜族のぼす……聖神がつくりだしたものなんだよ」
「えぇ!? ななな、何でそれがここに」
「はるかむかしに聖神はこいつをあきらめてすてちゃったんだけど、ついでにふういんまでしたのにどうしてでてきたんだろ」
詳しくはフェンラリアも分からないようだが、この事件も聖神が一枚噛んでいるようだった。
とりあえず助けることを優先する。
ブレスレットの力を引き出し、【高速歩行】、そして並んで使っているのは【詠唱破棄】。
詠唱が必要なくなり、移動も早くなるという二つのスキル。
二つ同時に使えるのは単純にルネックスの魔力値が高いからである。
「よぉし! あたしはたたかえないからこうほうで~」
「ってフェンラリアさん出てきていいんですか!?」
ドラゴンに向かって突っ込んでいるルネックス。
いつの間にかフェンラリアが彼のポケットの中から出てきて応援体制になっていた。
フレアルもシェリアも驚きしかなかった。
姿を現してはいけないはずのフェンラリアが出てきてもいいのか、と。
「ん? あたしはすがたをけせるスキルをもってるから」
さすがはフェンラリア、シェリアとフレアルは呆れた。
話している場合ではない、シェリアは先に応援に向かった。
「あー! くっそ先越された!」
ライバル心が人一倍のフレアルもそれに付いて行き、猛スピードで追いかける。
二人とも知らない。
彼女らをはるかに上回るライバル心を静かに燃やしている者がいることを。
フェンラリアはルネックスを見つめて、聖女のように暖かい微笑みを浮かべた。
「うりゃぁ!!」
一方のルネックスはほのぼのとはいかなかった。
はるかに大きいドラゴンを前にして、【聖剣召喚】スキルを使ってやっと攻撃が届いている。
ブレスレットのおかげで体力も威力も人間の範疇を遥かに超えているのだが。
ジャンプしたり、大きく避けたりとなかなか難しい大きい動作が少し疲れるのである。
「くっそ……【身体一部分破壊】」
これはチート中のチートとも言えるスキルだ。
使おうと思えばもっと強いスキルもあるのだが今とっさに思い付いたのがこれだ。
ドラゴンの羽がもぎとられ、奇声を上げて倒れる。
後ろでは女性がぽかんと口を開けてそれを見つめていた。もちろん今のルネックスの動作の速さは女性の眼に映るほど遅くはない。
ときどき吹く重力を違反した風がそこにルネックスがいるということを感じさせた。
「できれば殺したくないから、引き下がってほしい」
聖神が作り出したというのなら、話すことくらいできるはずだ。
『……それは無理だな。聖神が私を放ったのだから命令には違反できない』
「なっ!? 聖神が……何をするために」
『この村を壊すために、と。そう言っていた』
これがもしルネックスを求めて行われたことなのならば。
大きな罪悪感に襲われて、ルネックスはこのドラゴンを始末することを決めた。
ドラゴンがルネックスに時間を与えたことそのものが間違いだったのだ。
この時間で、彼は覚えているスキルをすべて思い出し、使えるものを選び抜いた。
できるだけ、自分のこれからに有利なスキルで。
「ふふ……【身体一部分破壊】【王者の威圧】【聖剣意識行動】」
その時にシェリアの護衛が駆けつけたものの、その攻撃は護衛が必要ないということを意味していた。
まず抵抗できないように手を破壊し、威圧で動けなくする。次に召喚した聖剣を意識あるものにし、それをドラゴンの頭上から落とす。
そして聖剣をブレスレットの中に吸い込ませる。
これらをすべて終わらせた頃には、傍には人間以外、魔物の気配など微塵もしなかった。
上空で、それを見ていた者がいたことを、ルネックスは知っていた。
……
。。。
ハーライト・フェリアッサイド。
彼は生まれつきで天才的な才能を持っており、十歳の時にそれはピークとなった。
宮廷魔術師というものは栄光的で、国王の側近ともいわれるものだ。
それに最年少の13歳で招待されたのだ。
ハーライトの心情は最高だったのだろう。
しかしそれから五年後、17歳の時、そして彼が副団長まで登りつめたとき。
街から一番近い森にて、来るはずのないドラゴンが出現したのだ。
「くっそぉ……」
ハーライトは自信の風魔法でそれを上空から見つめながらも、助けることができずにいた。
膝が笑っているのだ。
幼き頃から天才と呼ばれ続けてきた彼が、初めて自分の手に負えないことがあったのだ。
「情けねぇ……俺が……こんなことに……」
しかし彼は見たのだ。
天才ハーライトなんかよりずっと天才的、いやそれでも生ぬるいほどの少年を。
見た感じ自分とは変わらないのに、そのとびぬけた才能を。
ハーライトは、彼だけは敵に回してはいけない、仲よくしなくては。
そう、人生初めて思ったのである。
地上に降りる詠唱をして、ゆっくりと降下する。
その目的地は、ルネックスの居る地点であった。
奴隷、オッケー。
信頼、オッケー。
あとは支配だけになりましたね……チートすてきです。
ENJOYしてますね……もう一作とは違って。
さて、ちょっと長くなりましたが楽しめましたか?
武器の名前、人物の名前、スキル・属性の名前いつでも募集中です。