1日目「ぐるぐる回って」
その日ぼくは夢を見た。
なんの夢だかは覚えていないけれど目が覚めた瞬間飛び起きて冷や汗が止まらなかった。
ああ嫌な夢だった、手の甲で額から落ちる汗を拭ってなにか飲み物を飲もうと布団を出た。
ふと時計を見ると丑三つ時。非科学的なことどころか神様だって信じてはいないけれどなんだか気味が悪くてさっさと喉を潤して寝てしまおうとキッチンへ少し早足で向かった。
この家は一軒家で、ぼくの部屋は二階の一番奥、その隣が今は使われてない自立した社会人の兄の部屋、階段の手前は両親の寝室。階段を下りたすぐの部屋は和室の客間でそれを通り過ぎると風呂とトイレ、そしてその奥がリビングでキッチンだ。いつもいるはずの両親は結婚記念日とかで旅行に出ている。本当ならぼくも大学の友人と朝まで遊びに、なんて予定を立てていたのだけど急に全員に予定が入ってしまいおじゃんになった。
古い家だからギシリギシリと歩くたびに歪んだ音が響く。いつもなら気にも留めないのに今日は酷く耳障りな音に聞こえた。
階段を下りようと電気をつけると、一瞬、階段下になにか影が見えた気がして喉からヒュッと音が漏れた。いやいや、きっと気のせいだ、一度大きく深呼吸して目を瞑って、もう大丈夫寝ぼけていただけ、と自己暗示。パッと目を開くと、階段下の隅で何かがニヤァと笑っているような目だけが見え思わず悲鳴を上げそうになったのだけどそれは一瞬で消えてなにより声を出してはいけない気がした。
声を出した瞬間あれはぼくに向かってくる、そんな予感が強くした。いいや、予感じゃない。足がぶるぶる震えてろくに動けない中ぼくはさっき見た夢をじわじわと思い出していた。夢の中でもぼくは悪夢に飛び起きて飲み物のを飲もうと下へ降りた。すると僕が歩くたびにひた、ひた、とぼくのではない足音が聞こえるのだ。背筋がぞわぞわして泣きそうになりながら恐る恐る後ろを振り返ると首を三十度ほど傾けて顔を掻き毟りながらニヤァと笑っているやけに綺麗で、でも今まで見た何よりも恐ろしい、この世のものじゃない女がじりじりとぼくの方へ近づいてきてぼくは動けず固まって、そのまま女はぼくに張り付きそうなほど近くまでぼくは思わず悲鳴を上げた。するとガザガザとした低く掠れた声で女はぼくに囁いた。
「あなたはだあれここはどこ」
そのままぼくは女に捕まる。そして…
絶対に、絶対に下へは行ってはいけない。震える足を無理やり動かして自分の部屋へ走る。
きっと朝になれば消える。大丈夫大丈夫、そう言い聞かせて部屋へ飛び込んで、ふと自分の部屋の角に目がいった。
女が、ニヤァと笑っていた。
ハッと目が覚めたときぼくは布団の上にいた。
よく思い出せないけど嫌な夢を見た。
僕は飲み物を飲もうとキッチンへ向かう。