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地獄転生  作者: めるーん
贖罪編
16/19

贖罪の一歩

「なぁ、君は僕を恨んでいるのか……?」


 富樫圭悟(とがしけいご)は柳田に話しかけた。


「当たり前だ。聞かずともそのくらい分かるだろう」


 何を当然のことを、と言いたげな顔で柳田は答えた。


「じゃあ、どうすれば許してもらえるのだろうか?」

「俺はお前を許すつもりはない」


 即答だった。


「死んだら、許してくれるだろうか?」

「死をもってしても(あがな)えんよ、お前の罪は」


 死に贖罪を求めるも、それすら駄目だと言われた。


「罪悪感で……心が押し潰されているんだ」

「だから?」

「償えなくてもいいから、償わせてくれ」

「意味が分からん」


 どんどんと大きな音が部屋の外から聞こえた。


「クソっ……もうここまで罪人共が来たのか……!」

「君の仲間たちはどうなったんだ? 戦っているのか?」

「何故お前に心配されなければならないんだ!」


 柳田は声を荒げた。そして富樫圭悟と目を合わせる。


「……皆、戦っている。死んだ者もいるだろう。全部お前のせいだ」


 一言一言、怒りと恨みを込めて富樫圭悟を非難する。



「おーっと、ここが1番奥か?」



 どかんと音がして壁が崩れた。


「死に晒せ!」


 壁を壊した男へ向かって柳田が力を放つ。


「え?」


 完全に不意を突かれた男は、突き上がる光の壁に両断された。

 

「なぁ、僕が戦ってもいいだろうか?」


 富樫圭悟は柳田に問うた。それはもはや懇願であった。


「何故、お前が戦うんだ!?」

「贖罪……させてくれ」

「そんなことで罪が贖えると思っているのか富樫圭悟! 何度も言うが俺はお前を絶対に許さん」

「それでいい……それでいいから……戦わせて欲しい」


 富樫圭悟の意外な反応に柳田は首を傾げる。


「お前は何を言っているんだ……」

「ここに来た罪人を全員殺して、そして砂漠を天使から取り戻したら許されるから……」

「……だからお前は許されないと何度言わせれば」

「違う、僕が許すんだ……僕が僕を許すんだ……」


 追い詰められた人間は何かに籠る。

 それは自分の部屋であったり、自分の心の中であったり。

 では、そこすらも自分を追い詰めるとしたら。

 今の富樫圭悟はまさにこのような状況であった。内からも外からも自分を責められている。

 だからせめて内からは責められないように。自分だけは自分を許せるように。


「許されなくていい、だから戦わせてくれ。地獄を取り戻させて……」

「…………自己満足か」


 柳田は富樫圭悟の鎖を光の壁で切り裂いた。

 もし地獄が戻るなら――それは柳田の願いである。

 富樫圭悟を利用することでそれが成るならと考えたのだ。

 しかし、理由はそれだけではない。


「力を使ってみろ、富樫圭悟」


 富樫圭悟は言われるがまま力の発動を念じた。

 

