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後悔
「ひょっとして、田中くんですか?」
そう少女は言ったが残念ながら僕は田中ではない。
僕は、無表情のまま首を小さく横に振った。
「それはごめんなさい。部活動体験ですよね?どうぞ着いてきてください。」
少女は、僕と一度も目を合わせることなく早口にそういった。
一度流れに乗ると、なかなか逆らうことは難しい。流れるプールで逆走して泳ぐ勇気があればと
思ったが、そんな力と精神はあいにく持ち合わせておらず、仕方なくこの流れに乗ることにした。
僕はただ、朝、その少女が何を発したのかが気になっただけなのだが。
よく考えれば、見知らぬ人間に「今朝の独り言はなんなんですか?」なんて聞く勇気は
流れるプールを逆らうよりも、さらに難しいことではないか。
ああ、またこんな無駄な思考に時間を費やしてしまった。
その無駄な思考がこんなにも無駄な結論を出してしまったのだ。
僕とその少女しかいない旧校舎には僕たちの足音が響く。
旧校舎の一階、一番奥にある教室。
そこには達筆な字で
和歌創成部
と書かれている。
「ここです。」
振り返りながらそう言った少女には夕日が後光のように差していた。