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City   作者: clea
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第1話

                   

                -4th ZERO-

 

 日が落ちる。俺は少し前に付けたばかりの煙草を消して、頭の中に浮かぶ取り留めの無い追


憶を打ち消した。人を殺めるのは非道だと、誰かが言う。だが俺は他人の言うことを、頭から


飲むようなことはしない。それはこの世界で生きるには必要な行為だ。


 何年もこの世界にいると気がおかしくなって、いわゆる新聞沙汰の事件を起こすようなやつ


もいる。どんな人間でも心の最下層には罪の意識を持っているものだ。だからそれが知らない


内に心の中で働いて、頭で考えていることと、心の働きが一致しなくなることがある。そうす


ると気が狂う。特にこの世界に居座っている奴等は、そういった状況に陥ることが多い。俺が


そういった状況に陥らないのは、殺しをやめたこと、そして俺に殺しを止めさせた人間のおか


げである。俺はいつものように―だがいつもより長く―そいつのことを考えていた。


                    2

 俺はいつものように引き金を引いた。恐らくこの―人を殺める―瞬間俺は、無表情なのだと


思う。見下ろした光景が止まって見える。世間では偉大と歌われている政治家が、苦悶の表情


を浮かべることもなく倒れた。悲鳴はいつも遅れてやってくる。それはこの時も同じだった。


振り向くと、何故か悲しさが胸に残った。


 いつものように仕事をすませると、雇い主に電話を掛ける。相手の話は俺の耳を通り抜けて


いくが、別段気にすることも無い。何故ならそれが日常だからだ。部屋に戻ると、煙草に火を


つけてソファに深く腰掛ける。吐いた紫煙が広がっては、消えた。いつからかはわからない


が、俺は心を失っていたようだ。その証拠に、この時俺はもう何も感じていなかった。


 それから1週間が過ぎた。この仕事は一回で報酬がそれなりに入る。だからしばらくは仕事を


することはない。といってもそれでは唯単に何もしない時間が増えるだけなのであるが。別に


それを悲観することはなかった。その日は雨が降っていた。ドアの向こうから、水で濡れた床


と靴が立てる耳障りな音が微かに聞こえていた。気にせずに瞼を閉じると、いっそうソファに


深く身を委ねた。しばらくそうしていると、もうドアの向こうから耳障りな音は聞こえなくな


った。だが。代わりに普通は聞きなれているだろうが、俺は聞きなれていない、無機質なイン


ターホンが突然部屋に鳴り響いた。瞬間的に身構えると、俺は不気味に光る、俺を守る術を手


に取った。音を立てずにドアの近くに忍び寄る。


「誰か、いらっしゃいませんか。」


女の声だ。なんてことはない。俺は手に握り締めた鉄の塊を懐にしまうと、また音も立てずに


元のソファへと戻った。


「誰か・・」


一体誰だ?このフロアには俺しか住んでいないが、あまり家の前にたたずんでいては怪しまれ


るのではないか。そうすると、俺にも不都合だ。声は大きくないが、規則的に聞こえ続けてい


る。世間では今日は休日なので、他のフロアに住んでいる人間がドアの前の女に気づくことが


あるかもしれない。感じたことのない嫌悪感を身に纏って、俺は再びドアの前にやってきた。


「誰だ。」


一瞬ドアの向こうが沈黙した。しかし直ぐに


「開けてください。」


今までにない強い声が返ってきたので、俺は懐を確かめた。


「誰だ。と聞いてるんだ。」


「開ければわかります。だから・・」


何故俺はそうしたのか、今になってもわからないが、俺は返事をせずにチェーンをつけたまま


ドアを開いた。俺の目に美しい女が写る。


「ちゃんと全部あけてください。じゃないと話ができません。」


「これでも話はできる。」


「開けないと大声を出しますよ。」


強情な女だ。その瞳は確かに強いが、身体は華奢である。肩にかかる髪が、品のある雰囲気を


際立たせた。


俺はまた驚くべきことに、チェーンをはずし、ドアを開けた。


入って来た女が後ろ手にドアを閉める。


「誰だ?」


女は黙ったままだ。


「おい・・」


その瞬間だった。



咄嗟に鋭い殺気が俺の脇をかすめる。一瞬で身を後ろに引くと、女の手元に視線をやった。そ


の手にはしっかりと、冷酷に光るナイフが握られている。女は体勢を崩し前のめりになった


が、困惑する俺を尻目に体勢を立て直すと、再びそのナイフを俺に向かって突き出した。俺は


それを横に避け、冷酷な手を蹴り上げる。ナイフが手から落ち、重い音が響く。一瞬もな


いほど少し、世界が沈黙した。俺は咄嗟に懐から手に銃を収め、それを女に向けた。


「何のつもりだ。」


低い声で、そう女に問いかけた。女は銃を恐れてはいないようだった。


「あなたは私の父を殺した。」


何のことかわからなかった。直ぐに、女の口からあの偉大な政治家の名前がこぼれる。


「恨みがあったわけじゃない。」


「だけどあなたは殺した!父を・・」


「俺は道具だ。命令した人間は別にいる。悪かったとは思っている。だが、俺を殺したところ


であんたの気は済まないと思うぜ?」


何故悪かった、と女に謝ったのかはわからないが、もしかするとその強い瞳に引き込まれた


せいなのかもしれない。




女はなすすべもなく、嗚咽を漏らして、崩れ落ちた。



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