 光ではない。影が集まり剣を形作る。

 実体化した剣の刀身は錆ている。


「……今の僕らしい」


 それを見た富樫圭悟は思わず苦笑した。


「その力は精神的なものに大きく影響される。今のお前は恐らく相当弱い」


 柳田が富樫圭悟の鎖を切ったもう一つの理由がこれである。

 今の富樫圭悟に力は無く、最悪裏切られても損害は少ない。


 最後に、と柳田は富樫圭悟に手をかざした。


「お前の心臓に光の壁を展開した」

「……すると、どうなる?」

「俺が死んだらお前は死ぬ。さらに、俺が念じてもお前は死ぬ」

「……僕の死で罪は贖えないんじゃなかったのか?」

「これは脅迫だ。お前が少しでも怪しい動きをしたら俺はお前を殺す。お前は罪を償えないまま死ぬんだ。誰にも許されないまま」

「それは……嫌だな」




「どうすれば……地獄は戻るんだ?」

「まずはここに入ってきた罪人を処理さねばならない」

「じゃあ、そうしよう」


 富樫圭悟と柳田は部屋から出た。


「あ、」


 早速、誰かに遭遇する。


「あれは君の仲間か、それとも僕と同じ罪人なのか?」

「罪人だ」


 富樫圭悟が錆びた剣を振ろうとしたとき、既に光の壁が罪人を両断していた。


「僕に殺させてくれないか、そうしないと僕は僕を許せないままなんだ」

「……お前は、本当に醜悪だな」


 もはや富樫圭悟は第三者からの許しを諦めていた。

 自分に許してもらうための行動をただひたすらに求める。そんな彼の姿は傍から見れば醜く映る。それはどこまでも自分勝手な行動故に。


「罪人は全て僕が殺す。そうすれば自己満足出来るんだ……」

「お前も罪人だぞ」

「自殺をしちゃいけないって言ったのは君だろ。それに自分に許されるまでは自殺もしないよ」


 柳田は彼を解き放ったことを若干後悔しつつ、道を進んだ。


「中々罪人がいない……」

「まだここは最深部だからだ。ホイホイと入ってこれるような構造はしていない」


 そんな話をした矢先、人影を前方に発見した。


「今、人がいたような……。あれは罪人?」

「分からん。少し待っていろ」


 そう言った後、柳田は大声を出す。


「私は柳田です! お仲間の方ですか!」


 ……返答はない。


「やっぱ罪人では?」


 富樫圭悟を無視して柳田は叫び続ける。


「柳田です! こちら側の人間なら応答して下さい!!」


 ……やはり応答はない。


「罪人でしょう? 僕ちょっと行ってきます」


 急に敬語に戻った富樫圭悟は前方の人影に向かって駆け出した。


「何故敬語に戻ったんだ」

「こっちの方が慣れてるので」


 走りながら富樫圭悟は返答した。

 彼が敬語に戻ったのは精神的に安定してきたからである。それでも罪悪感に苛まれている状態であることには変わりはないが、贖罪の機会を与えられたことで彼の精神も少しは楽になったのだった。

 もっとも、その贖罪は自分に向けたものではあるが。


「どこですか! どこにいったんですか!」


 消えた人影に向けて富樫圭悟は叫んだ。


「あ、あの……」


 か細い声で誰かが答えた。女性の声である。


「もしかして、富樫圭悟さんじゃないですか?」


 女はオドオドとしながら富樫圭悟へ話しかけてきた。


「罪人ですか?」


 彼はそんな女の問いも無視して自分の問いを押し通す。


「へ? ま、まぁ地獄にいた人間ですけ」


 そこまで言いかけたところで富樫圭悟は錆びた剣を女の胸に突き刺した。


「あ……ひっ」


 声にならぬ声を上げ、女は倒れた。


「今、肩の荷が凄く軽くなった気が……」


 富樫圭悟は肩をぐるぐると回す。


「おい、殺したのか」


 柳田がやってきた。


「はい、殺しましたよ。僕は少し許されたんです」


 女を突き刺した血まみれの剣を空――正確に言えば天井である――に掲げ、清々しい表情を浮かべる。

 

「……」


 柳田が彼について特に責めないのは、その被害の対象が罪人だからである。


「さぁ、もっと進みましょう。罪人を殺しましょう。そうしないと僕は許されない」

「もっとも俺はお前を許さないがな」


 柳田がそう言うと富樫圭悟は苦痛に歪んだ表情を見せた。


「分かってます。分かってます。僕を許さなくてもいいです。僕は許されなくてもいいんです」


 自分自身に言い聞かせるように富樫圭悟は呟いた。


「さぁ、早く進みましょう。僕は早く僕に許されたいんですよ」


 

 彼は歩み出した。自身を救うために。


 

 




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